第10話 修行その2=岩と二つの穴=
昨日、ようやくイワヤンとの付き合いが終わった。
長く感じたが実際には一ヶ月経っていなかった。
一度もイワヤンを背中から離すことなく、時間を耐え抜いた。
「合格だ」と言われた時の開放感と達成感は、ちょっと涙が出ちゃうくらいだ。
そして今日。
次の段階の修行が始まる。
庭の片隅には、井戸の水桶ほどの穴が二つ、少し離して掘られていた。
その間に、ちょうどその穴と同じくらいのサイズで縦長の石というか、小岩が置かれている。
「これを移す」
「……大きいですね」
「お前はこのくらいの方が扱いやすい」
確かにそうかもしれない。
師匠が石に手をかざす。
石がふわりと浮いて目の高さのあたりでピタッと止まる。
そのまま滑るように移動し――
反対側の穴の上まで来たかと思うと
ストン、と真っ直ぐ下がって綺麗に穴にに収まった。
「やってみろ」
自分の体の中の力ではなく、外に出す力のコントロールだ。
いきなり難度が上がった気がするが、やはりワクワクする。
本格的に魔法っぽい。
魔力を集中する。
石がゆっくり浮いた。
しかしすぐに揺れる。
ぐらぐらと空中で暴れ始める。
「止めろ」
必死で魔力を調整する。
石が少し安定する。
「そのまま動かせ」
ゆっくり移動させる。
だが途中でバランスを崩し、石が地面に落ちた。
どすん。
土が少し沈む。
「もう一度」
浮かせる。
一応浮くところまではOK。
止める。
止まれ!と念じるほどにグラグラとバランスを崩す。
動かす。
思った方向にいかない。
どこへいく。
お待ちなさい。
何度も繰り返す。
小岩を空中で止めることができない。
ぐるぐる回る。
腕が重い。
魔力の流れが乱れる。
石が途中で落ちる。
「くっ……」
悔しい。
もう一度師匠が石に手をかざす。
石がふわりと浮き上がる。
まっすぐなまま少しも揺れない。
すうっと目標までまっすぐに移動し――
ぴたりと穴の上で止まる。
指を少し動かすと、ストン、と真っ直ぐに収まった。
「……すごい」
思わず声が出る。
師匠は何も説明してくれない。
ただ一言。
「続けろ」
鬼コーチ。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
はぁ。
この石とも仲良くならなければ。
縦長の滑らかな大きめの石。
石碑のような感じもある。
――『モアイ』
なんとなくその言葉が浮かんだ。
「お前は、モアイ。わかったな」
縦長の小岩に顔が浮かび上がるような気がした。
その日から私はモアイとの修行に励んだ。
二週間ほど経った頃。
石は、ほとんど揺れなくなった。
浮かせる。止める。動かす。
穴の上で止めて、ゆっくり下ろす。
ストン。
まっすぐ収まる。
「……いいだろう」
師匠が短く言った。
それが合格だった。
嬉しい。
でも。
「石ばっかり……」
思わず呟いてしまう。
背中に石。
穴の石。
来る日も来る日も石。
長いこと修行に付き合ってくれたモアイに感謝を告げて、家に戻った。
台所で、師匠が火魔法で鍋を温めていた。
水は空中に浮かび、布が乾燥魔法でふわりと揺れている。
全部、当たり前みたいに使いこなしている。
いいなあ。
私もああいう魔法、使いたい。
生活魔法、いつになったら使えるようになるんだろう。
何年もかかったりするんだろうか。
師匠を信じてはいるけれど、モヤっとするのは止められなかった。




