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ep161 王道楽土への覚悟

周囲の景色に驚愕する二人を前に、俺はフォーレ一帯の説明と周辺の地勢について説明を始めた。

レイキーはもちろんだが、第二王子にもまだ四畳半の出口付近からチラ見せ程度にしか見せていなかったからね。


「まず前方に広がる魔の森深部ですが、ここはまだ深部の入り口に過ぎません。この周辺には上位種の魔物が数多く棲息しておりますが、たまに伝説と言われた深淵種でさえ出没します。

トゥーレから先、魔の森を抜けてここまで辿り着くのは正に至難の業といえます」


「「……」」


二人は半分口を開いたまま、ただ茫然としているけどさ、ちゃんと聞いてるよね? 

ちょっと刺激が強すぎたかな? 

このまま説明を続けて大丈夫だろうか?


「最も外側で外周を巡る防壁が、危険な魔の森とフォーレ一帯を隔てる要となります。

その内側にここサクヤと名付けた砦、対をなすコノハナと名付けた砦があり、平時は農地や兵たちの駐留する拠点となります」


「へ、兵だと? フィシスに配備した者たちの他に駐留兵もおるのか?」


「はい兄上、この魔の森深部でも十分に戦える兵が二千、防衛時に出動する自警団が五百名、フィシスに駐屯する三百名を含めて二千八百名ほど……」


幸いなことに捕虜としていたルセルの配下の最精鋭五百騎は、俺の軍に所属してくれるようになった。

もちろん紆余曲折はあったが、家族を呼び寄せたこと、男爵ルセルの領地に住まう者たちもこの先も守っていくと約束したこと、辺境伯のお墨付きを得ていることなどで最終的に落ち着いた。


「そうか……」


この時点で兄は再び上の空になっていた。

辺境伯配下の兵でもまだ一万には届かない。ルセルの擁する兵を含めてやっと一万を超える程度だ。

そんななか、俺たちは三千名近い戦力を有しているのだから、当然といえば当然だ。


「このフォーレ一帯には出張で出ているものを含め、七千人を優に超える人々が暮らしております」


「な、七千人?」


正直言ってこれらの数字もおかしいんだけどね。

総人口の半数近い兵を抱えているなんて、普通なら経済的に破綻しておかしくない。

ただ常備軍は農地などの生産活動にも協力しているし、魔法兵団もまた然り。

自警団の五百名も本来は現業を持っているからね。


なによりも増して、魔の森から受ける恩恵があるからこそ、こんなアンバランスでもなんとかやって行けている。

ただこれは、かなり特殊なケースと言わざるを得ないのが現状だ。


「住民の半数以上は迫害されて追い出された獣人たちで、他にもトゥーレの裏町や貧民街に住んでいた者たち、孤児院で虐待されていた者たちや身売りされた元孤児たち、奴隷とされていた者たちなど、差別に苦しみつつも必死に生きてきた者たちです。

そんな者たちがここに集まり、自分たちの街として共に人として認め合い共存しております」


そう、俺自身を含めこの世界では『必要とされなかった』者たちだ。

最初は生きるための街が、今やこの国を守るための街に変貌を遂げているのは、とても不思議な話けどね。


「最初は自分自身を、そして関わった孤児院の仲間たちを救いたい。そこから始まり、いつの間にか輪が大きくなりました。ここでは一切の差別や理不尽もない、彼らが安心して暮らせる街だと誰もが胸を張って言えます」


「はははははは、誰もが欲しない未開の地(魔の森)を敢えて父が、遺言にまで残して賢弟に与えた理由、それがやっと合点がいったわ!

我らの父は……、誰よりも未来を見ていた訳か」


いや……、それは違うんだけどね。

確かに父は行方知れずの我が子(俺)の未来を憂い、バイデルに託していた。

だけど遺言や領地の件は俺たちの創作だからね。

ちょっとだけ気まずい気持ちになった。


「なるほどな……。男爵は小なりとはいえ外界と隔絶された一国を領有しているに等しい訳だ。

崇高な理想の基に、この地で王道楽土を実現していると……」


ははは、美化しすぎですよ?

繰り返すが俺は、生き残るためにやってきただけですからね。もちろん、今回の視察を含めて……。


「これより街をご案内する前に、フォーレの守りの要である餓狼関門と、我らの力の一端をお見せしたく思います。それでは左手に見えるもうひとつの砦(コノハナ)に移動します」



◇◇◇



俺たちは視察の第二段階として、コノハナの転移ゲートを使って餓狼関門に移動していたが……。

ここでも二人は絶句していた。


「なるほど……、これでは侵攻した敵軍はひとたまりもありませんね」


「まさかここは、男爵ルセルの軍が大損害を受けたという……」


そびえたつ城壁の上から、関門に続く隘路や左右に広がる断崖絶壁、上部に設けられた構造物を見て二人は大きなため息を吐いた。


()()()()()()脅して恐怖を植え付け、潰走させただけです。男爵の軍が被害を受けたことに変わりはありませんが、誰一人として死亡していません。恐ろしい魔物に食われたと言われる兵たちも保護したのち、今や我らに帰順してくれています」


「ははは、よほど恐ろしい目にあったようだね?」


そう言って第二王子は心地よさげに笑った。

まぁ、当事者でなければそう笑える話なんだけどね。


「ではここで少し、安全な場所から彼らが遭った『恐ろしい目』を披露させていただきますね」


そう言うと二人は何故か怯えるような目をしていたが……、どうしてだ?

意地悪ではなく、絶対の安心感を抱いてもらうためには必要なことだと思うのだけど。

俺は小さな不安を抱きつつも右手を振り上げた。


俺たちの周囲からは轟音を立てて雷鳴が響き渡り、数百の雷撃が左右の断崖に突き刺さると同時に、崖下の隘路からは高さ五十メートルにも及ぶ爆炎の壁が、五百メートル先まで立ち上った。


「「!!!」」


いや……、兄は腰を抜かしたのかへたり込んでいるし、第二王子もまるで小鹿のように脚はカグカクと震えていた。

いや……、『安全な場所』からって言ったよね?

確かに耳をつんざく轟音と、爆炎の上げる熱気は伝わってきたけどさ。


「なるほど……、二万や三万程度の軍でも敵わぬと大言壮語できる訳だ。いや、これなら容易たやすくく国を亡ぼせるほどではないか?」


そう言いつつ殿下、化け物を見るような目で俺を見ないでください!

ってか兄は……、譫言うわごとのようにブツブツと何かを繰り返し呟いているし……。


かなり加減したんだけど……、刺激が強すぎたかな?


そうは思いつつも、俺は右手を振り下ろした。


それを合図に物陰に隠れていた重装騎兵六百名と獣人戦士団四百名、魔法兵団五百名が一斉に姿を現し鬨の声を上げた。


「「「「「応っ! 応っ! 応っ!」」」」」


総勢で一千五百名の声が谷間に響き渡った。


これで俺たちの武威も伝わり、安心して提案に乗ってくれるは、ず?


あれ?

二人の来賓はまるで魂を抜かれたように呆然となっていた。

ここは『頼もしく』思ってもらう流れのはず……、だよな?


「殿下の後ろにはこのような精兵が控えております。また、隣国との有事には彼らがブルグの一翼となって戦場に馳せ参じます」


「「あ、ああ……」」


反応がイマイチだな……。

でも予定していた行動を進めるしかないよな。


「二人は前に!」


俺の言葉に応じ、まだ愛くるしい少女と言って差し支えない二人が現れると、来賓の前で一礼して片膝を付いた。


「二人は先ほどの魔法攻撃を指揮した者たちです」


正確には指揮したのではなく、彼女たちだけでやってのけた大技なんだけどね。

あまりにも個人の雄を誇ると後に危険視されることもあるため、俺は敢えてそう言うようにした。


「見事な……、いや! そ、其方は……」


兄はシェリエの顔を見て驚愕した。

あの一件以来、ずっと行方不明であった彼女が目の前にいるのだから当然といえば当然だ。


「ご無沙汰しております。レイキーお兄様、いえ、ガーディア辺境伯閣下。

私もリュミエールお兄さまに救われ、こうして命を長らえておりました。改めて我が兄ルーデルがご迷惑をお掛けしたこと、心よりお詫びいたします」


「其方も……、共に我が賢弟に救われた身、そういうことか? 現時点では公式に其方をガーディア家の世子に戻すことはできんが、非公式に我が妹としての立場を回復させ……」


そこまで言いかけた時、シェリエは指を口に当ててそれを制した。

悪戯っぽく笑いながら。


「ブルグと兄は対等の敵手として戦ったのです。恨みはなく罪は甘んじて受けたいと思っています。

ですが、兄を貶めた男を討つ日まで、お目こぼしをいただけると幸いです」


「ふふふ、私と其方は同じ敵手に対する同志となる訳だな。いずれは兄の名誉も回復できる日も来よう。

それで許してくれるか?」


その言葉にシェリエは涙を浮かべながら笑った。

少なくとも今後、彼女は反逆者として扱われることはなくなった。もちろん、内々に……、ではあるが。


「ところで先ほどの魔法は貴方も指揮を?」


久しぶりの対面を見守っていた第二王子は、シェリエと同様に膝を付いていたツクヨを見て怪訝な顔をしていた。

うん……、その気持ちは分かるよ。シェリエだけでなくツクヨも『似つかわしくない』点では同じだ。


「はい」


ツクヨは短く答えた。

こういった来賓に対することは、彼女にとっても初めての経験だからね。

余計なことを言わないよう、極力言葉少なくを意識しているのだろう。


「この二人は共に傑出した魔法士ですよ。これで殿下を支える我らの戦力、ご理解いただけたかと……」


「た、確かに……」


「殿下が仰った王道楽土、それがこの国にあまねく行き渡る日まで、私たちは助力を惜しまないつもりです」


その言葉で殿下は、すっと表情を変えた。

そして、大きく息を吐いた。


「私も覚悟は決まったよ。逃げることなく、正面から民たちを救うべく動いてみるつもりだ。

辺境伯、男爵、私に力を貸してくれるか?」


「はっ! 殿下の仰せのままに」

「はい、殿下の進まれるところ、我らが尖兵となりましょう」



ここで本来進むべき歴史の流れは大きく変わった。

ともに敗者となる予定であった第二王子、第三王子の陣営には協力者が現れ、陰ながら暗闘を始め出したからだ。


この日より、ベルファスト王国は王位継承を巡って二者の戦いから三つ巴の戦いへと大きく舵を切ることになる。

それが及ぼす未来への影響を、この時点では誰も知る由もない。

いつも応援ありがとうございます。

次回は3/26に『未来に向けた謀議』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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