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ep164 四畳半会議

いつもご愛読ありがとうございます。

末尾に次回以降の投稿のご案内があります。どうかそちらもご確認いただけると幸いです。

この日、俺が王都からゲートを繋いで用意した特別な会議場には、俺を含めて七人の男たちと、三人の女性を招き入れていた。

今回は各所から報告があるため、定例の会議より参加者の人数が多い。

中心となるテーブルには五名が、その脇に設けられた椅子には二人の男性と三人の女性が座っている。


「さて、今回でフォーレで行われた初回を含め、『四畳半会議』も三回目となった訳だが、先ずは各自から報告を聞かせてもらえるかな?」


冒頭で第二王子が言ったヘンテコな会議の名前だけどさ、もうちょっとマシなものにならないかな?

そもそもの原因は、たまたま俺が口を滑らして、この空間を『四畳半』と言ってしまったことだけどさ。


『四畳半という名の空間に、世間から見れば大それた夢を見る『四人の半端者』たちが集う、まさにうってつけの名ではないか?』


そう言った第二王子の鶴の一声で決まったんだけどさ……。

なんか複雑だよな。


「では私がお預かりした件について、今回招いた各担当者から報告させてもらいます。

先ずは近衛騎士団について、頼めるかな?」


そう言った俺の指示で、奥の席に座っていた直掩騎兵部隊長に任命したカーズが立ち上がった。


「殿下よりお預かりした一千騎に対する訓練は順調です。餓狼砦周辺に棲まう中位種程度の魔物なら、既に問題なく討伐できるほどに練度は上がっております。今後は我らと共にフォーレ周辺に展開し、集団戦で上位種が討伐できるよう訓練に入る予定です」


そう、カーズが率いる五百騎の精鋭部隊、魔の森での戦闘経験が豊富な駐留兵上がりの者たちでさえ、俺たちに合流した当初は集団戦でも中位種への対応が精一杯だった。

そんな彼らもヴァーリーたちの指導で鍛えられ、経験と知識を積んで今があるからね。


「ははは、すごい進歩だね。私の我儘を聞いてくれたリュミエール殿を始め、訓練教官の皆には改めて感謝を」


そう、近衛師団の第二軍から遁走したと言われた一千名は、落ちこぼれなどではなく、俺が第二王子の依頼を受けて順次フォーレに送った者たちで、第二王子に最も忠誠を誓う精鋭たちだった。


ただ王国最精鋭と言われた近衛兵ですら、そのほとんどが実戦経験もなく、言ってみれば張子の虎だった。

平和な時代に、この国で最も過酷な戦闘訓練ができるのは魔の森でしかなく、魔物との戦いを通じて実戦さながらの訓練を積んで今に至る。


「まずはその一千名を中核として近衛師団第二軍を再編する。でもその前に彼らは、来る侵攻に備えて辺境伯への援軍としたい。

引き続き『対価』は、アスラール商会にある私の個人口座から支払うので、どうかよろしく」


第二王子は『預かり料』として、彼らの俸給込みで年間で六万枚の金貨を託してくれている。

訓練を引き受ける代わりに有事には辺境伯の援軍として、彼らの指揮権も預けてくれている。


「では、次に魔法士の状況について、及びその育成状況について報告を頼めるか?」


俺の言葉に今度は奥の席からクルトとシェリエが立ち上がった。


「今回は殿下の送っていただいた二十名、辺境伯様の送っていただいた三十名、更に訓練中の近衛兵一千名を対象に適性を確認いたしました。その中で一割近くが適性ありと判断され、魔法士として戦力化を進めています」


「「おおおっ!」」


クルトの言葉に殿下と兄は明らかに驚いた様子で声を上げていたが、俺たちは微妙な表情を押し殺していた。

何故ならクルトの説明は、俺の指示で敢えてひとつの手順を隠しており、本来の確率よりかなり低い結果だと分かっているからだ。


本来なら全員に深淵種の魔石を使い、直接儀式に臨ませて確認すれば、人威魔法や地威魔法レベルの適性者なら、今よりもかなり増えたかもしれない。

ただ……、さすがに一千枚を超す羊皮紙はまだ用意できていないからね。


そのため身の回りを世話する女性中心の五十名(20+30)は直接確認、一千名は有力候補者のみ発見できる『担い手』探しの手法で事前確認し、それを踏まえて儀式に臨ませていた。


「これにより神威魔法の使い手こそ発見に至りませんでしたが、天威魔法なら五十名、残りの三十六名も地威魔法を行使できる魔法士となっております」


「「……」」


あれ? どうして黙っているんだ?

神威魔法の使い手が出なかったことに落胆しているのか?

そんななか、兄のレイキーがおずおずと口を開いた。


「その……、クルト殿、私の聞き違いかな? 天威魔法の使い手が五十名と聞こえたのだが……」


「はい、仰る通りです。残念ながら神威魔法は……」


「違う! 違うのだ! 天威魔法が使える者が五十名も発見されたなど、前代未聞の話ではないか!」


あ……、そっちね。

ただそもそも使っている魔石が深淵種のものだからね。非常識な結果も当然のことで……。

躍起になって何百人、もしかしたら千人を超える対象者に確認を進めているルセルでさえ、たった五人しか発見できていないからね。


()()(の魔石)とは違うのだよ! ()()とは……』


思わず好きなセリフを言ってしまいそうになった……。

いかんな。


「育成状況はシェリエからお願い」


俺は自分が笑ってしまいそうなのを押し殺し、話を先に進めることにした。

この点を深堀されても困るしね。


「はい、先ずは近衛師団の方から四名を近侍として転向いただき、三十四名は近侍として殿下や辺境伯の護衛に特化した形で優先して訓練を進めております。

残った五二名は近衛騎士団の魔法士部隊とすべく、今後は集団戦を視野にいれた訓練を行う予定です」


「ははは、改めて世間の常識はここでの非常識、それを思い知ったよ。ちなみに彼女たちはいつ頃から復帰できるのかな?」


「はい、次の四畳半会議までには」


「ありがたいな。では今度は魔法士関連では私からも報告があるからね。

男爵リュミエールが兼ねてから話していた羊皮紙だが、『心ある』教会関係者から三百枚ほど横流ししてもらったよ。今回持ってきているのはそれだけだけど、今後も目立たぬよう定期的に贈れると思う。

あと、これは魔法士発掘のお礼だから、対価は不要だよ」


ははは、一気に三百枚か。凄いな。

なら……、全員確認を進めた方が良かったかな? と言ってもまだ全員分には足らないんだけどさ。


「コホン、そういう意味では私も礼をせねばならんな。ガデルの教会から百枚、なんとか確保した。

今はトゥーレの教会が血相を変えて要求しているらしく、些少で申し訳ないが……」


「殿下、兄上、ありがとうございます。今後も確認を進めていきますので、お二方も追加で対象者が居れば遠慮なく送ってください」


「うん、引き続き頼むよ」

「承知した。手間をかけるが頼らせてもらう」


「そう言えば殿下、先ほど『当面は辺境伯への援軍としたい』と仰っていましたが、近いうちにルガール皇国が動き出すと?」


「そうだね、第一と第三の近衛師団は徐々にそれぞれの軍団長の色に染まりつつあるからね。

対立は激化しているけど、今は足固めに奔走しているかな? 国王陛下が健在な間は目立った動きもできないが、ただ……」


ここで殿下は言葉を詰まらせた。

何かあるのか?


「陛下も先年に胸の病を患って以降、体調がすぐれない時もあってね。

第三軍や第三王子は皇国を写す鏡だから動きがあれば知らせるし、その際には国境の守りを固めてほしい」


そうか、この頃から兆候は出ていたんだな。

俺の知っている前回の歴史では今から四年後、俺が二十歳の時に国王陛下は崩御する。

残された猶予は既に四年を切ったところだが、歴史は加速して動いている。一番遅くて四年であり、それはずっと早まる可能性の方が高い。


「ちなみに……、もう一方(第一王子)の方の動きは?」


「玩具(第一近衛軍)を手に入れた阿呆は、使いたくてたまらないのだろうね。

しきりに演習と称して無駄な遠征を繰り返しているよ。もちろん狙いは脅しだけどね。旗色を明確にしない貴族たちの領地近くまで兵を出しているよ」


やはり阿呆だな? 脅せばなびくとでも思っているのか?

却って反感を買うこと、敵対陣営を焦らせることになると思いが至らないのだろう。


「もし彼が調子に乗って王都を遠く離れ、東西南北いずれかの辺境にまで足を延ばし、王都に隙ができた時が危ないと思う」


「殿下の第二軍はどうです? そうなった時に王都で睨みを効かせていれば第三王子も易々と……」


「前評判がすこぶる悪かったからね、今はまぁ……、ボチボチだね」


殿下の表情から察するに、手応えはありそうだな?

そのあたりは察するだけで留めていたほうが良いかもしれない。


「ところで男爵が依頼していた調査内容だけど、アイヤール殿からお願いできるかな?」


そうだった、それも今後の大事な布石だったな。

俺が示したなかの数家は、既に第二軍に子弟を送って来ているらしいので、そこはもう確定だと思う。


「はい、リュミエールさまが示された十二家、そのうち四家は以前より殿下とも繋がりがあり、第二軍に子弟を送ってきており、旗幟を明らかにしております。

残った八家のうち五家は旗頭となる伯爵家の意向次第、二家はまだ明確な動きを見せておりません」


なるほどね、カギは伯爵家の意向か。

あとの二家は日和見の可能性もあるな。


「加えて追加の八家ですが、それなりにしっかりとした領地運営ができているようです。

中には『この時期に王国内で揉めてどうするのだ!』と現状を憂いている者もおります」


「そこでだ、私から男爵に相談……、というかお願いがあるんだ。

これからは政治の話になる。貴族間を立ち回って影響力を発揮し、正確に我々の意図を伝え説得できるほどの人物、能力は高いが動いても目立たない人物となると、なかなか居なくてね」


確かにな……、俺にも心当たりは一人しかいない。

王都の事情に通じ、貴族間の交渉にも慣れ、能力も忠誠も信頼できる人物となれば……。


「もう察しは付いたと思うけど、バイデル殿を一時的にお借りしたい。

無理なお願いであることは重々承知しているのだけどね」


やっぱりそうだよな。

バイデルは俺にとっても大事な仲間であり、交渉事では最強のカードの一人だ。

できれば一時的とはいえ手放したくはない。


「リュミエールさま……」


俺の苦衷を知ってか、バイデルが言葉を掛けてきた。


「領主代行としての仕事は既にクルト殿に引き継いでおります。この老骨が殿下の、リュミエールさまの未来にお役に立てるのであれば……」


うん、俺には分かる。バイデルは望んでそう言ってくれているのではない。

あくまでも『察して』くれているのだ。

そんな彼だからこそ手放したくないが、彼には王都での知己も多く家臣間の繋がりもある。


「正直な気持ちとしては不本意ですが、殿下とこの国の未来を考え、バイデルをしばらくお預けします。

彼は私の仲間である以上に恩人であり、ガーディア辺境伯家にとってもかけがえのない柱石です。

今の私が在るのはバイデルあってのもの、それだけ大事な人材、私にとっては親以上に大切な存在であること、これだけは敢えてお伝えさせてください」


そう、バイデルが居なければリュミエールは存在しなかった。

そして今のフォーレもここまで発展しなかった。


「そ、そこまで私を……」


バイデルは俺の言葉に涙を浮かべていた。

ってかさ、俺って今までバイデルに対する感謝の気持ち、面と向かって本人に言ってなかったっけ?


ふとこの場では書記として参加し、ずっと沈黙していたアリスとマリーに目が合った。

アリスは嬉しかったのか涙ぐみながらも『よくできました』と言っているような気がする。

マリーは満面の笑顔で何度も何度も大きく頷いていた。


あ……、やはり言ってなかったか……。

彼女たちにとってもバイデルは師匠だもんね。


この後も辺境伯あにからの防衛体制構築の進捗……、と言っても獅子身中の虫がいるから内々に進めているものについての報告や、商会長からは王都の市場動向の報告、追加で俺からはフィシスの現状について報告を行い、『第三回四畳半会議』は幕を閉じた。


少しだけ……、俺の心に寂しさをのこして……。

いつも応援ありがとうございます。

これまで三日おきの投稿を続けておりましたが、繁忙期が重なったこともあり書き溜めのストックもほぼ無くなってしまいました。

そのため今回以降は当面の間、一週間おきの投稿とさせてください。

いよいよ本来意図してきた展開に入ったなか、楽しみに読んでいただいた皆さまには大変申し訳ないのですが、どうかご理解いただければ幸いです。


次回は4/8に『異なる歴史みらいへの分岐点』をお届けします。

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