10月11日夕方 ~ 瑠奈 3/5
「ふう……」
瑠奈は、ため息まじりに息を吐いた。
そして、後ろに気配を感じると、てっきりミカエルだと思って「なあに?」と甘えるしぐさで振り向いた。が――、
「きみ、青柳瑠奈さん?」
そこにいたのは、水色のシャツを着た少年だった。
無防備に安心しきっていた瑠奈は、ひっと全身を強ばらせた。
人であれ、物であれ、知らないうちに何かが自分の至近距離に近づいていたことは、これまでなかった。いつも、少し前にミカエルが教えてくれるからだ。
それが、勝手のわからない初めての場所に来たというのに、知らせてくれないどころか、気配ごと消えている。
――何も言ってくれないから、驚いたじゃない。
私のことなんて、どうでもいいの?――
瑠奈は、ぎゅっと唇を噛みしめた。
「今の列車から降りたの、きみひとりだけだから、青柳さんだよね?」
無言の瑠奈に、少年が繰り返し尋ねる。
胸の内でミカエルへの文句をつぶやきながら、瑠奈が小さくうなずくと、
「飛鳥から迎えにきたんだ」
瑠奈と同じ年頃の少年は人懐こい笑みを浮かべた。
「他に荷物は?」
ショルダーバッグを肩にかけただけの瑠奈のまわりを見回して聞いた。
瑠奈が首を横に振ると、「じゃあ、あれに乗って」と、駅前のロータリーに止まっている白い車を指さした。
促されて瑠奈が後部座席に座ると、少年も助手席に乗り込んだ。
「やあ、黎明市にようこそ」
運転席の青年が、後ろを振り向いて瑠奈に声をかけた。そして、助手席の少年の肩を肘でつつくと耳元でささやいた。
「おい、彼女ひとりだけか?」
「え? ああ、もうひとりの転校生は昼過ぎに到着したんですけど、あたりを歩いてみたいって――、そろそろ飛鳥に着いてる頃じゃないかな」
「そうじゃなくてさ――」
青年は目配せで後部座席を指すと、さらに声を落とした。
「彼女には連れがいるかもしれないって、美緒ちゃん、言ってただろ?」
その瞬間、どこを見ているのか焦点が定まらないような瑠奈の目が鋭く光った。
「そんな気がしただけだって、美緒さん、あとで訂正してましたよ」
「そっか、――まあ、いいけど」
青年がアクセルを踏んだ。
夕陽に映えた濃いオレンジ色の空の下、薄茶色の砂ぼこりを巻き上げて白い車が走り出した。
更新:週一、月曜




