ep165 異なる歴史(みらい)への分岐点
ルセルと俺との争いは直接対決から代理戦争の様相を呈し、奴は不気味な静けさを保ったままだった。
そんな中で年が明け、俺も十七となる新たな年を迎えた。
今日はフォーレで最近は恒例行事となった新年会、新しい年を祝う宴が行われ、街の至る所で祝いの盃が交わされていた。
もちろん俺自身も、これまで支えてくれた仲間たちを招いて祝宴の最中だが……。
俺は一番後ろで壁を背に、皆の様子や宴の喧騒を眺めていた。
これからの未来、明らかに方向が変わって予測がつかなくなったこの先、世界はどう進んでいくだろうか?
この先の未来を、俺はどうやって乗り切る?
「考えてみれば、ただ生きるためにずっと無我夢中でやってきたけど……、いつの間にか俺も大それた考えを持つようなったよな。前回のルセルでさえここまでは……」
そう呟くと大きなため息を吐いていた。
「どうしたのリーム、深刻な顔をしてため息を吐いて。それに『大それた考え』って?」
ふと気付くと、俺の隣にはいつの間にかマリーが俺の分までグラスを抱えて立っていた。
俺の呟き……、聞かれてしまったか?
「あ、いや……、ちょっと昔(二度目の人生や三度目の孤児院時代)を思い出してね。
あの頃は、こんな未来を願っていたけど、まさか俺が王国の後継者争いにまで関わるとは、ね……」
「ふふふ、私たちだってそうよ。まさか王子殿下やガーディア辺境伯さまと直接お話しする機会があるなんて、つい最近までは夢にすら思わなかったもの」
そう言ってマリーは俺の腕を取った。
これまではマリーも遠慮していたようだが、俺が告白して以降は彼女から積極的に行動するようになった。
「これもリームのお陰であり、リームのせいだからね。
私たちは感謝しているし、文句もないし、不安もないわよ。なので……、祝いの席なんだから後ろに引っ込んでいるんじゃなく、領主様らしく、ね」
そうだな……、新年早々俺が不安顔では皆にも影響するよな。
俺は改めてマリー手を取って、皆の前に進み出ていた。
新たに変わった歴史、新たに加わった仲間たちと挨拶を交わす傍ら、俺は改めて前回の歴史を反芻していた。
三度目の世界の歴史の流れは大きく変わり、未来は全く予想が付かないものになっている。
本来であれば……。
◇二度目:十七歳時点(今と同じ時期)
・トゥーレの社交場でアリスと出会い、その後に死別
・巡検使として三男がフォーレに到来
・俺の領地から三男の追放と、長兄との確執の始まり
・ヴァーリーが仲間に加わり、虎狼の里との同盟
・獣人だけで構成された戦士団の設立
・魔の森に進出する足掛かりとして、新たな開拓地の開発
考えてみれば十七歳で発生するイベントは全て終わっているか、そもそも無かったことになっている。
アリスは娼館に送られることも無かったし、長兄は前回より早く世を去り、辺境伯位は三男のレイキーが継いでいる。
獣人に関わる三つのことも、既に終了したイベントだ。
なのでこの先の未来も大きく変わっている……。
◇二度目:十八歳時点
・クルトとの出会い、そして共に教会と孤児院を改革
・トゥーレにて誰もが無償で学べる学校の設立
・魔の森への進出過程で、餓狼の里との対立
これは俺とルセルが、それぞれ役割を変えて歴史通りに、だが数年前倒しで実現している。
俺は孤児院をぶっ壊し、ルセルは教会を徹底的に締め上げた。
ルセルはトゥーレで、俺はフォーレで学校を設立している。
そしてルセルは高圧的な態度で餓狼の里に服従を迫ったが、俺は前回は敵であったガルフを味方とし仲間に加えていたことで、里を救うべく動いた。
◇二度目:十九歳時点
・教会と儀式を無償化を推進し魔法士獲得を強化
・頑なにルセルの説得に応じず、暴走した獣人は開拓地を襲撃
・ブルグの命令を受け、開拓地を襲った餓狼の里を討伐
・その際に残った僅かな生き残りを保護
この時点での出来事も少しだけ形を変えて前倒しで進み、既に過去の話だ。
ルセルは教会を脅す傍ら、クルトを抜擢して魔法士獲得の強化に乗り出した。それもある程度実績は残したものの、肝心のクルトは賊に襲われ行方不明、教会は旗頭を失い魔法士獲得は頭打ちとなった。
結局ルセルは餓狼の里を滅ぼしたが、実際には滅ぼせていない。ガルフの手引きにより里に住まう獣人たちを救い、俺たちの仲間に加えたからだ。
この流れで奴は獣人弾圧へと舵を切り、俺は獣人救出へと動いた。
ただ……、あの時救い出した生き残りの中にまだ幼かったフェルナが居たはずだ。
俺が二十四歳の時点で心を操られ、俺を殺した彼女が……。
今の時点、俺が17歳ならば彼女はまだ九歳。
恐らく餓狼の里からフォーレに移り住んだ獣人たちに混じり暮らしているのだろうが、俺は敢えて彼女を探さなかった。
きっと今は幸せに過ごしていると思う。前回は里を攻略する過程で亡くなった家族と共に……。
なので彼女のことはそっとしておきたかった。
そう、敢えて彼女をこの先の過酷な運命に引っ張り出す必要はない。
◇二度目:二十歳時点
・疫病後に移り住んだシェリエと共に魔法兵団を設立
・魔法士と獣人たちの協力で魔の森への開拓が加速
・国王が崩御し、王都では二人の王子の争いが激化
・最終的に多くの貴族の支持を受けた第一王子が勝利
この時点の話が、今は現在進行形となっている。
俺とルセルは共に魔法士部隊を持ち、魔の森の開拓を推し進めている。
ただし、奴の方は途中で頓挫しつつあり、俺の方は今もなお発展途上の違いはあるが……。
そして当時は全く関わりのなかった王位継承争い、これが前倒しで激化している。
今はまだ国王の存命中だが、早々に動き出した第三王子が前回より地盤を固めてきており、更に俺たちに背中を押された第二王子も動き出した。そのため今や王位継承争いは三すくみとなって混迷を極めている。
◇二度目:二十一歳時点
・第一王子によって第三王子が暗殺され、第二王子は国外へ逃亡
・敵対勢力を一掃した第一王子が国王として即位
・それに対し隣国のルガール皇国が侵略を始める
・迎撃に出たガーディア辺境伯軍と周辺諸侯の軍は惨敗
・遅れて駆け付けたルセルは皇国軍を撃退、国境外へ押し返す
最大の政敵を暗殺した阿呆(第一王子)は、調子に乗って第三王子の後ろ盾であったルガール皇国に第三王子の首を送り付けた。
これに怒り狂った皇国が攻めてくるのだが、この戦いで功を焦って突出し、勝手に戦端を開いた三男が戦死、巻き込まれた甲斐性なしの四男は降伏するが敢えなく首を討たれる。
大きな損害を受けたガーディア辺境伯軍が引いたことで、周辺諸侯の軍は戦場に孤立し殲滅される。
この失態は阿呆(第一王子)が戦の口実を作り、阿呆が敗北を招くという『W阿呆』の競演作と言っても過言ではない。
結局のところ勝利したものの、『辺境伯頼り難し』との風潮を王国の中枢に生まれていた。
そして俺は、皇国軍を撃退する過程で最後の四傑と出会い、彼を仲間に加えていた。
◇二度目:二十二歳時点
・魔の森の開拓はフォーレまで至り、新たに街を作る
・国王の命によりガーディア辺境伯に就任し近隣の領地の併合
・領内を立て直すため、トゥーレで行っていた改革を辺境伯領全土に広げる
・引き続き国境での小競り合いが続くなか、先の侵攻で降伏して帰参した兵たちを中心に、弓騎兵部隊を設立
新たに辺境伯となった俺は、領地の防衛を行いつつ領内の改革にも手を付けた。
実際のところトゥーレ以外は長年の悪政で疲弊していたし、軍に至っては大きな損害を受けていたからね。
結局手が足らず、降伏して忠誠を誓った者たちまで登用するしかなかった。
ただ彼らは継続していた国境線を巡る戦いでも予想外に奮戦し、既に前年の戦いで『三傑』と称されていた者たちに加え、新たな将を誕生させることになった。
この結果、俺の配下には『四傑』と呼ばれた将に率いられた、比類なき強さを誇る四つの独立部隊が誕生した。
◇二度目:二十三歳時点
・前年より国王が課した税に苦しむ王国の南部辺境の貴族たちが蜂起
・これに呼応するかのように、王国南部一帯で民衆反乱が発生
・逆にルガール皇国は国境線から兵を引き、北国境は沈静化
これについては前二つの謎解きは完了している。
結局のところこの反乱や民衆蜂起は、国外に逃れた第二王子が後ろで糸を引いていたからだ。
だが、今になって考えると不思議なこともある。
あれだけ執拗に国境を攻めていたルガール皇国が、ある時期を境に一斉に兵を引いたことだ。
もちろん『四傑』活躍したことで、彼らの損害がばかにならないと判断したとも言えるが、果たしてその程度のことで手を引くだろうか?
王国内は乱れて疲弊していた。ならば再び国を挙げて軍を送る好機とも考えられるはずだ。
◇二度目:二十四歳時点
・王国南部を守る辺境伯軍は、反乱軍討伐に出た途中で南部諸侯軍により敗北
・これにより民衆蜂起は激しさを増し、王国全土へと飛び火
・ガリア帝国が突如として王国南部より侵攻
・この状況下で、北の辺境伯ルセルに討伐の大命が下る
結局のところ南部辺境の貴族四家だけが起こした地方反乱、簡単に討伐されると思われたものが、実は壮大な罠であった。
簡単に勝利できるとタカを括っていた辺境伯軍は、後方から後詰に入るはずの伯爵率いる南部諸侯連合軍によって奇襲を受けて壊滅し、更にオセロの様に数家の貴族が反乱側へとひっくり返った。
このことで勢いを得た民衆反乱は王国全土に飛び火し、これでもう王国内はガタガタになる。
そこに満を持したかのようにガリア帝国が侵攻を開始する。
これが前回の俺を終焉に導いた流れだ。
だが三度目の今回は、ここに至るまでの歴史に多くの分岐点を生み、新たな未来、混迷の中に進み始めている。
そんななかで第三王子を支援し、歴史の流れに逆行するかのように動く奴の思惑とはなんだ?
それに俺は、この先でケリを付けなければならない重要な事柄も待っている。
それにしてもルセルとは……、一体何者なのだろうか?
奴は俺と同じように未来を読み、それを逆手に取って行動してきた。
だが……、もし俺であれば絶対に守るべく動いた『アリス』について奴は全く無頓着だった。
俺自身のアリスに対する気持ちを奴は知らない?
もし奴が俺でなければ、そうなるだろう。
俺が生きた二度目で、アリスとの関わりだけは俺しか知らない特別なものだったからだ。
家中の者すら俺とアリスの関りを知らず、知っているのは俺と二度目のアリスだけ。
唯一二度目の世界でのクルトは、俺とアリスが少なからず関係があったと知っていた程度だ。
そう考えると……、奴は俺であって俺でない!
俺をよく知る者が、俺を装っているだけだ。
ここに来て俺の疑惑は確信へと変わり始めていた。
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次回は4/15に『変わりゆく勢力図』をお届けします。
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