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10月11日 宴の夜    8/14


                     *


 ステージに上がった時、瑠奈の怒りは頂点に達していた。

 ――やってらんないっ!

 広場に集まった生徒たちを睨みつける。

 だが、怒りをぶつけたい相手はミカエルである。

 ――これを済ませたら、思い存分探してやるんだから。

 つかまえたい相手もミカエルである。

 今の瑠奈は、全身逆毛をたてている猫さながらだ。

 何もかも全部、気にくわない。

 飛鳥も、来る途中で見た夕焼けも、和気あいあいと楽し気な歓迎会の雰囲気も。

 原因はただひとつ、ミカエルの不在だ。

 司会役の女性に促され、しぶしぶ口を開きかけた時、ステージ脇の壁の大型モニターが機械音をきしませながら起動し、唐突に音声が流れ始めた。

 ――なんで、今、邪魔が入るのよ。

 臨時緊急放送が一日中入り続けるのは、全国どこでも変わらないらしい。

 英語が聞こえるから、きっと緊急レベルの高い国際放送なのだろう。

 画面下に表示された和訳テロップを見ようと、生徒たちがモニターの前に集まってくる。

 思わぬ邪魔が入って、瑠奈の苛々がさらに募る。

 初めての場所で、知らない顔に囲まれ、緊急放送まで流れているのに、瑠奈は一人でほったらかしにされている。

 ――こんな時こそ、そばにいるもんなんじゃないの?

 飛鳥へ来たがったのは瑠奈じゃない。ミカエルだ。

 ――思いがかなったからって、自分だけ、好き放題消えていいわけ?

 瑠奈が心に思ったことは、直接ミカエルに届く。

 ミカエルもまた、思いそのもので返してくる。

 そうやって瑠奈とミカエルは交信し、二人だけの語らいを続けてきた。

 それなのに――。

 瑠奈は肩を震わせてうつむいた。

 その間に放送が終わったらしく、広場にいる生徒たちがてんでに興奮気味にしゃべり始める。

 美緒とかいった司会役も、ひとことふたこと瑠奈に声をかけると、どこかに行ってしまい、歓迎会は中断したままだ。

 広場の喧噪も瑠奈の内側には届かない。

 瑠奈のまわりだけ空気も動かず、時間が止まったみたいだった。

 ふいに、瑠奈の両耳がピクリと反応した。

 はっと顔を上げる。

 ――ミカエルだ。ミカエルの気配がする。

 血が滲むほど唇を噛みしめた。

 ――つかまえなきゃ。

 どこにも行かないように、つかまえなきゃ。

 そばを離れないように、つかまえなきゃ。

 気配を追って必死に視線をさまよわせる。

 ――いた!

 え? いた……?

 見ているものに思考が追いつかない。

 頭の中が真っ白になった。

 ――私、今、ミカエルを見(・)て(・)る(・)の?

 広場にいる生徒たちの頭の一メートルくらい上を、ミカエルらしきもの、いや、ミカエルに違いないものがゆったりと旋回しながら飛んでいる。

 どんなに霧みたいに霞んでいようと、瑠奈が取り違えるはずがない。

 形あるミカエルの姿を見たいと願い、でも、ついぞ叶わず諦めたものが、そこに見える。

 ぐちゃぐちゃになった想いと意識と五感がひとつに収束し、焦点が合った。

 瑠奈の目が、捕獲するようにはっきりと捉えた。

 うっすらと人型を結んで光るミカエルの姿を――。


                      *


更新:週一、月曜

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