表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/182

ep157 過去への追憶(王国の抱える火種)

商会長の話を聞いた俺は、二度目の俺を破滅に導いた最後の階梯、過去の未来にあったの出来事を思い出していた。

前回の歴史にてベルファスト王国は、俺が当事者として関わっただけでも二度、隣国より侵攻を受けていた。


もちろんそのひとつは、俺が命を落とすことに繋がったガリア帝国の侵攻だが、もうひとつは俺が辺境伯に抜擢される契機ともなった戦争、北の大国であるルガール皇国の侵攻だった。


そもそもこの二つの国による侵攻は、現国王の王子たちの中で発生した王位継承争い、第一王子と第三王子が原因で発生する。


あれは俺が二十歳の時だった。


王国最大派閥の領袖である貴族の娘を母に持つ第一王子と、隣国の国王の娘を母に持つ第三王子、この二人が崩御した国王の跡を継ぐべく、宮廷や諸外国を巻き込んだ後継者争いを始めてしまった。


そもそも第三王子の母は、嫁いだ時点ではルガール皇国の王族ではあったが、王弟の娘という立場であったため、それほど権威もなく王国にもたらす『しがらみ』も小さなものだった。


だが……。


後になって王弟は兄の皇王や他の王位継承者をしいし、皇国を乗っ取って皇位に就く。

それにより第三王子は、隣国の王の孫として絶大な後ろ盾を得るに至った。


『片やあの第一王子……、これもまた最悪なんだよな』


小さく呟くと俺の心はあの日に飛んでいた。



◇◇◇ 二度目の人生 ルセル・ファン・ガーディア 二十二歳



侵攻してきたルガール王国軍を撃退して逆転勝利を成し遂げた俺は、その功績を称すると言われて王都に招かれていた。

そこで元第一王子で、即位したばかりの新国王と初めて会うことになった。


「ルセル・フォン・ガーディアよ、卑怯にも宣戦布告なしに我が国土に侵攻した、ルガール皇国軍を逆転勝利の上で退けた其方の武勲、まことに見事であったぞ」


「とんでもありません。これも陛下のご威光と我が将兵たちが命を賭して戦ってくれたお陰です」

(ってかさ、卑怯も何も……、余計なことをして隣国が攻めてくる大義名分を与えたのは貴方でしょうが!)


俺は心の中で抗議の声を上げていた。


そもそもの話、自身の王位継承が固まったにもかかわらず、敵対していた第三王子を殺し、あまつさえ首をルガール皇国に送りつける必要は無かったよね?

そんなことをするから、皇国は怒って攻めて来るんだよ!


噂通り阿呆と言われた男は、そんなことも分からないのか?


「これより余は、辺境伯を友と思い頼りにしたいと思っているぞ」


「はい、その旨しかと兄にお伝えいたします」

(それは辺境伯である長兄の役目だからな。男爵でしかない俺は阿呆と関わりたくないし、これ以上振り回されるのも御免被りたい)


「何を言っているのだ? これは余の前に居る其方に言っているのだぞ?」


「???」

(この阿呆は何を言っているんだ?)


ここで小さく咳払いした、ここ最近になって新王に任命された内務卿が割って入った。


「この度の皇国軍撃退の功に対し、『ルセル・フォン・ガーディアを北の辺境伯に任命せよ』との仰せでな、異例のことではあるが、我らも其方の長兄では荷が重いと考えておる」


「……」


確かに長兄はルガール皇国軍にこっぴどく敗退した。

だがその原因はもう一人の阿呆、三男であったレイキーのせいだ。


奴が功を焦って突出した結果、ものの見事に敗退して更に敗走する過程で友軍を巻き込み、運悪くそこに布陣していたのが無能物と評判の四男だったため、更に混乱に拍車を掛けてしまった。


 そして辺境伯軍は、それを契機に一気に瓦解してしまったのだから……。


言ってみれば長兄の失策と言うより、彼ら二人によって大きく足を引っ張られて自滅したのだ。


「辺境伯に代わって其方は兄たちの無念を晴らし、王国の名誉と辺境伯領を救ったのだ。

内務卿は異例と言ったが、圧倒的に数で勝る敵軍に完全勝利した英雄への処遇として、むしろ当然のことではないか?」


緒戦で三男は戦死、四男は降伏して慈悲を請うたが首を切られ、長兄はガデルへ敗走したため敵軍は領内深くへと侵攻した。

そこに遠くフォーレから駆け付けた俺たちは、ヴァーリー、アーガス、シェリエ率いる特別編成部隊と、カーズ率いる直属騎兵部隊で敵の後方から逆襲した。


兵力差は十対一と大きく劣勢だったが、まずアーガスらが敵軍の補給線を絶ち、シェリエ率いる魔法兵団が敵軍の本隊を殲滅、ヴァーリーたちが混乱する敵軍を各所で食い破る活躍を見せたことで敵軍は全面撤退し、俺たちは勝利することができた。


「それだけではないぞ、余は新たな辺境伯となる其方に褒美を二つ用意しているぞ。

ひとつ目は、新たな辺境伯となる其方には、周辺にあった男爵領を二つ、子爵領を一つを取り潰し、ガーディア新辺境伯の領地として加増する」


「それは……、なりません!」


無礼を承知で俺は抗弁した。

そんな事をやられたら、俺だけではなく取り潰される三家もたまったものではないからだ。


「そうは言うが、奴らは今回の戦いで何も役に立たなかったではないか?」


それは違う!

彼らは役に立たなかったのではなく、国を守るため命を賭して戦い、数に抗しきれず敗れたのだ!


そんなことをされたら彼らは死に損だ。

ましてこの先、命を賭して国を守ろうとする貴族が居なくなるではないか!


「どうかそれだけは……、彼らの奮戦に対し、後継者を庇護し、王国はこの先も彼らの家が存続するように……」


俺がそこまで言いかけたところで、新国王は大きく首を振るとそっぽを向いた。


「もう決めたことよ。既に王命として領地を没収する使者を出し、役立たずの家族共は既に捕縛しているからな」


「!!!」


なんてことをしやがる!

コイツは本当に何も物事が見えていない阿呆か?


これには内務卿ですら大きなため息を吐いていたが、当の阿呆は自慢気に胸を張っている。


「そして褒美の二つ目、今回のような危急の事態に備えるため、王国として新たな常備軍を設立する。

そのため各貴族には領地の大きさに合わせた『相応の税』を新設して課すことになるが、其方の加増領地分は二年間に限りこれを免じる」


いや……、それって褒美か?

戦った者たちに褒章を与えるのではなく、更に税として金を絞り取ると?

勝手に加増した領地分はニ年だけ増税を免除してやるから喜べと?


「陛下、どうか考えを改めていただくことはできませんか? これでは貴族からの反発が相次ぎます!」


「ふふふ、その様な不心得者が出れば、其方が討伐してくれれば済む話ではないか?

この件は既に王都にて発布済であり、今更改めることもできんわ」


「……」

(くそっ、噂通り……、いや、それ以上の阿呆だ! 救いようのないほどの……)


俺は目の前が真っ暗になるような気持ちで王都を後にした。


今回の戦禍によってガーディア辺境伯領が受けた痛手も大きい。そして侵攻軍を撃退したとはいえ、ルガール皇国は健在であり、今もなお虎視眈々と国境を窺っている。


強引に任じられてしまった新たな辺境伯ブルグとして、やるべき事が山積していたからだ。


そしてこの時に国王が発した愚策こそが、最後の戦いを巻き起こす直接の原因となる。



俺の予想通り阿呆の愚策は王国の貴族たちにとって大きな負担となった。

結局のところ一部の余裕があった貴族や善政を敷いていた貴族以外、多くの貴族たちはその負担を直接領民に押し付けた。

増税という形で……。


それによって王国の民からは、貴族や国王に対する怨嗟の声が各所で上がり始めた。


更に度し難いのは、この二年後になっても税を絞り取るだけ取った彼らは、約束された軍を創設する事もなく、日々国王とその取り巻きは遊興三昧であった。


ここに至り各地で領民たちの不満は爆発する。一部の貴族の王国離反を契機に……。


慌てた阿呆(国王)は、フォーレの恵みや内政が功を奏したことで健全な領地経営ができていた俺たちに白羽の矢を立てた。

北部辺境の最前線を守る俺たちに、南部辺境への出兵という『有り得ない』命令を以て……。


そして俺は、南部辺境に出兵の最中で人生の終焉を迎える。



◇◇◇ 三度目の人生 リュミエール・ファン・ガーディア 十六歳



結局のところ俺の望まぬ栄達も、俺の人生の終焉も、この二人の争いがもたらすものだった。

そして……、それが再び再現されようとしている。


「くそっ、どっちに転んでもダメじゃねぇか!」


俺は思わず机を叩いて叫んでいた。

まだ先の話、そう思っていたことが目の前に迫っていることで冷静さを失っていた。


「リーム殿? ご気分が優れないご様子ですが……」


そう言った商会長は、怪訝けげんな顔をして俺を見ていた。

やべ……、思いっきり心が前回に飛び、思わず不自然なリアクションをしてしまったよな?


確かに気分は優れない。

自身の未来が果てしなく暗いこと、二人の王子が俺にとっては共に最悪の手札、ジョーカーであることを改めて思い出したからだ。


実のところ、これまでの俺はそこまで先の未来を考える余裕が無かった。

敢えて考えないようにしていたこともあるが、本来なら二十歳になった後の出来事であり、それまでにも優先して解決すべき事案が山積していたからだ。


三年後の未来すら見えない中で、五年後の未来を心配しても意味はない。

だが今となっては……。


「商会長、奴の思惑をどう思いますか?

第三王子は地政学上でガーディア家と敵対する陣営、敢えて奴が接近する理由とは何でしょう?」


「これまで辺境伯の家中で立ち回ったこと、それと同じ事を考えているのではないでしょうか?」


確かに奴は次兄ルーデルに接近して焚き付け、最後に裏切って三男レイキーに付いた。

であれば第三王子に接近して焚き付け、暴発させた後に梯子を外し、最終的にあの阿呆(第一王子)と共に歩むつもりか?


史実として阿呆(第一王子)は前回の俺を辺境伯にした。ならば今回のルセルに対し同様の対応を取る可能性はある。

商会長の予測を裏付ける『事実』を俺は知っている。


もしかすると奴もそれを……。


「今のところ第三王子の陣営に留まる想定、それを裏切る想定、この両面を考えておく必要がありそうですね」


俺は奴の思惑が見えないことに、不気味な恐怖を感じていた。本来ならどちらに転んでも『詰み』のはずだ。にもかかわらず……。


「因みに王都での第一王子の評判はどうですか?」


「一言で申し上げれば……、阿呆ですな。家柄だけは良いようですが世間知らずで自己中心的、権力欲が強く周囲を顧みない独善的な男と称されています」


「……」


やっぱりな、前回と何も変わっていない。

今のところガーディア辺境伯家の未来、いや、俺の未来は詰んでいるということか?


第一王子が継承争いに勝利すれば既定の路線、もしくは上手く立ち回ったルセルが辺境伯家を支配する可能性もある。


第三王子が勝利した場合、少なくともルガール皇国と国境を接するガーディア辺境伯家は多大な影響を受けるはずだ。

もちろん好ましくない方向に、だけど。


この場合ルセルは、第三王子を押した側の人物として更に大きな権力を掴むと予想され、その過程でガーディア家を売り飛ばす可能性すらある。


「やっぱり八方ふさがりか!」


未来を知るが故に、俺は行き詰まりを感じずにはいられなかった。

この先の展開を知っていることが、逆に足枷になるとは思ってもみなかったけどさ。


未来を……。

待てよ!


「商会長、王都にはもう一人、同年代の王子がいましたよね?」


「ははは、腑抜けと評判の第二王子ですか? 彼の母親は子爵家の出です。そのため何の後ろ盾もなく国王になることはないでしょう。ですが……」


そこまで言って商会長は苦笑した。

俺は彼の最後の言葉が引っ掛かった。


「ですが?」


「商売人としてはなかなかの人物ですよ。我が商会もそれなりに取引をさせてもらっていますので」


「ぼったくりではなく?」


商会長は俺の意図した意味を理解して頷いた。

アスラール商会がまっとうな取引をする貴族といえば、それなりのタマなのだろう。


そうだ! 

俺の知っている歴史でも、第二王子は後継者争いには参加せず、いや、ハナから蚊帳の外だったが、王位継承を固めた第一王子の追っ手を振り切って国外へと逃げおおせている。


「商会長、先ずはリュミエールとして第二王子と非公式に繋がりを持ちたいと思っています。

力を貸してもらえますか?」


俺は過去の歴史にはなかった、新たな手立てに出る決心を固めた。

これが吉とでるか凶となるか、それはまだ誰にも分からない。

だが、新たな転機となる可能性はある!


俺の決心、未知の未来へと足を進める覚悟を決また事で、世界は新しい潮流を生むことになる。

いつも応援ありがとうございます。

次回は3/14に『策謀渦巻く王都』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ