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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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54/58

54.非情

 シーンと静まり返る場。


 あまりにも話が通じなさ過ぎる。自分にとって都合の悪いことは全てなかったことにしてしまう怪物に皆言葉を失うしかない。


「メリル……私は結婚もしたし、妻のレイチェルを慕っているんだ。君のことを好いているなんて勘違いはやめてほしい」


「んもう!お兄様優しいんだから。妻になったその女に気を使わなくてもいいんだからね!たまたま条件があった女を好きになるなんてあるわけないでしょ?」


 使用人たちは何やらごちゃごちゃ言うメリルの言葉は耳に入らなかった。


 今慕っている……とレオンは言った。


 そのことにドキドキしていた。


 はてさてレイチェルの反応は?ちらりとレイチェルを見る使用人たち…………そーっと視線は逸らされた。そこにはただただメリルを視線だけで殺れるんじゃないかと思うような冷たい目で見つめるレイチェルがいた。


「いい加減に……?」


 レオンは諦めず対話を試みようと声を上げるがレイチェルがす……と静かに手を挙げるのを見て途中で言葉を止める。


 手を下げると音もなく歩き始め、静かにメリルの前に立つ。


「何よ?ビンタでもするつもり?ははっ!流石ゲランで育った野蛮な女ね!お兄様にふさわしくないのよ!さっさと離婚しな!」


 勝ち誇ったように笑うメリルをレイチェルはひたすら静かに見つめ続ける。


「なによ!なんなのよ!?さっさと……!?」


 レイチェルの右手が何かを合図するかのように上がった。


「……は、離しなさいよ!汚い手で触るなぁ!」


 メリルは新たに現れた公爵家の護衛の手によって腕や身体を縄で縛られていく。どれだけ彼女が暴れようと鍛えた男達の力には及ばない。


 足首まで縛られた時、立っていられず地面に倒れ込む。


「いったぁい!何するのよ!?こんなの犯罪よ!傷害罪で訴えてやるんだから!」


「レイチェル……?」


 わぁわぁと叫ぶメリルのことなど誰も見ていなかった。レオンは先ほどから無言で淡々と行動するレイチェルに視線を向ける。


「レオン様」


「な、なんだ?」


 レオンに話しかけながらもその視線はメリルに固定されたまま。いつもとは違う様子のレイチェルにレオンの心臓はバクバクと早鐘を打つ。


「これは話の通じない獣です。さっさと処分しましょう」


「処分……?」


「ええ。この女おかしいですから。人に迷惑かけることしかできない公害ですから。こういう話にならない、消えても皆幸せとしか思わないようなやつは消すのが一番でしょう?」


 レイチェルの口から出たとは思えない非情な言葉に使用人達も息を呑む。


「ゲランにも本当に話が通じない女が何人かいたけど、消されてたわ。ゲランよりも貴族の方がそういうことをするイメージだけど違うの?平民なんてよく消してるじゃん。メリルさんは今平民なんでしょ?貴族が平民を消すなんてよくあることでしょう?」


 なんとも気まずい空気が漂う。


 確かによくあることと言える。だけどそれをここで肯定するのは憚られる。それに相手は妹だった女性で。関わりが薄かったとは言え処分するのは心が痛むというものだ。


「レオン様に情があるのか、自分さえ我慢していれば良いと思って切り捨てないのか知らないけど一つ確かなのは色んな人がめっちゃ迷惑してるから」


 その言葉にハッとするレオン。


「リチャードは寝不足でやつれてるし、護衛だって厳戒態勢でお疲れちゃんだよ?事業部門からも処理が遅いって苦情来てるのわかってる?急ぎだったのにって……事業責任者のピートが損害がって真っ青になってたよ?もしかしたら解雇する必要もあるかもって」


 その報告は上がっている。だけど自分も疲れ切っていて、深く考えていなかった。ピートならなんとかするだろうと思っていた。


 レオンの顔が青褪めていく。


「ねぇ。その女を守るよりも他に守るべきものがたくさんあるでしょ?優先順位を履き違えたらダメだよ。その女は妹じゃない。ただの頭のおかしい公爵家に害を与える女なんだよ?さっさと処分しましょう?」


 その通りだ。だがやはり多少なりとも情というものが消えない。


「だが、命までは……」


「だったらゲランにでも売ればいい。この女の母親に借金でも背負わせてね」


 借金を背負わせる方法などいくらでもあるのだ。メリルの母親のように強欲で自分が一番可愛いタイプは平気で娘も売る。公爵家を騙すくらい厚かましい女なのだ。


 娘と引き換えに大金を渡すと言えばあっさり借金の出来上がりだ。


「………………」


 それならいいのか?レオンの目に迷いが生じたのに気づいたメリルが慌てて叫ぶ。


「う、嘘でしょ!?私のことそんなふうに扱うなんておかしいわよ!そんな女の妄言に惑わされちゃダメよお兄様!」


 汗を流し始めたメリルをレオンはじーっと見つめる。


 レイチェルの言うこともわかる。だが、そこまでしなければならないのか。自ら離れてくれれば……。


「ではメリル、二度とこの公爵邸に近づかないと約束できるか?」

 

「え?なんで?その女を追い出して私と結婚すればいいことじゃないの?」


 今の自分の状況をわかっていないのだろうか。


 アハハハ!と笑う声が聞こえるレオンはレイチェルに視線を向ける。


「もういいよレオン様。あきらめよう?私が公爵夫人として命令するわ。この女を縛ったまま公爵邸に閉じ込めといて。で母親を借金まみれにしてゲランに売ろう。レオン様の迷いは害しか生まないよ?皆はどちらの命令に従った方が良いかわかるよね?」


 ふわりと微笑むレイチェルにゴクリと息を呑む使用人達。互いの顔を見合わすと護衛たちが動き出す。


「あ……」


「嘘でしょ!?」


 無理矢理身体を起こされ、立ち上がらされたメリルが叫び暴れるが護衛たちの手によって引きづられていく。縋るような目で見上げてくるメリルから視線を逸らすレオン。


 確かにこれこそが正解だ。


 メリルは可哀想な娘だと思う自分の心が甘いのだ。実際関わりも薄く、母親も使用人たちも彼女を蔑ろになどしていなかったのだから。


 でも可哀想な哀れな娘だという幼い頃からの思い込みは消えなくて…………彼女を直視することはできなかった。




「お待ちなさい」





 そんなとき聞こえた一つの声にレイチェルを除くすべての人間の動きがピタリと止まった。








 

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