6-2
「待たせたな。それでは食事にしよう」
チェックインを終え、部屋に荷物を置いてきたアリッサは手ぶらだった。聞けば、日頃からハンドバッグを持ち歩く習慣がないらしい。
誰かこいつに女らしさというものを教えてやってほしい。
「それで、なにを食べるんだ? このホテルはレストランがいくつかあるぞ。日本料理とかフランス料理とか」
「ハンバーガーが食べたい。日本のジャンクフードはうまいと聞く」
「……なんだろ。今、凄く不思議な感覚に襲われた。確かに日本のファーストフードは発達してるが、うまいものを食いたいならもっといい店があるだろ。ここのレストランなんか、一流だぞ?」
「ジャンクフードなのにうまいというのがいい。変なところに本気を出す、それが日本の心だと聞いた」
あながち間違ってはいないが、偏見過ぎる。スシ、テンプラ、ゲイシャより酷い気がするぞ。
誰だ、そんな日本像を植え付けたやつは。母親か?
「いいのか? そんな安い店で。協会から前金もらってるから、俺が奢ってやるぞ」
「ありがとうシズマ。だが、私はこんな堅苦しいところは苦手だ。もっと適当で粗野な店がいい」
「それで、ハンバーガーか。なら、俺に経済的余裕がある時に行く居酒屋……チープバーでいいか?」
「おお、バー。それがいい。私もヴォートカは好きだ」
「も、ってなんだ。一緒にすんな」
ウォッカなんてほぼ水とエタノールの飲み物、日常的に飲む気にはならん。
しかもストレートをショットグラスで一気飲みとか、ロシア人の酒飲みとは絶対にわかり合えない気がする。
「ヴォートカはないのか?」
アリッサが残念そうな表情をするが、俺にはその感情は理解出来ない。
「いや、あるよ。……ただ日本人は概ねビールだ。その後に焼酎、日本酒、ウィスキーと続いてく。ウォッカは基本カクテルだ」
「ピーヴォなんて子供の飲み物だろう。それに、ヴォートカになにかを混ぜるなんて邪道だ」
「カルチャーギャップだな。まぁ、その辺は互いにノータッチがベストだ」
「わかった」
「それじゃ、行こうか。歩いてそうかからない」
そういえば、アリッサと食事をするのは初めてだな。
アントウェルペンでは協会のお偉方や地元の警察との会食なんかで、二人で食事をすることはなかった。
あの時、アリッサは一人だったのか?
誰も彼女を呼ぼうとはしなかったのか?
「……どうした、シズマ。行くんじゃないのか?」
「あ、ああ……そうだな。つーか、君は時差ボケとかしてないの?」
「全く問題ない」
「凄いな……その丈夫さは羨ましい」
「鍛えろ。シズマは男のくせに軟弱すぎる」
「いやぁ……俺は頭脳労働派だから。そういうのは全部、君に任せるよ」
「父が戦場では甘いことを言ってる人間から死んでいくと言っていた。シズマは真っ先に死ぬタイプだな」
「俺はむしろ戦地へ行かないようにするために努力するタイプだ」
「戦うことからも逃げるのか」
「戦いだけが全てじゃないってことだ。いつか君もわかってくれるといいんだが」
「……私は戦うために日本に来た。私にはそれしかない」
「わかってるよ。だが、君は俺より一回りも若い。この先いくらでも変われることは、わかってもらいたい」
「………」




