10月11日 宴の夜 9/14
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「はあ……」
放送が終わり、画面がぷつっと元通りの灰色に戻ると、生徒たちがいっせいに口を開く中、廉はひとり、ガクリと膝をついた。
――間に合った。僕は間に合ったんだ。
ずっと感じていたタイムリミットが何だったのか、やっとわかった。
喉にひっかかって飲み込めないカプセルのように、わだかまっていた原因不明の焦りと不安が、きれいさっぱり消えていた。
遠からず世界は終わると公的機関が明言し、後はお好きにと切り捨てられた以上、ビレッジのひとつの制度に過ぎない家族学校の転校など、誰にも気にされず、些末なこととして早々に忘れ去られるだろう。
つまり、今回のこの転校が、実施された最後の転校になるのだ。
――飛鳥に来るチャンスは、後にも先にも、この一度きりだったんだ。
放送がある前と後の世界で、廉の人生は天と地ほど違うものになったのである。
――まさに、タイムリミット。それも、ほんとにギリギリの。
膝から力が抜けてガクガクし、ステージ端の短い階段に寄りかかる。
廉にとって、この転校は単なるビレッジの移動ではなかった。
仲間と共に暮らし、本当の自分を生きるための大事な転機だった。
世界の終焉が近いなら尚更に、希求していた生き方を手に入れることの意味は大きい。たとえ、それがどんなに短い間だとしても――。
廉は、出発間際の船に、きわどいタイミングで飛び乗った気分だった。
世界が終わると告げられた時から、廉には、すべてのビレッジは、それぞれが目指す未来に向けて航海に出る船に思えた。
見通せない未来、終焉が待つ荒海へと、飛鳥も船出することになる。
そして、飛鳥の乗組員は、今日この地に揃った顔ぶれが今後入れ替わることはない。
廉は、改めて広場にいる生徒たち見回した。
興奮して声高にしゃべっている誰もが、これから共に暮らす仲間だ。
仲間が暮らす場所には、行くというより帰ると言ったほうがしっくりする――。
だから、この転校を、廉は帰郷だと思っていたが、飛鳥が船ならば、それは帰艦だ。
自分にとって特別な者たちが集う特別な船、飛鳥に乗り合わせた以上、ここでなければできないことが待っているはずだ。
だからこその帰艦なのだから。
――やってやろうじゃん。どうせ一度きり。限りある時間だ。
と、その時――。
――あん?
突然、あるものが廉の目に留まった。
生徒たちの頭上一メートルくらいの空中を、白いもやみたいなものが動いている。
すばやい動きではないが、鈍くもない。ゆったりと空気の流れに身を任せるように、だが、明らかに意志をもった動き方をしている。
他に誰か気づいていないか生徒たちを見たが、頭上を見上げている者はいない。
――飛鳥の生徒は敏感なはずなのに、みんな、なんで気づかないんだ?
廉は何度も瞬きをし、繰り返し見直した。
それは、小さな霧のようにぼんやり滲んでいるが、人みたいな形をしている。
生徒たちと比べると、大きさも人と同じくらいだ。
廉は、ピントを合わせるように目をすがめた。
――何だ、あれ?
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更新:週一、月曜




