57.怒りのオーラ
レオンの入りなさいという声が聞こえ入室するレイチェルとアリー。
「どうかしたか?」
「ちょっと相談事があってね」
「もしかして母上のことか?」
「まあそんなとこ」
「「…………」」
無言で見つめ合うレオンとレイチェル。お互い同じことで頭を悩ませていることを察する。
「レオン様はお義母様から何か聞いてる?私のことが嫌いとか憎いとか嫌いとか憎いとか嫌いとか憎いとか」
「なんだその2択は」
「そうじゃなかったら無視される意味がわからないじゃない」
肩を竦めるレイチェル。
まあ、そうかもしれないが……。母はレオンには会ってくれる。ただレイチェルのことを聞こうとするとうまくはぐらかされるのだ。
だがその様子を見るに嫌いとかそういう感じには思えないから不思議というか。もともとポーカーフェイスの母なので何を考えているか察することができない。
「お義父様はいつ来るの?」
「もうそろそろ来ると思うが」
レオンの父親は公爵位を譲った後、暇だからと商売を始めたそう。そしたらこれが大繁盛。もっている人は何をやっても上手くいくというもので、忙しい生活を送っているらしい。
「お義父様がいれば理由がわかるかもしれないのに……」
でもいつ来るかわからないのであればただひたすら待つだけは自分の性に合わない。
もうあれだ。
あれ。
「お義母様の部屋に突撃しよう」
「なんでそうなる?」
「義母だしこれ以上嫌われたらいけないと思って我慢してたけどこれ以上は無理だわ。女にとって結婚したら姑はラスボス。ラスボスとギクシャクしたままでは心の平穏は訪れないわ」
「ラスボス?」
「嫌いなら嫌いでいいのよ。はっきり目の前で言ってくれるなり嫌がらせするなり態度で示してくれればね。でもスルーはダメよ。嫌いだとはっきりさせてくれてから無視してくれなきゃ」
「そんなものか?」
「そんなものよ」
だってもやもやして気持ち悪いじゃないの。お義母様はここに住むわけではない。なんかよくわからないまま今回交流もせずに去っていってまた来たときにどんな顔をしていれば良いというのか。
自分はそういった自分の中で悶々としたものを抱えるのは嫌いなのだ。嫌いなら嫌いではっきりさせたい。
「さあ!行くわよ!」
「は?私もか?」
「当たり前でしょうが!姑と妻との仲をうまく取り持つのが夫の役目でしょ!?」
そう言うとズンズンと歩き始めるレイチェル。そのアグレッシブな行動力にレオンは呆然としていたが慌てて椅子から立ち上がると彼女の後を追った。
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ドドンとレイチェルの前におわすは義母がいる部屋の扉だ。いつもはただの扉なのになにかオーラが出ている気がする。
部屋に義母がいることはここに来る途中で会った使用人たちに確認済み。オロオロと落ち着きのないレオンをちらりと見た後コンコンと扉をノックする。
いつもならここで侍女が出てきて、なんやかんや理由をつけて入らせてもらえない。どうせ今回もそうなることがわかっているレイチェルはじっと扉を凝視する。
ガチャ
ガッ!
扉が少し開いた瞬間、その隙間に指を滑り込ませ扉を思いっきり掴む。中から困惑したような気配を感じるが気にせず力を入れ扉を開けると側にいた侍女を押しのけ部屋の中へと足を踏み入れる。
そこには驚愕のあまり口をパカパカさせる侍女と揺り椅子に腰掛け本を読む義母の姿があった。
「失礼しまぁす。ご機嫌麗しゅうお義母様。なかなかお会いできないので体調でもお悪いのかと思って心配で無理矢理入っちゃいましたぁ」
にっこりと微笑んで言えば、イザベルは僅かに口を開けたまま固まる。暫くすると落ち着いたのかすーっと息を吸い込む音がした。
「お気遣いありがとう。私は大丈夫よ」
おや?
罵声の一つなり注意の一つでもあるかと思ったがスルーときた。
「お義母様にお聞きしたいことがあり参りました」
え?いきなり?
声は出ていないが隣にいるレオンからそんな視線が突き刺さるのを感じるが無視を決め込むレイチェル。
イザベルはほんの僅かに目を細めると膝においていた本を近くのテーブルに置きレイチェルと真っ直ぐ視線を合わせた。
…………なんかことごとく思っていた反応と違う。しっかり視線を合わせてくれるし、レイチェルの明らかな無礼な振る舞いにも何一つ文句も言わない。
使用人にもレイチェルについての悪口をこぼしたこともないらしく、公爵邸に来たからといってレイチェルのかわりに使用人たちを管理する様子もない。
嫌いな相手に取る行動とは思えないことの連続。でも関わる気はないといわんばかりの交流の遮断。
あー…………もやもやする。
「お義母様は私のことがお嫌いなのでしょうか?特に何かした覚えはないのですが、やはりあれでしょうか?息子を盗られたとか私のような下賤な血が公爵家の一員になったことが気に入らないというところでしょうか?」
オブラートに包むことなくズバリと核心をつく質問にレオンはさぁーと顔色を青褪める。
なんたる豪胆な行動力。母に対しこんな言動をする者を見たことなどない。レオンは母がどんな反応をしているのか怖くて見れなかった。
ぎゅっと目を瞑りゆっくりと視線を向ければ
――――そこには眉間に皺を寄せ怒りのオーラを背負う母の姿があった。




