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7-2

 まずはこの屋敷の人間を把握しよう。

 既にヘルメスが紛れ込んでいるという可能性もある。ヘルメスの変装は完璧で、誰も判別することが出来ない。それは俺も同じだ。


 だが、予告状の謎を解いていけば自然とヘルメスのところへ行き着く。

 つまり俺たちは皆、あいつに遊ばれているというわけだ。

 腹立たしいことこの上ない。



「それでだ。この屋敷には何人いるんだ?」

「え? そうね、絹谷と秘書の長沢、それと私を含めて使用人は四人よ。詳しくは執事と庭師が男で、メイドが二人ね」

「六人か……。皆住み込みで働いてるのかい?」

「いえ、住み込みで働いてる人はいないわ。ローテーションで執事かメイドのうち、一人は屋敷に泊まることになってるけどね。ちなみに今日は執事は休みよ」

「なるほど」


「それと、長沢は仕事の関係でよく宿泊してるわ。ここ最近は予告のこともあって、ずっと泊まってるわね」

「ん? 仕事って、彼はもう引退してるんじゃないのか?」

 持っていた会社を全部引継ぎをして、会長職になったと聞いているが。

 しかも絹谷は子供がいないために現在の社長たちは彼の部下で、少しずつ経営方針が変わっていっているという。絹谷自身も時代の移り変わりを感じ、それを認めていると協会からの調査書には書いてあった。


「会長になってもいくらでも仕事はあるわよ。あなたみたいに、いつも呑気にコーヒー飲んでるわけじゃないわ」

「俺だってちゃんと仕事してるのに……」

「私がアデプトに行くと必ずいるじゃない。それは偶然かしら?」

「ぐっ……」

 探偵という職業はなかなか世間に認めてもらえないようだ。

 これ以上頑張ったら過労死してしまうというのに……。



「まぁいい。ヘルメスを捕まえて見返してやる」

「無理だと断言した上で手伝ってあげるわ」

 紬ちゃんの言葉を聞き流しながら部屋の調査を再開する。

 応接間には梯子を連想させるようなものは見当たらないが、家具や置物などを一つずつ調べていく。

 さすが高級品というか、どれも肌触りが心地よい。


「……ん? なんだこれ」

「あっ……」

 足の付いたキャビネットの底と床との十センチくらいの隙間に手を入れると妙な出っ張りがあった。それは奥の方へ細い管のようなものが続いていて、指で追っていくと小さな金属の筒に繋がっていた。

 テープで固定してあるようなので剥がして取り出してみると、チューブと小さな機械の付いたスプレー缶のようなものが出てきた。


「なんじゃこりゃ」

「……催涙ガスよ。変なことして噴出させないでよね」

「これ、君が付けたの?」

「そうよ。良く出来てるでしょ? 無線式で操作出来る優れものよ」

「……まさか君が作ったのか?」

「ええ、私の特技なのよ。大抵のものは作れるわ。他にもカメラや盗聴器、発煙筒、閃光弾なんかも仕掛けてあるわね」

「屋敷中に?」

「もちろん。予告の日にどこに絵があってもいいようにね」



 なんてことだ。

 ……ってことは、紬ちゃんの犯行手口は恐ろしく大胆だな。彼女は盗み出す場所を自分のテリトリーにしてしまうのか。

 それで、この屋敷にメイドとして潜入していたわけか。

「ちなみにいつから働いてるの?」

「もう一年くらいになるわ」

「凄いな……」


 リスクは大きいが一年もかけて準備をしていけば、うまく探偵を騙すことも出来るかもしれない。まぁ、俺には通用しなかったわけだが。

「やっぱり急いで付けたものはダメね。すぐにばれちゃったわ」

「え?」

「今回は一人で盗むことになっちゃったから、急遽数を増やしたのよ。……それまでのは家具に埋め込んだり置物とすり替えたりしてあるから、そう易々とは見抜けないんだけどね。ちなみに、あなたは今までに十二カ所見逃したわ」

「マジか……」


 もし、俺が怪盗セルリアの正体を知らず、なおかつ紬ちゃんの予定が狂っていなかったとしたら、絵を守りきることが出来ただろうか。

 そんな過ぎた可能性の話をしても仕方がないのだが、それを思うと僅かに背筋が寒くなる。

 でも、きっとアリッサなら催涙ガスだろうが煙幕だろうが閃光弾だろうが、怯むことなく敵に突っ込んでいきそうだ。



 想像しただけでも恐ろしい……。


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