10月11日 宴の夜 3/14
それは、緊張した心を柔らかくほぐすように、上気した頬を羽毛で撫でるように、何ともいえない繊細な優しさで廉のすべてを覆い尽くした。
嫌な感じはしない。それどころか、ずっとこのまま包まれていたいとさえ思う。
危険なものではなさそうだ。無防備なままでいれる安心感がある。
そうでなければ、廉は丸ごとたやすく乗っ取られていたかもしれない。
頭のてっぺんからつま先まで、心地よい湯加減のお風呂に浸かったみたいに、全身がじんわりほどけていく。
瞬く間に肩から力が抜け、廉は湯上りのすっきりした気分で壇上から広場を見渡した。
廉と同世代の中高生らしい生徒たちを中心に、広場に集まった全員が、廉が口を開くのを静かに待っている。
――ああ、やっぱり。
彼らが発しているものと、抗う間もなく廉の中に入り込んできたものと、飛鳥の玄関で感じたものは、全部同じだ。
そして、それは、番組で見た子どもたちが発していたのと同じものでもあった。
――こんなにたやすく、人の内側に入り込めるなんて……。
二年間飛鳥について集めた情報も、そこから広がった想像も、実際に飛鳥に来てみたら吹き飛んでしまった。
飛鳥に到着した初日、自分の想定をいともあっさり越えた飛鳥に、廉は畏怖すら覚えた。
「初めて飛鳥の存在を知った時、僕は、自分が帰るべき故郷を見つけたと思いました。そして、その直感は正しかった。わかっているけど何も知らない、懐かしいけど初めての飛鳥――。今日からここで暮らせることは、奇跡で、でも、当たり前で、とても自然で……、うまく言えないけど、今、僕はすごく幸せです。よろしくお願いします」
ぺこりと九十度体を折って礼をした廉に、大きな拍手が送られた。
「ようこそ、飛鳥へ」
「おかえりなさい、故郷へ」
「待ってたぞ、廉くん」
広場のあちこちから、拍手と一緒に、新しく家族となった少年を歓迎する言葉と笑顔が返された。
拍手が鳴りやむのを待って、美緒が続ける。
「では、続いて、もうひとりの転校生、青柳瑠奈さんです」
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