ep167 魔の森での修行
この日フォーレに居た俺は、魔の森への旅から帰ったツクヨからいきなり抱き着かれた。
ってかさ、アリスやシェリエがこれまで俺に気軽に抱き着いてくるから、いつの間にかツクヨもそうするようになってしまったのだけど……。
最近はアリスがクルトとくっつき、節度をわきまえて大人しくなったと思ったら今度はツクヨが……。
「主さまっ、とうとうツクヨはやりました! どうか褒めてくださいませ!」
ん? どういうことだ?
確か今回は四人で修行のため遠征に出ていたはず……、だよな?
「もしかして……、深淵種の討伐に成功したの?」
「はい! 自身の手で狩った魔物により正式な七本尾の白狐となりました! あと二本です!」
いや……、討伐に成功しただけでなく『正式な』と言ってたから、主属性の心臓とそれに対応する魔石を二個手に入れたことになるよな。
ならば今回の遠征で二体以上を討伐したことになるけどさ、凄くないか?
「それに……、フェリスさんやお姉さまたちも!」
「え?」
嬉しそうに報告して来たツクヨの後ろには、誇らしげな顔をしたフウカとホムラ……、そして二本の尾をブンブン振り回して俺に飛び込んできたフェリスが……。
いや、待て!
二本の尾って……、どういうことだ?
◇◇◇
そもそもの始まりは俺が第二王子と関りを持つようになって、急に多忙になったことだった。
一時は十日に一度のペースでツクヨとフェリスを伴って魔の森深部に入り、格を上げるための『修行』を行っていたが、第三回の四畳半会議を境にそうも言ってられなくなった。
フォーレとフィシスの二拠点生活やフィシス周辺の開発など、ただでさえ多忙だった俺が毎月数日間は王都にも滞在せざるを得なくなってしまったからだ。
ある期間なんか近衛騎士団に仮入隊し、目的を果たすまで一か月以上王都に拘束されたからね……。
そうなると、『格』を上げる旅に連れて行ってやることも難しくなったし、師匠への付け届けも頻繁に行けなくなった。
そこでツクヨたちはここ最近、四者で(ツクヨ・フェリス・フウカ・ホムラ)で定期的に魔の森へと入り、狩りに出ている。
これはフウカやホムラから願い出てきたことでもあったしね。
彼女たち曰く……。
「子を産む前にできる限り格を上げ、強い子供を産みたく思っております」
「我らも母たる前に、それに相応しい者になっておきたく!」
そう言って凄い勢いで迫ってきたしさ。
でもさ……、二人は子供を作るんだ?
本当に? いいのかな?
子供を抱いて蕩けるような顔をした厳つい男たち……、うん、想像できないな。
何よりも増して、ガモラもゴモラも二人ともデレデレだけど、まだ成長途上とはいえ相手は神獣だよ?
万が一、尻尾を持った『繋累』の子供が産まれたら大変なことになるよ?
未完成の神獣から係累が生まれるか、ガモラやゴモラがその話を知っているか、この点はどちらも分からないけどさ。
とは言え、こうして四人は協力して修行に出始めていた。
それが今回の結果になった、そういうことか。
◇◇◇
「遂にツクヨも、水属性の深淵種を狩ることに成功しました!」
「おおおおっ!」
それは凄い! 水が主属性の魔物ともなると、戦いの場は主に水中だ。
俺も相性が悪くてずっと避けていたからね。
「どうやったんだい?」
「はい、ミザリーお姉さまがお力を貸してくれて……」
げっ……、蛟かよ!
事前に彼女とは仲良くやっているとの報告は受けていたけどさ……。
そもそもの発端は、四人が俺の代理で師匠の所に『付け届け』を持って行った時らしい。
「ミザリーお姉さま、未熟な私たちではありますが、どうかこれからもご指導よろしくお願いします」
そう言ってツクヨは挨拶したそうだ。
こういうあざとい系のことも、ツクヨは天然でできてしまうんだよな。
それに対しミザリーは……。
「あらぁ~、とぉっても可愛い子たちじゃない。これからもお仲間、女の子同士仲良くしましょうね」
と言って上機嫌だったらしい。
ついでに師匠に願って畑仕事から逃げ出す……、いや、彼女たちの指導役を引き受けたらしいけどさ。
ミズチ……、意外にチョロイんだな。
この話を聞いた俺は『盛大に引きつった顔で苦笑していた』とマリーから言われた。
ともあれ、師匠の命じた労役から解放された蛟は、以後積極的に彼女たちのサポート役として活躍していたそうだ。
「これでツクヨは七本の尾に、フェリスさんも二本の尾に、お姉さまたちも六本の尾になりました!」
いや……、それってさ、見ても分かるんだけど、そもそもどういうこと?
フェリスも尾ってさ、そもそもだけど増えるの?
というかさ、それならフェリスも『格』が上がったんじゃね?
俺の記憶の限りだと、フェリスは『格』が上がるまで主属性の心臓なら水と無でダブルリーチ、確証はないが魔石なら闇でリーチだったはずだ。
「ツクヨは水属性の深淵種を狩ったんだよね? ならフェリスは?」
「はい! 同じく水属性です」
「おおっ! 二人ともかい? それは凄いな……」
その言葉を待っていたかのように飛び出したフェリスにじゃれ付かれたけど、尻尾以外は彼女の見た目に変化はない。
おかしいな? 格……、上がったんだよね?
「尾以外は何も……、変化しなかったのかな?」
「は、はい……」
ツクヨは下を向いて黙ってしまったけど、これはツクヨのせいではない。
彼女には何も責任がない話なのだからね。
「いいよ、気にしなくても。俺だって何故かちょっとほっとしている部分もあるからね」
そう言って俺は、申し訳なさそうにするツクヨに対しフォローした。
もしここでフェリスも人化したら、今後の接し方も変えなきゃならないかもしれないしさ。
まさかだけど……、新たな番候補とか言われたら困ったことにもなるし。
「あの……、参考になるかどうか分かりませんが、私たちの母が完全に人化できたのは九尾になってからだそうです。それ以前に言葉は操れるようになっていたそうですが」
そう言ってフウカはフォローしてくれた。
続いてホムラも……。
「そうですね。フェリスさんも辛いと思います。ここは焦らずに……」
なんかさ、フウカやホムラも丸くなったよな?
妖の血が抑え込まれ、理性的になったからか?
それとも伴侶を娶り、ヒトとしての心に目覚めたのか?
格が上がって禍々しさが消え、少し若返った今の美少女顔で優しく言われたら、俺だってドキっとしてしまうぞ。
こう見えて今はもう、人妻だけどさ……。
「因みに二人も新たな尾を得たんだよね?」
「はい! ツクヨと同じく、新たに水の尾を得ました!」
「これで子作りに一歩近づけましたわ!」
いや……、美少女顔の二人が『子作り』を連発するのはさ……、ちょっと犯罪の匂いがして危ない気がするんだ。
あっちの世界でガモラやゴモラのような男が彼女たちを連れていたら、それだけですぐ捕まるよ?
まぁ、こちらでは十五歳で成人だから、見かけ上でも問題ないんだけどさ。
今はむしろツクヨの外見の方が犯罪か……。
だが俺は……、この時点で肝心なことに気付いていなかった。
ツクヨが言葉を濁していた訳も、フウカとホムラの言葉に含まれていた微妙なニュアンスも……。
それらが示す本当の意味を知るのは、もっと後になってからだ。
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次回は4/29に『巡る策謀①』をお届けします。
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