ep149 常識と非常識
俺たちは遂に念願を叶えることになった!
俺にとって最初の同志であり、その後もずっと協力してくれていたクルトを、本当の意味で仲間に加えることが叶ったからだ。
モズ郊外から救出部隊と共ににクルト一行を連れてフォーレに戻ると、ゲートの出口には大勢の仲間たちが彼らを迎えるため集まっていた。
彼らの先頭に居たアリスは、真っ先に飛び出すとクルトに抱き着いた。
「クルトお兄ちゃん……、良かった、本当に良かった」
「ふふふ、折角背伸びしないでもいい、本当の大人になったのに……、アリスはあの頃のままだね」
そう言って泣きじゃくるアリスを、クルトは優しい目をして彼女の頭を撫でていた。
その後も元孤児だった者たち、イシスなどが一斉にクルトに飛びつき、クルトはもみくちゃにされていたけどね。
「これまでもクルトは何度かこちらに来ていたし、ずっと仲間だと思っていたけどさ、皆がここまでなるとは思ってもみなかったよ」
「ふふふ、だからリームはいつも『疎い』って言われるのよ。クルトはリームより先に孤児院を救おうと動いていたし、一番にフォーレに来たいと思っていたのにずっと私たちのために我慢してくれていたもの。
皆はそれを知っているから余計にね」
確かにマリーの言う通りか……。
クルトはずっと心を押し殺して教会に進み、そのなかで最善を尽くしてくれた。
俺が三度目の世界で明確に動き出せたのも、思いを固めた発端はアリスだが、行動に移った原点はクルトだ。
そう考えるとクルトには感謝してもしきれないよな。
「なるほど、主さまが一目置くお方なのですね?
私自身、主さまが最も多く番を抱えている方と思っていましたが、あの方はそれを凌ぐ……」
こらツクヨ! 話を変な方向に持っていくんじゃない。
せっかく感慨深い気持ちになっていたのにさ。
そんなやりとりをしていると、いつの間にかクルトが俺の前に立っていた。
「リーム、いえ、リュミエールさま、やっとフォーレに根を下ろすことが叶いました。
改めてよろしくお願いします」
いや……、クルト、改めてそんな通過儀礼みたいな挨拶はいらないよ?
「我らのあらたな希望の光に!」
彼に応じたアーガスの言葉に、周りにいた全員が膝を付いて頭を下げてしまったけど……。
この場をどうすれば良いんだ?
「こ、これからもよろしく。早速だけどクルトには任せたい仕事がたくさんあるし、報告も聞きたいからさ、夜はここに集まった皆を招待して歓迎会を開く予定だけど、悪いけどこれから首脳部と会議に……」
慌てて言葉を繕う俺に対し、クルトは優し気な目でみつめ返すと大きく頷いた。
「はい、私からも追加の報告があります。それを含めて是非!」
ん? どういうことだ?
アスラール商会を通じて聞いていた報告以外に何かあるのか?
表情から察して良い報告だとは思うけどさ。
◇◇◇
クルトを迎えたのち、彼が引き連れてきた者たちの対応はレノアとイシスに任せ、俺とバイデル、アリスとマリー、シェリエとアーガスなど、現在フォーレに居る主要者で会合を持った。
もちろんそこには勉強のため、ツクヨもオブザーバーとして参加させている。
「ではクルト、早速だけど報告をお願い」
「はい、先ずは敵対戦力の最新情報です。
現在男爵が抱える軍は騎兵が一千二百、歩兵が一千八百で総勢で三千に達しようとしています」
ちっ、商会から報告が上がっていた数より多いな。
大動員令を掛けた奴は、本気で戦う準備を進めているということか?
「それをクルトはどうやって?」
「アリス、僕は男爵に願って兵士の中からも候補者を探す許可を得ていたからだよ。
『調査隊』を率いて各地を回る際、必要に応じて各地で兵士の総数を確認していたからね」
流石だな、ただ目的を果たすだけでなく、今後を見越して戦力把握まで。
奴は戦力を秘匿し商会の目さえ欺いていたけど、クルトには丸裸にされたと言う分けか?
「加えて魔法士の数は百八十名、その中で警戒すべきは火属性天威魔法を使う二名と、雷属性天威魔法を使う三名です。地威魔法しか使えませんが、残忍な性格で危険な奴らもおり、獄炎と雷獣の周りに集まっています。それが十人。
二人を含めこの十二人は、『特務部隊』として権限を与えられており、各所で暴威を振るっています」
ちっ、獄炎に雷獣か?
特務部隊というより虐殺部隊だろうな……。
「改めて皆に申し渡しておくけど、奴らに限っては遠慮は無用だ。攻撃しようとしてきたら直ちに先制攻撃を許可する。奴らには人の心がなく、虐殺を楽しむだけの外道だ。餓狼の里、いや、ザガートの仇でもある。遠慮なくやって構わない」
「主さま、それでは奴らは引き裂いて皆殺しにしても構わないと?」
「「「……」」」
いや、そういう意味で言ったけどさ。
まだクルトにはツクヨのことを説明してないし、あのお姫様と見紛うばかりの美少女がそんなこと言ったから……。
クルトがドン引きしてるぞ?
ザガートの話が出て、先ほどまで戦意をむき出しにしていたアーガスでさえも……。
「彼女はその……、特殊な環境で育ったので今はまだ常識を学んでいる途中で、言葉を取り繕うことが苦手だからね。でも、意図することは正しいよ」
「ですが……、今や戦力として私たちが完全に凌駕していますわ。クルトさまが用意してくださった羊皮紙に加え、他にもお兄さまの戦力強化は進んでおります」
俺の気持ちを汲んでくれたのか、シェリエが話題を変えてくれた。
あとでクルトにはツクヨ以外にも諸々(フェリスやフウカやホムラ)のことを説明しとかないとな……。
「あ、そうでした! これも報告すべきことですが、出立前にギリギリ届いた羊皮紙を含め、持参した儀式に必要な羊皮紙は五百枚になります」
「!!!」
いや……、事前の報告では三百と聞いていたけどさ。
二百枚も上積みできれば、十分に安泰と言える数だよ。
と言うことは……、トゥーレの教会にある羊皮紙を、根こそぎ持ってきたことになるな?
羊皮紙まで失った奴は、当面の間は魔法士を発掘できない。これも大きな援軍といえるぞ。
「それでは私たちは、現時点でも数と質で逆転し、これから先は更に差を開くことになりますわ。
現在天威魔法を主軸とする攻撃主力部隊が四十五名、支援系の天威魔法や攻守合わせて地威魔法を行使できる支援部隊が百三十五名おります」
「ははは、それは凄いですね。数だけでも男爵の抱える魔法士と同数、質で言えば天と地の開きが……」
いやクルト、もっと驚くことになるぞ。
先ほどシェリエが言った数は、専任の魔法士だけだからね。
「先ほど申し上げたのは、魔法士として魔法兵団に所属し役割を担っている方の数です。それ以外にも個人戦なら人威魔法程度を使用できる剣士や、他の部署に所属している方たちも居るので、それを含めれば二百名は軽く超えますわ」
「えっ?」
シェリエの言葉にクルトは固まっていた。
彼が想像した以上に圧倒的な数字だったが、これは全て彼がもたらしてくれた結果でもある。
「確かにね、私やマリーもシェリエさんが言った『数』には入っていないけど、人威魔法や地威魔法が使えるもの」
「えええっ!」
しまった!
これもまだクルトには言っていなかったんだ。
これまでクルトは極力短い時間しかフォーレに滞在していなかった。なので伝えられる情報にも限りがあったからね。
まさかアリスやマリーまで、そう思っても不思議ではない。
「ははははは、どうやら『彼方の常識と此方の常識は大きく違う』と言った僕自身も、頭の中が全く追い付いていなかったことがよく分かったよ。改めてアリスたちから学ばせてもらいます」
「そ、それで今回、クルトが率いてくれた候補者たちもいるんだよね?」
俺はしょげるクルトに対し、すかさずフォローを入れた。
ずっと苦心して候補者を確保していてくれたと聞いたからだ。
「は、はい。同行した五十名のうち四十名は、有望な者たちで為人も問題ありません。
残りの十名は『担い手』としては十分ですが、深淵種の魔石でどこまで伸びるかは不明です」
少なくとも四十名の新戦力か! それは凄いな。
クルトが新たに持ち込んでくれた羊皮紙の件もあるし、深淵種の魔石も今や懐事情が全く違うからね。
「更に追加として、アスラ経由で此方に来る僕らが匿っていた十名は、とても有望ですがまだ幼かったり、まだ手が離せない乳児を抱える母だったりと、男爵に引き渡すのは忍びなく……、結果を偽り密かに匿っていた者たちです」
「うん、その辺りは落ち着いてからフォーレに来てもらって、本人の意思確認を踏まえて対応しよう。
俺たちも本人が強く望まない限り、未成年(十五歳未満)には儀式を受けさせていないからね」
そう、俺たちは戦う前提で魔法士を集めている。
なのでシェリエなどの例外を除き、基本的に十五歳以上を不文律として定めている。
「ではクルトがもたらしてくれた最新情報で色々と更新できたことでもあるし、あとはクルトへの情報共有の場としたいけど……、皆はどうかな?」
俺の言葉により、そこからはクルトに対するレクチャーの場となった。
ここ一年ちょっとで、余りにも色々と変わったからね。
今や俺たちの常識となっている非常識については説明しなければならない事が多々ある。
『神獣(主にフェリスと玉藻さん)』について
『俺が受けた神獣の加護』について
『ツクヨ』と『フウカにホムラ』について
『固定式転移ゲート』について
『餓狼砦』について
これらを説明する過程でクルトは都度大きな驚きの声を発し、そのあとに大きな溜息が漏れるのを何度も確認することになった。
「こ、こんなの……、非常識すぎて覚悟をしていた僕でさえ理解が追い付かないよ……」
最後にクルトが漏らした言葉、さもありなんと思う。
これまでの経緯で同じ思いをさせられた者たちも、みんな彼を温かい目で見守っていた。
いつも応援ありがとうございます。
次回は2/18に『過去の想いとの決別』をお届けします。
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