10月11日夕方 ~ 瑠奈 1/5
プラットホームの掲示板が、珍しく遅延なしでの到着時刻、十七時四十分を示している。
それを横目で見ながら、瑠奈は駅の出口に向かった。
外に出ると、小高い丘の上に位置している駅からは、かなり遠くまで見渡せた。
夕方の空気を鼻先で嗅きながら、瑠奈は初めて見る黎明の景色を一瞥した。
昔は市街地が広がっていたらしき一帯に浅く海水が張り、所々、街の残骸が水面から突き出ている。
「妙に静かね」
誰かの同意を得るようにつぶやいた。
海中にひっそりと身を沈めたかつての街は、夕陽に照らされて錆のような赤味を帯びたぶん、いっそう色濃く廃墟の雰囲気を漂わせている。
不思議なほど風がなく、水面にはさざ波ひとつ立たない。音もなく静止した景色は、セピア色の古い写真のように見えた。
当然ながら、こんな時刻に人影はない。
ぽつんぽつんと目に入るビレッジの建物にも、明かりはまだ灯っていなかった。
「望みどおり、黎明まで来たわ。もうすぐ飛鳥よ。気が済んだ?」
答えるものはなく、問いかけは夕方の空気に溶けて消えた。
新しく住み家になる家族学校がどんな場所にあって、どういう生徒たちがそこにいるのか――、瑠奈は気にしたこともないし、興味もない。自分がどこにいて、まわりに誰がいようと、そんなことはどうでもよかった。
皮膚一枚で分けられた外の世界で何が起きようと、自分には関係のないことだ。
大事なのは、自分だけが知っている世界だ。
そこが安定している限り、瑠奈の心が揺れ動くことはなかった。
ところが、である。
そんな瑠奈の心に不穏な影が射した。
瑠奈にとっての青天の霹靂、一大事件だった。
それは三か月ほど前、家族学校の転校申請の受付が始まった頃だった。
もともと、瑠奈には転校するつもりなど更々なかった。
どんな家族学校で暮らそうと、瑠奈にとってたいした違いはない。わざわざ面倒くさい手続きを踏んでまで転校したいと思うはずがなかった。
それなのに、転校申請の受付が周知される少し前から、突然、まるで転校先を真剣に探してでもいるかのように、検索をかけてもいない瑠奈のコンピュータに、名前すら聞いたことのない家族学校の情報が勝手に飛び込み始めたのだ。
削除しようが、電源を切ろうが、消しても消しても入り続ける情報は、同じひとつの家族学校のものだった。
飛鳥――。
否が応にも頭に刻み込まれた名前には、何の覚えもなかった。
「なのに、どうして?」と不思議がったり、飛鳥がどんな家族学校なのか、関心をもつこともなかった。
つまりは、どうでもいいことだったのである。
それは飛鳥に限らなかった。瑠奈にとって、この世界で起きることも、世界そのものもどうでもよかった。
瑠奈の心を占め、瑠奈が小さなことまで気にかけるものは、ただひとつ。
たったひとりの存在だった。
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