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ビルの屋上から夜の街を見下ろす。
このビルは三階建てなのでそう高くはないが、地上との距離を感じるには十分だ。
こうして無心に眺めていると、街の煌めきがどこか遠くに感じる。
現実と虚構が入り交じり、夢への扉が開くのだ。
「……なにをしてるんですか? マスター」
振り返ると、塔屋の側に小夜ちゃんが立っていた。先程の呼び出しで急遽戻ってきてくれたのだ。
「ちょっと雰囲気に浸ってみたくて」
「それでわざわざ屋上に呼び出したんですか?」
「だって、そっちの方が格好いいだろ?」
「そういうのは一人でやってもらえませんか? いちいち付き合うのは面倒です」
「……ロマンがないね」
「なくて結構です」
怪盗に必要なものはロマンとスリルだというのに。
小夜ちゃんは仕事は優秀でも、根本的理解がまだなっていないね。どうやら、紬ちゃんと一緒に補習授業が必要なようだ。
「それで、用件はなんですか?」
「ああ、ついに君との約束を果たす時が来たようだ。……怪盗ヘルメス、久しぶりの大仕事といこうじゃないか」
「……そうですか。計画は予定通りで?」
「そうだね。どうやらイレギュラーがいるようだが、変更はなしだ」
「わかりました」
せっかくの決起だというのに、小夜ちゃんは変わらない振る舞いを見せる。
「もしかして、あまり嬉しくない?」
「いえ……あなたがとても楽しそうにしてるので、私も少し浮かれてます」
「そうか、それはよかった。ここに至った経緯はどうあれ、この仕事の祝杯は最高のパートナーである君に捧げよう」
「……その歯の浮くようなセリフはなんとかならないんですか?」
「あれ、ダメだった?」
「……今回はありがたく受け取っておきます」
そう言いながらはにかむ小夜ちゃんは、いつにも増して可愛らしかった。
それでこそ私も盗み甲斐があるというものだ。
これより私は怪盗ヘルメス、世界に潜む影となろう。




