表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/65

第35話『熱力学の支配者』

 灼熱の太陽が照りつける荒野の真ん中。

 そこは今、火花と怒号、そして笑い声が飛び交う「狂気のガレージ」と化していた。


「フィアン! 排熱バイパス接続! ミスリルの管をあと二ミリ右に曲げろ!」


「はいよ! ……よいしょっと。こんな感じ?」


 フィアンが素手をかざすと、国宝級の硬度を誇るはずのミスリル合金が、まるで飴細工のようにぐにゃりと曲がった。

 俺はそこにすかさず『温度操作』の魔法を叩き込み、一瞬で溶接・冷却して固定する。


「よし、完璧だ! 次、燃焼室の圧縮比、もっと上げろ!」


「了解、空間ごと圧縮するよ!」


 フィアンが楽しげに笑いながら、オリハルコン製の分厚い装甲を粘土のようにこね回し、無駄な装飾(金ピカの彫刻)を削ぎ落として流線型の空力ボディへと成形していく。


 魔法というチート機能を持った天才と、現代地球の物理・工学知識を持った元・社会人。

 二人の技術者が手を組んだ結果、作業は常識外れのスピードで進んでいた。


 ◇


 だが、最強のトラック造りは、心臓部エンジンで壁にぶち当たった。


「……ダメだ。お前の魔力出力を計算に入れると、通常の冷媒(水や油)じゃ冷却速度が追いつかねえ。

 このままじゃ、またメルトダウンして爆発するぞ」


 俺が図面代わりの砂のキャンバスを見て唸ると、フィアンが首を傾げた。


「えー? でも、動かすにはたくさん『エネルギー』を燃やさなきゃいけないんでしょ?」


「フィアン。発想を変えろ」


 俺はレンチを置き、帝国の最高戦力に向き直った。


「お前は『炎』を出そうとするな。

 いいか、熱力学第一法則だ。エネルギーってのは無から生まれたり消えたりしない。ただ『移動』するだけだ」


 俺はフィアンの胸を指差した。


「お前の魔力で、熱を無理やり生み出すんじゃない。

 空間にある熱を『外へ捨てる(吸い出す)』イメージを持て」


「熱を、捨てる……?」


「そうだ。お前はただの爆弾魔じゃないはずだ。エネルギーを操作できるんなら、逆のベクトルにも動かせるだろ」


 フィアンは目を丸くし、自分の手のひらを見つめた。

 彼の脳内で、これまでの魔法の常識が、コペルニクス的転回を起こしているのが分かった。


「……そうか。僕は今まで『燃やす』ことしか考えていなかった。

 でも、熱を奪えば……それは『氷』になるんだ。

 放出じゃなくて、吸収。足し算じゃなくて、引き算の極致……!」


 フィアンがゆっくりと、人差し指を立てる。

 そこに灯ったのは、いつもの破壊的な赤い炎ではなかった。


 音もなく揺らめく、青白く静かな炎。

 その炎が空気に触れた瞬間、周囲の水分が一瞬で凍結し、ダイヤモンドダストとなってキラキラと舞い散った。


「……できた」


 フィアンが恍惚とした表情で呟く。


「極低温の炎(吸熱魔法)……。ケント君、君の言う通りだ。

 エネルギーは、消えない。僕が移動させてるだけだったんだね」


 単なる「破壊者」が、エネルギーの本質を理解した「大魔道士」へ覚醒した瞬間だった。

 俺は背筋にゾクッとした悪寒(そして技術者としての強烈な興奮)を覚えながら、ニヤリと笑った。


「上出来だ。その『吸熱魔石』を、ラジエーターのコアにぶち込め!」


 ◇


 数時間後。

 荒野の真ん中に、一頭の美しい怪物が産声を上げた。


 無駄な装飾が削ぎ落とされた、銀と金を織り交ぜた流線型のボディ。

 ミスリルとオリハルコンが完璧な機能美として融合している。


「……起動するぞ」


 俺が運転席に座り、イグニッション(魔導キー)を回す。


 ヒュオォォォォォォン……。


 以前の悲鳴のような爆音はない。

 静かで、しかし底知れぬ力強さを秘めた吸気音が響いた。


 同時に、ボディ全体がうっすらと霜を纏い始めた。

 フィアンの吸熱魔法がミスリルの配管を行き渡り、オリハルコンの装甲を極低温に保っている。砂漠の熱気など一切寄せ付けない、「絶対零度の要塞」だ。


「……化け物め」


 計器盤の数値を見て、俺は震え声を漏らした。


「熱効率、ほぼ一〇〇%。……理論上の永久機関じゃねえか」


 俺の温度操作と、フィアンの魔力が染み付いた車体。

 俺の魔法効率は、以前の数倍に跳ね上がっていた。


「あははっ! 大成功だね!」


 助手席の窓から顔を覗かせたフィアンが、魔導キーを外して空中に放り投げ――俺の膝の上に落とした。


「あげるよ。これ、君のだ」


「……は?」


 俺はキーとフィアンを交互に見比べた。


「正気か? オリハルコンとミスリルだぞ。下手すりゃ国が一つ買える値段だ。

 俺は一文無しだぞ?」


「お金なんていらないよ」


 フィアンは無邪気な笑顔で首を振った。


「君のおかげで、僕は魔法の新しい扉を開けた。『炎』以外の可能性を知ったんだ。

 これはその技術指導料(授業料)さ。

 それに……」


 彼は銀と金の車体を優しく撫でた。


「僕が乗るより、君が乗ったほうが、この車も幸せそうだからね。

 大事にしてあげてよ、運送屋の社長さん」


 俺はため息をつき、それからキーをしっかりと握りしめた。

 ……こいつには敵わない。色んな意味で。


「ああ。最高の相棒にする」


 俺たちがコックピットに乗り込むと、ミナとルルが「お城みたい!」「かっこいいー!」と後部座席で飛び跳ねた。

 フィアンの貴族趣味は消え去り、俺好みの機能美あふれる黒革と計器盤の内装に改修されている。


「……すごい音です。心音が、透き通っています」


 ナビシートのシエラが、心地よさそうに目を閉じた。


「……軽いです。マスター、私の魔法が、まるで自分の手足のように車体全体へ行き渡ります……!」


 ベアトリスも驚きの声を上げる。


「以前とは反応速度レスポンスが段違いです。これなら、山のような荷物を積んでも『羽毛』のように扱えます!」


 オリハルコンの強靭さとミスリルの魔力伝導性が、ベアトリスの重量制御を極限まで高めているのだ。


「名前は決まってる」


 俺はハンドルを握り、前を向いた。


「『ギガ・フロスト・ノヴァ(Nova)』。

 新星の名に恥じない、世界最速のクーラーボックスだ」


 俺はアクセルを踏み込んだ。


「行くぞ。ゴルドフの野郎に、本物の『格の違い』を見せつけにな」


 ヒュンッ!!


 青白い冷気の軌跡を残し、新型車両は音すらも置き去りにして、荒野を駆け抜けた。




次回は

【 木曜日の 18:10 】に更新します!


──────────

【 応援のお願い】


今回の話を読んでワクワクしていただけましたら、


↓広告の下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


(皆様の★が、今後の作品の燃料になります! 何卒応援をよろしくお願いいたします!)


明日も更新します!


──────────

※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ