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ep158 策謀渦巻く王都

リームはアイヤールの情報を受けてある決心すると、その意を受けたアスラール商会も本格的に動き出した。

そして……、それから既に数か月が過ぎていた。



◇◇◇ 王都 とある離宮にて



贈り物を満載して辺境より遠路、旅して来た商隊の車列は、目的地の王都に入ったあとは人目を避けるように『とある高貴な方』が住まうとされた離宮へと吸い込まれていった。


ただ不思議なことに、その車列には名だたる商会の旗が掲げられておらず、それが異例のことであったのは言うまでもない。


そして……、献上の品を披露するため、商隊を率いていた男が離宮の一室に招かれた。


「遠慮はいらぬ、面を上げよ」


そこで上げられた顔に、屋敷の主は少し怪訝な表情をした。

これまで何度か訪れた使者とは異なり、貴公子然とした男が顔を上げたからだ。

ひとしきり意味ありげな笑みを浮かべた後、屋敷の主は再び口を開いた。


「ほう……、此度は男爵本人がお出ましかな?」


その言葉に男爵と呼ばれた男は満足げに頷くと不敵に笑った。

ただ質問に対しては、何も答えなかったが。


「当の男爵は領地の屋敷にずっとこもっております。故に王都まで足を運んだ事実はございません。

ただ、殿下のご明察にはきっと驚いていることでしょう」


殿下と呼ばれた男もまた、再び満足気に笑うと鷹揚おうように頷いた。


「ははは、そういうことにしておくか。

これまでも男爵より献上された贈り物の数々、ありがたく受け取っていると伝えてもらえるか?

して……、今回は何を持参して来たのだ?」


訪れた男の後ろには贈り物が小山のように積まれていたが、彼にはそんな物を差配するために男爵自身が王都まで出てきたとは考えられなかった。

その問いかけにも満足したのか、男爵と呼ばれた男は再び笑みを浮かべた。


「さすがは阿呆と評判の方とは違い、物事の端々までご覧になっていますね。

今回の贈り物は形無きものです。こればかりは人伝では真意が伝わにくいと考え、御前に参じました。

男爵より『我らは殿下の戴冠を支持し、目的のために犬馬の労を厭わない』との言伝を預かっております」


「ふふふ、其方の主家は我が母の故国に蓋をする役目を担っているのと思うが?」


「仰る通りです。ただ蓋は所有者の意思で取り外せば済むもの。実に簡単なことで……。

そうすれば()()()は大挙して国境より流れ込むことが叶いましょう」


「ほう? その過程で蓋の主は滅んでも構わぬということか?」


「次節の見えぬ愚か者にございます。大義のためならそれも些細なことかと……。

内と外から圧を受ければ、蓋は自ずと壊れます。そこで新たな担い手が登場することもあるでしょう」


「ははは、大儀であった! 今回の目に見えぬ贈り物、至極満足したと男爵に伝えてもらえるか?」


「ありがたく……」


「私は今後も男爵を頼みとし、願いが叶った暁には功に報い相応の地位を与える。そのように伝えてもらえるか?」


「はっ、確かに」


そう言って頭を下げた男爵の目は鋭く輝き、口元は綻んでいた。



◇◇◇



ちょうど同じころ、王都にある別の離宮を訪れる者たちがいた。


「あの方はまた『悪い癖』を出されているのか?」


「そうだな、高貴なお立場にあるにもかかわらず、熱心に商人の真似事をされているのだからな」


「商人ごっこか、言い得て妙だな」


こちらの商隊には王都でも評判のアスラール商会の旗が掲げられており、それはここ最近ならよく見られる光景だった。


そのため商隊は、人々が囃し立てる中で堂々と離宮の中へと入っていった。


「殿下、今回は特に珍しい『格別のもの』を持参しましたので、きっとお眼鏡にも叶うことと思います。

どうかお手柔らかに頼みますよ」


離宮の一室に招き入れられた商隊を率いた男の言葉は、一応の礼節は保っているものの、不謹慎とも言える程に『くだけた』ものだった。

だがそれを咎めるべき者は居ない。

この場には三人の者以外は誰もおらず、当の本人たちも全く気にしていなかった。


「ほう、アイヤール殿が敢えてそう言われるとは、楽しみなことでもあるな。

それで『格別のもの』とは、アイヤール殿が後ろに伴った『者』と見たが……、どうだ?」


「ははは、流石に殿下の目は誤魔化せませんね。これまで私が商売上の交渉で舌を巻いた相手は三人だけ。

この場にそのお二人が揃われたことになります」


ちなみにアイヤールが舌を巻いた三人、そのなかでこの場に居ないのは、当時はまだ八歳であったシェリエであった。

そして彼の傍に居たのは……、僅か十歳にして商談でアイヤールの舌を巻かせた男だった。


「殿下には初めてご挨拶させていただきます。

ガーディア辺境伯家の末子、リュミエール・フォン・ガーディアにございます。

この度はアイヤール殿のお得意様である殿下にご挨拶がしたく、不躾ながら参上いたしました」


「ははは、私も商売人として男爵には興味があったからね。普通なら誰もが領地として望まぬ、人の手が及ばぬ魔の森の奥地に領地を持っているとはいえ、そこはまだ開発も及ばぬ隔絶された土地」


リュミエールは、ひとつひとつ、ゆっくりと綴られる第二王子の言葉を、それらの意味する内容を注意深く聞いていた。


「にも拘わらず、珍しい魔物の素材をふんだんに抱えている男爵から流れて来る商品には、私もずっと興味を抱くだけでなく恩恵を受けているからね」


「……」


これにはリュミエールも閉口せずにはいられなかった。

第二王子は言外に、アスラール商会はもたらす素材は魔の森に領地を持つリュミエールが流している、そう言っているからだ。


「もっとも、その確信を持ったのはたった今だよ。アイヤール殿と商売上で並々ならぬ繋がりがあると感じたので、ね」


その言葉を受けてリュミエールは大きな息を吐くと苦笑した。

いや……、覚悟を決めたと言った方が正しいだろう。


「やっぱり殿下は私が見込んだ通りのお方ですね。商会長から話を聞いて面白い方だと思っていました。

もちろん交渉事では油断のならない、ひとかどのお方であるとも……。私は腹芸が苦手ですから『商売として』秘密を守ってくださるなら、包み隠さずお話しするつもりです。その代わり……」


『貴方も本心を見せてくださいね』、そうリュミエールは言外に語った。

既に彼の中では、第二王子を『想定以上』の人物と見ていたからだ。


「私は王都では何の野心も持たぬ『腑抜け』と揶揄され、王族にあるまじき行いに没頭する『変わり者』、商売に勤しむ『卑しき者』だそうだ。

ただそうあらねば生きてゆけないほど、私には力も後ろ盾もないからね」


そう、見た目だけなら覇気もなくただ道楽として商売を楽しむ無害な優男やさおとこ、そうあるべきと自己を戒め、形式上は第二位の王位継承権を持つ身でありながら、ただ生きることを許されていただけの存在に過ぎない。


自虐しながら苦笑する第二王子を見て、リュミエールもその思いに駆られていた。


「だからこそ我らも長くお付き合いしたい、そう考えております。取り急ぎ物騒な『商売』の話は後ほど行うとして、先ずはリュミエール殿からの土産を披露させてください」


そう言ったアイヤールに対し、リュミエールも大きく頷いた。


「ですね……、まずはこれらを。『お土産』として些細なもので恐縮ですが……」


「!!!」


こともなげにリュミエールが取り出した品々を見て、第二王子は息を飲んだ。

お土産とされた品物も別格だが、そもそもリュミエールは何もないところから次々と品物を取り出している。


「なるほど……、リュミエール殿も商売人としてはうってつけの者、そういうことか」


思わずそう呟いた第二皇子の前には……。



『晩餐用』として、王都では入手すら不可能とまで言われた最上級の魔物の肉塊(カリュドーン)


『調理用』として、王都でも高値で取引される最上級の岩塩、それが塊となった十数個。


『防寒用』として、深淵種の魔物の皮を使って作られた最高の防御力を誇るベストや腕あて。


『調理具』として、深淵種の鱗より削り出し、プレートアーマさえ容易く貫く逸品ものの短剣ナイフ


観賞用おきもの』として、深淵種の素材をふんだんに使用した最強の防御力を誇る軽装鎧と、それを展示する台などのセット。



正確な価値や素材の種類こそ分からないが、どれも一見しただけで王都でどれほどの値が付くか分からない、最上級品とされた物ばかりだった。


もちろんカリュドーンの肉以外は説明された用途のものではなく、少々物騒な代物であったのは言うまでもない。


防寒用とされたものは、護身用

調理用とされたものは、攻撃または護身用

観賞用とされたものは、軍装として使用できるもの


「……」


今度は第二王子が絶句する番だった。

彼の想像を遥かに超える、リュミエールという人物の真価の一端に触れたことで……。

だが、まだ彼は全てを知らない。


この後の『商談』こそがリュミエールやアイヤールが訪問した本来の趣旨であり、その内容には何度も絶句させられることになることを……。



この先の未来を知る二人の男爵は、それぞれの思惑に従って新たな動きを始めた。

策謀渦巻く王都の地で……。

いつも応援ありがとうございます。

次回は3/17に『物騒な商談』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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