10月11日午後 ~ 廉 2/4
「美緒さんがいると、いつだって、何だって、スムーズにいくんです」
廉の心の声が聞こえたように、少年が言った。
「でも、珍しく定刻に着いたけど、遅れが出てたら、きみ、ここで待つはめになったんじゃないか?」
「いえ、百瀬さんも、あと、夕方来るもうひとりの転校生も、定刻に着くんです」
少年は、数分前の廉の到着と、数時間後のふたりめの到着を、決定事項のようにさらりと言ってのけた。
思わず聞き返そうと廉が口を開きかけると、少年は慌てて手を横に振った。
「美緒さんが、そう言ってたんです」
「……」
「美緒さんが何にアクセスしてるのか、僕にはわからないけど」
――アクセスね。
「ところでさ、黎明市がどんなとこか見たくて、早めに来たんだけど――」
廉は、足元に置いた黒いリュックを持ち上げながら続ける。
「車で来たのなら、これ、運んどいてもらえるかな?」
「いいですよ。駅前で待たせてるんで。でも――」
少年がリュックに手を伸ばしながら言う。
「どうせなら、いったん飛鳥まで一緒に行きませんか? 歩くとけっこう距離あるし」
「いや、いい。時間はたっぷりあるし、このあたりを歩いてみたいから」
「見て回るような場所、ないと思うけどな。昔、街があった平らな場所は、みんな水に浸かっちゃってるから」
「――で、山だったところが残って、半島みたいになったんだろ?」
「ええ。飛鳥は、その半島の先にあるんですけどね」
「だから、飛鳥に向かって歩くと、半島の上から、水に浸かった街を眺められる」
「ええ、まあ」
「お城があるんだよね? 石垣は水の中だけど、建物は水面から出てるって、どっかで読んだけど」
廉が調べたところでは、駅から飛鳥に向かう途中、半島の左側に城が見えるはずだった。
「生でお城が見れるなんて、今どき、そんなリアル観光旅行ないって」
くすっと少年が小さく笑いを漏らした。
「どうかした?」
「いえ、百瀬さんは、ひとりでこのあたりを見て歩きたいだろうから、誘っても、飛鳥に一緒には来ない。きっと断られるって、美緒さんが言ってたとおりだから」
――僕の言動は、すべてお見通しか。
「飛鳥の場所、わかりますよね?」
リュックを肩にかけながら、少年が確認する。
「ああ」
「夕方までには来てくださいね。歓迎会あるんで」
「了解」
廉は片手を上げると、出口へ向かいかけ、ふと少年のほうを振り返った。
「ところでさ」
「はい?」
「到着したばかりの転入生が、慣れないとこで、半日外を歩き回るってのに、暴風とか、豪雨とか、ひとりにしといて心配じゃないの?」
「今日はずっと晴れてるから、大丈夫です。お天気も、列車も、今日は特別なんです。だから、百瀬さんの好きにさせてあげてって――」
またもや、明るく断定的に言ってのけた。
「みおさんが、そう言ったのか?」
「はい」
少年が嬉しそうに笑った。
言葉を交わしたのはほんの短い間なのに、少年が発したひと言ひと言から、「みおさん」への絶対的な信頼感と、それがあるからなのか、少年の内側が穏やかに安定しているのがわかった。
――ふむ。
その幸せで心地よさそうな様子を見ていると、伝染したようにだんだん気持ちよくなってくる。
――ふぁ……。
あくびをしかけて、ハッと我に返った。
――おっと。ぼおっとしてる場合じゃないのに。
廉は両手で頬をパシパシと叩いた。
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