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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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52/58

52.誓い

 すぅ……とレイチェルの唇が薄く開き息を吐い込む。見ていたものは色々な意味でドキリとする。


「それってー、別に妾の子とかいじめとか関係ないと思いまーす。メリルさんが出来損ないなだけだったんじゃないですかぁ?」


「え?」


 予想外の言葉にレオンがぴしりと固まる。固まる夫を見ながらレイチェルは自分が言った言葉がそんなにおかしかっただろうかと首を捻る。


 レイチェルはメリルがレオンの元に押しかけ始めたのを見て、メリルがここで生活していた時からいる使用人全員に話を聞いて回った。


 そうしたら出てくる出てくる。


 メリル母子への不満。


「だってー、マナーの先生も家庭教師も全員匙を投げたって聞いたけど?しかも頑張ってもできなかったとかじゃなくて、なんでそんなことをやらなくちゃいけないのかって暴言や暴力まで振るったとか」


 当時、公爵夫妻は謝罪やら治療費やら慰謝料やらで大変だったんですよ!とアマンダが激おこだった。


「た、確かに1週間ともった教師はいなかったな……」


 レオンの顔が引きつる。そういえば教師が辞める度に母親の顔が青褪めていた。いつも冷静な母のあんな顔を見たのはあの時が初めてだった。


「彼女自身がバカなだけなら笑って終わりだけど、人に怪我をさせたんだから部屋で謹慎くらいあたり前でしょ。そりゃあ他の貴族の子たちと交流なんてさせられないし、お客さんの前に出したりなんかできないでしょ」

 

 部屋に閉じ込められてたのは何度も何度も同じ過ちを繰り返していたから。要するに幼少期より人を傷つけることをなんとも思わないヤバイ女だったということ。


「しかも謹慎中に世話してた使用人にも暴力振るってたらしいし。花瓶や本を投げつけられたこともあるって、いまだに傷痕が残ってる人もいたわよ」


 厨房にいた古参のおばちゃんが見てよこれ!とこめかみに青筋浮かべて見せてくれたのはおでこの傷痕。花瓶が思いっきりあたって切れたらしい。


 当時床に垂れる血を見て部屋を汚すんじゃないわよと更に拳で殴られたと憤慨していた。


「……それで使用人もメリルに近づかなかったのか」


「そうみたい。お義母様が使用人が気に入らないなら自分のことは自分でやりなさいって使用人を引きあげさせたってこと」


「………………」


 母は厳しい人だが決して使用人に手をあげるようなことはしなかった。使用人への感謝の心を忘れるなとよく言われたものだ。


 レオンはほっと息を吐く。


「ていうかそもそもさー。嫌がらせっていうのはなんか気に食わないとかムカつくとか羨ましいとか思った人がやるものでしょ?」


 だからといって普通は嫌がらせはしないものだけれど。余程の恨みか妬みがあるか性悪か……。だが使用人から聞いた義母はどれもあてはまらない。


 王家に生まれ、他に女は囲っていたものの夫には非常に大切にされていたようだし、跡継ぎにも恵まれ、美貌も経済力も使用人からの敬意も全てあった義母。


 義父の娼館通いについても苛ついてはいたものの、貴族の嗜みとして割り切っていたと聞いた。


「……父上が他の女を身ごもらせてメリルを連れてきたのを恨みに思ったとか」


「最初から公爵の子じゃないとわかって受け入れたらしいからショックなんて受けてなかったはずよ」


 義母は義父が通う娼婦が関係をもった相手も全員把握していたらしい。メリルの顔は赤子の時からあまりにも伯爵の顔に似ていた。だから誰の子かなんて明らかだったそう。


 義母はレオンを産んだあと体調を崩し子供を望めない身体になってしまった。義父はレオンが生まれる前から女の子が欲しいと言っていたそうで、あなたの子だと差し出された赤子が念願の女の子だったからか自分に似てるなんて言っていたらしく、周りは呆れていたとか。


 そのうち目が覚めるだろうと好きにさせていたら、色々と被害が出てしまい義母は大変この時の選択を後悔していたとアマンダが言っていた。


「お義母様はメリルさんをいじめてないし、使用人も蔑ろになんかしてません!むしろメリルさんは公爵家にとって公害です!せっかく追い出した公害はさっさと追い払うべし!かわいそう?何を言っているんだか!二度と公爵邸に足を踏み入れさせてはいけません!」


 びしりとはっきり言い切られ、レオンは口をパカパカと開閉させることしかできない。使用人たちはおーっとパチパチと手を叩いている。

 

「…………どうして私は気づかなかったんだろうな」


 よく言ってくれましたと喜ぶ使用人たちと盛り上がるレイチェルの耳にぽつりと呟くレオンの声が聞こえた。


 じっとレオンを見つめるとレイチェルはふ、と笑う。


「え?周りの人間があなたに隠したのと……あとは母親に反抗したいお年頃だったたけでしょ?」 


 いわゆる反抗期。


 母親のすることの全てが気に食わない。


 全てを否定したくなる、反抗したくなる時期。


 だから母親がしていることを理解しようとしていなかった。ただ妾の子だから嫌なことをしていると思おうとした。


 そんなところだろう。


 レオンはレイチェルの言葉にはっとした後、ぼっと顔を赤らめた。


 反抗期?自分が?確かにそんな時期だったかもしれない。だけどそれを人に指摘されると無性に恥ずかしい。心なしかリチャードたちもニヤニヤしている気がする。


「レオン様の反抗期……。いやぁレオン様も普通の男だったんですね」


 それは一体どういう意味なのか。


 問いたかったが言葉には出せなかった。その後もレイチェルと侍女たちは何やら反抗期反抗期とキャッキャと騒いでいる。


 なんでこんなことに。


 元はといえばメリルが屋敷に来るから……。


 レオンは二度とメリルを屋敷に入れまいと誓った。

 

 

 

 


 




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