10月11日午後 ~ 廉 1/4
短い停車時間のあと、無人の車内をのぞかせながらクリーム色の列車が走り去ると、プラットホームには廉ひとりが残された。
列車は、豪雨や暴風から車体を守るため、透明で頑丈な特殊樹脂のチューブの中を走っている。駅の構内は、そのチューブが膨らんだように、同じ素材でできたドームですっぽりと覆われていた。幹線を走る列車は貨物と併せて二両編成なので、卵型のドームの長いほうの直径はそれに合わせてある。
構内の隅々まで明るい陽射しが届き、銀色の掲示板が眩しく光を反射している。
廉は、透明な天井を透かして空を見上げた。
「へえ……」
駅の外、南北両側に設置された暴風壁に遮られているため、空全体は見渡せないが、それでも、頭上には目に染みるほど青い空が均一に広がっているように見えた。これだけの範囲の空がこぞって晴れているのは珍しい。
「あ!」
青いキャンバスに真っ白い米粒を並べたみたいな雲が浮かんでいる。
「ええと、あれは……」
気象学図鑑の映像で見た覚えがある。確か、まだ四季がきちんと巡っていた昔、秋に発生し「鱗雲」と呼ばれていた雲だ。
――こんなところで、実物の鱗雲を見れるなんて。
ここの空は、今まで廉が見慣れていた空とは違う。
つい今朝まで関東にいて、水色だったり、真っ黒だったり、それぞれに異なる様相を呈した、違う模様のタイルをはめ込んだような空の下で、東は晴れ、西は豪雨、北と南では暴風と竜巻が吹き荒れていたというのに――。
――まるで別世界だな。
暴風壁のないところで空を見ようと、出口を探して掲示板に視線を向けた。
――十二時半か。
飛鳥からの連絡には、十月十一日、夕方までに到着するように――とだけ。
どの列車に乗れという指示もなければ、何時に到着するのか、聞いてもこない。
天気をはじめ、移動にハプニングはつきもので、遅延は日常茶飯事。定刻どおりに発着することなど稀だから、細かい確認や指示をしたところで意味はないにしても――だ。
「――あの」
ふいに声をかけられてビクッとした。
「百瀬廉さん――ですか?」
振り向くと、頭上の空の色を薄めたような水色のシャツを着た、中学生くらいの少年が立っていた。
出迎えがあるはずもなく、まわりに人はいないと決め込んで無防備でいたにせよ、今の今まで人の気配なんてまるでなかったのに――。
虚を突かれた廉を、少年は穏やかな笑みを浮かべて眺めている。
「そう……だけど?」
「飛鳥から迎えにきました」
ふわりと微笑んだ。
「え? きみ、どうして到着時刻がわかったの?」
「あ、いえ、僕は、行けって言われて来ただけで――」
「誰が、そう言ったの?」
「美緒さん」
間髪入れず、少年が答える。
「みお――さん?」
「今回の転校生の受け入れを担当してるスタッフです」
「ふうん」
「窓口として、百瀬さんにも連絡してたんじゃないかな」
――なるほど。
その「みおさん」は、僕の乗る便を察知していたわけか。
廉の脳裏に、飛鳥の子どもたちが帯びていた白い光が蘇った。
更新:週一、月曜




