10月11日早朝 飛鳥 ~ 予兆 3/3
「予兆ですか?」
「え?」
歩きながら考え込んでいた美緒は、出し抜けに声をかけられて我に返った。
いつのまにか本館の正面玄関まで戻ってきていた。
「この空は予兆ですか?」
美緒を待っていたらしい女子生徒が、たたみかけるように問いを繰り返した。
その顔には緊迫した色が浮かんでいる。
「なぜ、そう思うの?」
「だって、こんな晴れ方、不自然だし、普通じゃない」
「……」
美緒は少女を見つめた。
「白々しいっすよ、美緒さん」
後ろから少年の声が割り込んだ。
「今朝、ハーブ取りに行く前にも、何人も、似たようなこと言って来てたっしょ」
それは事実だった。
不穏な何かを消し去りたくて晴れ空をつくる生徒もいれば、その空を外から眺めて何かの予兆だと受け取る生徒もいるのだ。
少年は、探るように美緒の顔をのぞき込んだ。
「ずっとダンマリ決め込んでんのは、そんだけ大事件ってことっすか?」
わざとらしく大げさにため息をつく。
「俺も、感度がよけりゃなあ。その予兆が、今日来る転校生と関係あんのか、チェックできんのになあ」
美緒が手を伸ばしてパシリと少年の頭をはたく。
「勝手な憶測はだめよ」
「そんなこと、しないっす」
「きみの場合、思うのも禁止。念が飛びやすいんだから」
「肝に銘じるっす」
少年がボリボリと頭をかいた。
「予兆の発端は転校生じゃないと思います」
少女がぼそりと言い、間をおいて続ける。
「絡みはあるかもしれないけど……」
美緒は思わず口元を緩めた。
――いい感度をしている。
受入れ準備のために、美緒は転校生と連絡を取っていた。今日来るふたりが発しているものはすでに感知している。選んだようにこのタイミングで飛鳥にやってくる、それ相応の子どもたちだ。
美緒は、改めて生徒たちがつくった青空を見上げた。
素直に、美しいと思う。明るいとも思う。
陰りがなさ過ぎるほどに――。
だからこそひっかかる、そのむこうに横たわる不気味な静けさ。
この世界の規模を超越している巨大な静寂。
――やってくる。
この透明な明るさの対極にある、底なしの闇のような、想像もできない何かが――。
それは、もうすぐ否が応でも形となって目の前に突きつけられる。
そうしたら、もう誰も逃げることはできない。
――予兆、か。
まだ見えぬものを見据えるように、美緒は目を細めた。
更新:週一、月曜




