10月11日 宴の夜 4/14
再び、広場に拍手がわき起こる。
だが、瑠奈は、ステージ脇の踏み台の前で立ち止まったまま動こうとしない。
「青柳さん、あなたの番よ」
美緒の声が聞こえているのかいないのか、瑠奈は、懸命に何かを探すように、しきりに首をひねってきょろきょろしている。
迷子になった幼い子どもが必死に母親を探しているようなその様子を、美緒は少しの間見つめてから、もう一度ゆっくりと話しかけた。
「青柳さん、あなたの声を、みんなにも聞かせてあげて」
瑠奈は、蒼白な顔を美緒に向けると、そんなことしてる場合じゃないのにとでも言いたげに、苛ついた様子でステージへと上がった。
そして、瑠奈が渋々重い口を開こうとしたその時だった。
突然、広場の壁に埋め込まれている大型モニターが、振動音を響かせて起動した。
スイッチの切ってあるこのモニターが自動的に起動するのは、最優先かつ最重要、最高レベルの緊急臨時速報を受信した時である。
電気が十分に供給されていた時代には 命の危険にからむ臨時速報を受信すると、各家庭にあるロボットをはじめ、エアコンや冷蔵庫など、あらゆる家電が人の声でしゃべって危険を知らせていた。
が、今は節電のため、各ビレッジで登録済みの高性能の通信機器だけが受信し、そこからビレッジ内に周知される。
「おいおい、なんてタイミングだよ」
「まったく、しらけるよな、歓迎会、始まったとこなのに」
「いったい、何の速報かしら?」
自然災害の発生が日常茶飯時であるこの時代、一日中、うんざりするほど臨時速報だらけだ。
ネットワーク番組を見ていても、臨時扱いのはずなのに、そこが定位置のように、画面右上から臨時速報の枠が消えることはない。
緊急だとわかっていても、誰もが食傷気味だった。
壁の大型モニターの画面は、明るくなっただけで何も映しておらず、両脇のスピーカーからは、緊迫した英語の話し声が雑音のように漏れ聞こえてくる。
「日本国内のじゃないみたいね」
「最重要扱いなんだから、いくつかの国のことじゃないか」
「全世界に向けた、全人類が絡んだ内容だったりして?」
唐突に映像が流れ始め、画面の中央には背広を着た中年の白人男性がひとりでデスクに座り、姿は見えないが周囲に控えたスタッフに、固い表情で開始の合図を送っている。
モニターに映像が映し出された瞬間、美緒はぶるっと身震いした。
全身の神経が痛いほど張りつめている。
――始まる。
余分なものを削ぎ落し、アンテナだけになったみたいな全身の感覚が美緒に告げていた。
始まるんだ――。
緊急のニュースが?
重要な周知が?
いや、そういうことじゃない。
――始まる。
ただ、そう思った。
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