56.認められていない?
義母であるイザベルが公爵邸を訪れて1週間経つというのにレイチェルは義母と最初の挨拶を交わして以来一度も顔を合わせたことがない。
お茶でもと誘っても用事がと断られ、
朝挨拶に伺ってももう出かけたと言われ、
屋敷の中を一日中ウロウロと歩き回っても会うことはできず、
食事も部屋で頂くからと共にしたことはなく……
「めっちゃ拒否られてるじゃん!私何かした!?」
「しておりません」
「じゃあ、やっぱり存在自体認められてないんじゃん!」
レイチェルの叫びに侍女たちは首を傾げる。
確かに大奥様は厳しいし、高貴な……というよりも皇族出身で平民のレイチェルを嫁と認めたくない気持ちも理解はできる。
だがそれには事情があるし、そもそも好き嫌いで行動をするような方ではない。相手が使用人であっても最低限の礼儀を尽くす非常にできた人だ。
それに
「あのメリル様にさえ誕生日プレゼントを渡したり、挨拶だって受けられていたのに」
公爵邸にいる間メリルは毎日毎日イザベルの元を訪れていた。どれだけ迷惑をかけられようとその挨拶を拒否したことなどなかったはず。
ポロリとそんなことを言ってしまったリリアは慌てて口を押さえるがレイチェルの耳にはしっかり聞こえてしまった。
「あんな非常識娘よりも嫌われるなんて……」
立ち上がるとソファのもとまでふらふらと歩き、ドサッとソファに倒れ込む。何やらブツブツと呟くレイチェルに侍女たちは互いの顔を見交わす。
「奥様……姑というものは嫁を嫌うものですから。大奥様もレオン様を取られたようで悲しいんですよ」
「やっぱりリリアも嫌われてると思ってるんじゃない」
「うっ……!」
しまった。でも実際イザベルの避けるような行動はレイチェルを嫌ってるとしか思えない。
「奥様落ち込んでるんですか?意外です」
アリーの言葉にソファに置いてあるクッションに顔をグリグリと押し付けていたレイチェルの動きが止まる。
「姑なんて嫁を嫌うもの!むしろ私も嫌いだわ!みたいに仰ると思っていました」
その言葉に確かにとリリアは内心頷く。むくりとクッションを抱きかかえながらソファに座るレイチェル。
「……まあそうなんだけど」
人が同じことで悩んでいたら絶対にそう言う。
「何もしてないのに嫌われるのはちょっと違わない?お義母様はゲランにいた頃からできた人だって聞いてたからショックっていうか……」
「仕方ないです。姑からしたら嫁は盗人です。姉がそう言ってました」
アリーの言葉に考え込むレイチェル。いつもずけずけと物申すレイチェルの珍しい姿にリリアは頭をフル回転させる。
が、生憎自分にどうこうできる問題ではないことに気づくだけだった…………ん?じゃあどうにかできそうな人にどうにかしてもらえば良いのでは?
「奥様!レオン様に相談しましょう!きっとどうにかしてくれますよ」
明暗だと言わんばかりに目を輝かせるリリアを見るレイチェルとアリーの目は冷めていた。
「えー……レオン様?役に立つ?」
「母親と妻の間をうまく取り持つことができる人ってなかなかいないですよね。私の姉もあんの役立たずがって言ってました」
こ、こいつら……!ぴきりとリリアのこめかみに青筋が浮かぶ。ビクリと二人は身体を震わせるとにこりと笑った。
「流石リリア名案だね!」
「リリアさん流石です!」
そう言うとレイチェルはリリアの視線から逃れるように執務室を飛び出した。その後ろを待ってくださいーと情けない声を上げながら慌ててアリーが追いかけた。
二人は暫くすると足を止め、振り返る。リリアが追いかけてきていないことが確認できるとはぁと息を吐く。
「部屋戻るの怖いし、レオン様のところに行ってみようか」
「せっかくのリリアさんの案ですしね」
レオンに相談してもどうせ意味ないだろうけど、と失礼なことを心の中で思いながら二人はレオンの執務室へと向かった。
~~~~~~~~~
んー………………
場所は変わりレオンの執務室。レイチェルが執務室で頭を抱えているとき、ここにも迷える子羊がいた。
「母上の様子がおかしい」
「おかしいですねぇ」
レオンの言葉に同意するのは執事のリチャードだ。
レオンもリチャードも考えても考えてもイザベルがレイチェルを避ける理由がわからないのだ。相手により態度を変えることは多少あるとはいえ、どんな相手に対しても丁寧で思いやりを持つ母。
そりゃあ厳しい人であることは間違いないが、相手の為を思っての躾や注意なのだ。心から母を憎む人はいないだろうと思うくらい誰にでも礼儀正しい。
「レオン様の奥様だからでしょうか?」
息子を取られた嫉妬?
まさか……いやいやいやいや、あの母が自分を取られたからと言って嫉妬の炎を燃やす姿なんて想像できない。考えようとしただけで背筋がゾッとする。
似合わな過ぎて。
「ないな」
「ですね」
であればなぜだ?
またここに戻ってきてしまうわけで。
かといってレイチェルも悩んでいるようだしこのままにしておくのは夫としてあまりにも情けない。
考えてわからぬのであれば――
コンコン
扉をノックする音がしたのでレオンは考えることをやめた。




