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第28話 結界魔法か封印か

結界の修行は外でやるものだと思っていた。

けれど師匠が取り出したのは、五色の石を入れていたあの木箱だった。


箱をテーブルの上に置き、蓋を重ねる。


「この箱に結界を作って、蓋を開けられないようにする」


「はい」


「結界魔法は光と風の応用が基本だ。教本は読んだな?」


「はい、読みました。風の膜を作って、光で見えないようにすると」


師匠が頷く。


「風切りで風の形を変えたな。あれと同じで箱を包み込んで固定しろ」


なるほど。

つまり、空気を圧縮して包み込むということだ。

見えないけれど、そこだけ気圧が高くなるような感覚。


普通に圧力をかければ箱が潰れてしまう。

でも空気の“硬い層”を作るなら、内側の圧も同じように保って、中の物に影響しないようにすればいい。


教本を読んだ限りでは、そんな理解だった。


「はい、やってみます」


箱に手をかざし、空気を集める。

魔力で空気を圧縮していく。


少しずつ、箱を包む層ができていく。

箱より一回り大きな、セピア色の膜。


「よし。そのまま光魔法を使って色を消せ。何も見えないようにしろ」


風魔法を維持したまま、光魔法を重ねる。

膜の色が、少しずつ薄くなる。


やがて完全に見えなくなった。


けれど――

魔力の気配は、はっきり伝わってくる。

師匠は何も言わず、じっと見ている。


「あの、もういいでしょうか」


「辛いか?」


「いえ、あの、はい、ちょっと」


「あともう少し耐えろ」


「……はい」


時間の感覚が曖昧になる。

一分くらいに感じたけれど、実際は三十秒ほどだったのかもしれない。


「よし」


その言葉で、結界を解いた。

ふっと肩の力が抜ける。


「最初はそんなものだ」


師匠の声が、少し優しい。


最近、なんだか優しさが増している気がする。


一年も一緒に暮らしているのだから、親密度が上がっていてもおかしくはないけれど――やっぱり少し驚く。


私は箱を見ながら言った。


「師匠は、ずっと家と森に結界を張りっぱなしですよね?」


「あれはずっと魔力を注ぎ続けているわけじゃない。そんなことをしたら流石にもたない」


私は言葉の続きを待った。


「土地の魔力を借りているんだ。外で使う結界は、大体土魔法でその土地の魔力を使うことで成立する」


なるほど。

それは思いつかなかった。


大地の魔力は大きい、と教本に書いてあった。

でも、そんな使い方があるとは知らなかった。


「じゃあ、術式を組んで、大地の魔力を流し込んで結界にする、ってことですね」


師匠がこちらを見る。


「やりたいか?」


私は思いきり首を縦に振った。


結界といえば、まさにそのイメージだ。

木箱を開けられなくするのは、どちらかというと“封印”に近い。


「小さくても大きくても基本は同じだ。大きさが変わる。付加する要素が変わる。魔力の元が変わる」


師匠は淡々と言う。


「そういうバリエーションが多い魔法ということだ」


わかったような、わからないような。


でも――結界魔法って、思っていたよりずっと“構造物”に近いのかもしれない。

壁を作るとか、箱を閉じるとか、そういう単純なものじゃなくて。


風で形を作り、光で隠し、土から魔力を借りて支える。

組み合わせて作るもの。


「……面白いです」


思わずそう言っていた。


師匠が少しだけ口元を緩める。


「なら次は術式だ」


「はい」


机の上に、師匠が紙を一枚置いた。

見慣れない幾何学模様が描かれている。

円と線。交差する記号。魔法陣。


「まずは小さな結界陣を作る。庭でやるぞ」


胸が少し高鳴る。


攻撃魔法とは違う。

でも――これはこれで、すごく“魔法”っぽい。


私はワクワクしながら外へ向かった。

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