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ep162 未来に向けた謀議

餓狼砦での視察を終えたのち、俺たちはフォーレの街中へと移動すると、別件で一行から離れていた商会長も合流し、二人が案内人となって来賓に街を案内した。

もちろんこの過程で、第二王子からのリクエストによりフォーレでしか味わえない最上級の魔物の肉を使った食事を摂り舌鼓を打ってもらった。


一時は驚きの余り何度も魂が抜けたように呆然としていた二人も、街中では小さな発見や驚きに感心しつつ気兼ねなく楽しんでいたようだった。

第二王子も兄も、金額には糸目をつけず即決で多くの物品を購入していたけどさ、特に第二王子は大丈夫なんだろうか?


「あの方は商売上手ですからね、王都ではあの方の目利きなら喜んで買い取る商人も多いんですよ。

多分今回の買い物も王都に戻れば、少なくとも四〜五倍で売れるんじゃないですかね。

支払いはウチの口座を使われるので、総額で金貨一万枚から二万枚程度は買われると思いますよ」


「!!!」


なら今回の買い物だけでも相当な金額だ。

それを王都で販売し、軽く金貨五万枚以上の収益を得るということか?


「各商人に口座を設け、うまく資金を隠蔽いんぺいされているようですが、個人が抱える財力なら三人の王子の中では比べようもないほど抜きんでていると言っても過言ではないでしょうね」


そうなんだ? それは予想外だな。

いや、前回の歴史でアスラール商会を通じて民衆たちにバラ撒かれたのも、そういった資金なのかもしれないな。



◇◇◇



一通りの観光と買い物が終わったのち、俺たちは行政府に集まった。

参加しているのは第二王子と辺境伯あにに加え、こちらからは俺と商会長とバイデルだ。


「さて、今日は心より楽しませてもらったよ。そのお礼がまだできないのは心苦しいけどね。

覚悟を決めた私から、皆にはお願いがある」


冒頭から第二王子は自ら話し始めた。

これは今まで会話も受け身であったことから考えると大きな変化だ。


「これから私は、より大きな資金を得るため商売に精を出すつもりだが、先ずはアイヤール殿、これよりおおやけにはアスラール商会と疎遠になろうと思うが、隠れ蓑となる商会は手配できるかな?」


そうか、今後第二王子として目立つ動きをするに当たり、アスラール商会とズブズブだと商会も敵陣営から警戒されてしまう。

下手をすると敵対勢力により、王都での取引から排除される可能性もあるしな。


「はい、足の付かない商会なら既に用意がございます」


そう答えると商会長は不敵に笑った。

おそらく同じことを考えていたのか、それとも常に代替となる商会を用意しているということか?


「では、アスラ見物に浮かれた愚かな私は、滞在先で盛大に『ぼったくられて』酷い目にあったことにしようかな?」


ははは、相手が第二皇子でなければ良くある話だ。

そういう意味では一部の愚かな貴族の間で悪名が轟いているからね。


「そこで作った莫大な借金を返済するため、住まいまで質に取られた私は、王都に戻ってからも必死になって商売に勤しむことになるだろう」


この言葉には全員が苦笑せざるを得なかった。

あまりにも『もっともらしい』筋書きだからだ。


「次にガーディア辺境伯、アスラに滞在した世間知らずの私は、無理難題を言って辺境伯に多大な迷惑を掛けてしまい、『お帰り願い』を申し渡された。

そういうことにしてもらえるかな?

ルガール皇国が侵攻した際、迷惑を掛けてしまうことになるからね」


この点も商会と同じ話だな。

ガーディア家が第二王子陣営と知れれば、『敵国の侵攻にかこつけて潰してしまえ』ともなりかねない。


「それに、今回の件で撃退できる戦力は十分にあると確信したが、獅子身中の虫もいることだしね」


この言葉に商会長は大きく頷いた。

もしかして……、商会長が第三王子にルセルが近づいていることを告げたのも、情報の出元は第二王子なのか?

数多くの商人と繋がっていることから、独自の情報網を持っていると?


俺は無意識に殿下をじっと見つめていたが、それに気付いたのか殿下は小さく頷くと微笑んだ。


「私は腑抜けと名高いからね、油断して口を滑らす者も多いのだよ。それに『利』によって動く商人たちも多いからね」


ははは、そう言うメリットもあるか。


「先ずお心遣いに感謝いたします。

我らとしても面目次第もなく……、殿下の足を引っ張らぬよう仰せの通りに。身内の不始末は必ずや我らの手で」


そう言って兄は深く頭を下げた。


今回の第二王子訪問の前段として、俺は王都でのルセルの動きを兄に伝えていた。

もちろん兄は激怒した。


直ちにルセルを廃そうとする兄に対し、想定される未来の危険、王位継承争いの余波、それぞれの結果で俺たちに及ぼす影響予測を説明した。

それらを踏まえて今は領内の戦力増強と国境の防衛に注力し、当面の間はルセルを泳がすことが賢明だと説得した。


裏切りを怯えるより、『裏切る前提』で動けば良いことだ。そうすれば反間の計を用いて、此方が有利になるケースもある。


「そして最後に男爵には……、もう少し頻繁に、月に一度ぐらいは屋敷を訪れてもらえると助かるな。

もちろんフォーレでしか得ることのできないもの、食材を含めて私に託して貰えると助かる。

私としても十分な対価は支払うし、当面の間はそれが一番の支援になるからね」


ははは、資金は自分で都合をつけるから、商売のタネを回して欲しいということか?

確かに俺の倉庫(岩塩洞窟)には、高価すぎて商売にならない物や得体の知れないモノも山のように眠っているしな。


「承知しました。私は元々王都のとある貴族に預けられていることになっております。しかも身分も男爵であり気に掛けられることもないでしょう」


「助かるな。それと出来れば男爵の抱える魔法士を何人か、私の家中で働く者として寄越して貰えると嬉しいのだが……、それはいささか難しい話かな?」


「そうですね。殿下のお側に、となると直ぐには難しいでしょう。事前に作法やしきたりを学ばせる必要もありますし……」


ましてただの貴族に仕えるならまだしも、曲がりなりにも王子殿下だからね。

王族ともなれば、本来ならメイドや使用人も全て、ちゃんと教育を受けた下級貴族の子女が務めるものだ。


待てよ、そんな迂遠うえんな事をせずとも良いのではないか?


「その代わりと言っては何ですが、殿下の家中で絶対に間違いのない者、間諜の恐れがなく信用できる人物のなかから魔法士を発掘することは簡単かもしれません」


「「???」」


これだけでは訳が分からないよね?

全てを話すことはできないが、どうするかな……。


「これは我らの秘事なので詳細は申しあげられません。

ですがフォーレに住まうヒト種からも、何人かに一人の高確率で魔法士の適性を得る手段が確立されています」


「「なんと!」」


「これは兄上も同様です。何人かをフィシスに送っていただければ、それを試すことは可能です。

ただし! ひとたび魔法士となれば殿下や兄上を害する力を持つことも事実、フォーレの秘密を知ることにもなるので、絶対の信が置ける者、かつ、口の固い者だけ、この条件は外せません」


リスクはあるが、身の回りを世話する者の中に魔法士を紛れ込ませることが出来れば、二人の安全性は格段に跳ね上がるからね。


それとまだ俺からも伝えておくことがあるな。


「殿下、そして商会長、今から申し上げる貴族の調査を進めていただけますか?

もしかしたら殿下のお味方になるかもしれません」


そう言って俺は、二度目の人生で王国に反旗を翻した各家の名を思い出せた限り挙げた。

その数、十二家。上は伯爵から下は男爵まで様々だ。


「それに準じてこれから名を上げる八家も調査対象としてください」


次に挙げたのは、前回の歴史にてウチ以外で反乱が起きなかった数少ない領主貴族だ。

全部が『当たり』という訳でもないと思うが、反乱が起きない=善政を敷いていた、と想定できる。

そんな貴族なら味方としておきたい。


「……」


俺の提案に第二王子は暫く絶句して固まっていたが、何故だ?

俺は変な事を言ったか?


「私はリュミエール殿がつくづく恐ろしいと思い、改めて寒気がしたよ」


そう言ってなお、殿下は青い顔をしているが、どうしてだ?

今の発言の何処が恐ろしいんだ?


「一体どこからその情報を得たんだい? 私と繋がりのある貴族、注目している貴族が全て調査対象として挙られた中に含まれているのだが……」


ビンゴ!

そっちだったか……。


裏事情を知った上で歴史をなぞらえれば、反乱を起こした貴族は殿下の意に沿って動いたとも考えられる。

そうでなくとも第一王子の悪政に疑問を抱き、行動に移った者たちだからね。

そう言った意味では可能性が高いんだよね。


「今はご容赦ください。としか申し上げられず心苦しいのですが。それとお願いはもう一つ」


ちょっと話を逸らすために俺は話題を切り替えた。

まさか未来を見て来たとも言えないしな。


「教会が魔法士の適性を確認する際に使用する『特別な』羊皮紙、これを百枚単位で密かに手に入れることは可能ですか? 出元は王都の中央教会ですが、主要都市の教会にもそれなりに数はあるはずです」


今のところ羊皮紙の予備は相当数ある。

だがこの先は殿下や兄の傍付きとして、更に兵としても相当数の魔法士を確保したい。

ならば新たにもっと羊皮紙が必要になるからね。


「ふふふ、これまでと同様、我らの未来に向けた策謀かな? 横流ししそうな者はきっといるだろうね。

因みにその対価は?」


「一枚あたり金貨五枚を出しても惜しくはありません。まとまった数が用意できるのであれば、追加で五割増しまでは対応します」


「分かったよ。中央教会と繋がりのある商人に当たってみるとするよ。教会の中にも金で動く輩はいるからね」


「私もガデルの教会に当たってみよう、同じように金に目が眩む輩は必ず居るだろうからな」


「ありがとうございます。では今後、定例会として月に一度、このメンバーで会合を開くのはいかがでしょうか?」


ん? 皆の反応がイマイチのような気がするが……。

またしても俺は変なことを言ったか?


「もっともな話とは思うのだが……、目立った動きは出来ないし、たった今、辺境伯とアイヤール殿とは疎遠になると言ったばかり。集まるのは至難の技と思うが?」


あ、そう言うことか!

ふふふ、俺はそれもちゃんと考慮した上で提案していますよ。


「通常ならば、殿下の仰る通りです。

ですが、初めて殿下の居館からここを繋いだ日のことを覚えていらっしゃいますか? そもそもですが集まる必要はないのです。『繋げは』良いことです」


「「「!!!」」」


そう、大きく移動するのは俺だけだ。


殿下 → そのまま王都

辺境伯→ ガデルからフィシス(経由でフォーレ)へ移動

商会長→アスラからフィシス(経由でフォーレ)へ移動

俺  →王都に移動しフォーレへのゲートを繋ぐ


「なるほどな、あの空間(四畳半)の中で会合を行えば、大きく移動する必要もなく、集まっていることも露見しない、そう言う訳だね?」


その通りだ。

それが出来れば必要な物の受け渡しや情報の共有も直接できるし、敵陣営から訝しがられることもない。



この日より俺たちは各所で動き始めた。

新たに名乗り出た、王位継承候補者を推すために……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は3/29に『近衛師団の変化』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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