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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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51.押しかける女

 無理矢理屋敷から連れ出されたというのにメリルはそれ以降毎日毎日公爵邸にやってきた。いつもであればレイチェルの面倒だ……という言葉に侍女たちが頷くという流れなのだが今回は少々違った。


「お兄様!私アップルパイを焼いてきましたの!召し上がって!」


 メリルはレイチェルのところではなく、レオンのところに突撃している。レイチェルのことは眼中にないのか、あえて無視しているのかわからないが全く関わってこようとしない。


「メリル今何時かわかっているのか?」


 レオンは先程帰宅したばかりの自身の執務室でうんざりだと言わんばかりにため息を吐く。


「深夜の1時?お兄様もこんな時間までお仕事なんて大変よね。私の可愛い顔に癒されてね」


「こんな時間に人の家に押しかけるなんて非常識だ。すぐに帰れ」


「人の家なんて他人行儀だわ!私とお兄様が結婚したら一緒に住む愛の巣じゃない」


「私は既にレイチェルと結婚している」


「離婚すればいいだけじゃない」



 何を言っても通じないメリルにレオンの苛立ちは募る。幼少期より我儘な娘ではあった。それは年を経るごとにどんどん酷くなっていき、温厚な父でさえ時にキレさせる程だった。


「レイチェルさんって娼婦の娘なんでしょ?だったら私でいいじゃない!私だって条件は同じよ!」


「同じ?笑わせるな。お前のどこがレイチェルと同等だと言うのだ」


 勉強をしないから頭も悪い。考えることといえばあれが欲しいこれが欲しいということばかり。顔も地味でスタイルも全く自分の好みではない。使用人を奴隷のように考える畜生が何をふざけたことを言っているのか。


「え?全部よ」


「「は?」」


 思いもよらなかった返答にレオンだけでなく、控えていたリチャードまで動きが止まる。


「まあレイチェルさんも美人だけど、私の方が綺麗だしスタイルだっていいわ。性格も人懐っこいし人に好かれるし優しいし。でお兄様の結婚相手として求める娼婦の娘だし」


 いや、別に娼婦の娘が条件というわけではないのだが……。それよりもこの娘の頭や目は大丈夫だろうか。もちろんそれぞれ感覚が異なることはわかっているが、世間一般的な考えから乖離し過ぎているのでは?


 嫌悪を感じる相手ではあるが心配になるレベルだ。


「やだぁお兄様!そんなに私のことを見て!ほら、やっぱりお兄様も私のことが好きなんじゃない!そんなに見惚れちゃって!まあ私美人だから当然だけど!」


 うふ、と笑うメリルにゾッと背筋が冷たくなったレオンは耐えきれず今宵も護衛に指示を出し、メリルを屋敷から追い出した。


 メリルがいなくなりしん……と静まり返る部屋でレオンはドサリと音を立てながら乱暴に椅子に腰掛ける。ちらりと前を見れば書類の山。


 毎晩毎晩メリルが突撃してくるので、思うように進まない。時間としてみれば大した時間ではないが、精神的疲労によりやる気が失われてしまうのだ。


 とにかく疲れる。


 天井を向き、おでこに片手をあて固まるレオン。側にいるリチャードは明らかにやつれた主人の姿に心配することしかできない自分に落ち込む。



「…………ぇ」


 ………………


「……え」


 ……?


「ねえねえ」


「あ、奥様」


「一応ノックはしたんだけど。目開けたまま寝てたの?」


「寝てはおりませんが、心が萎びておりました」


「なんじゃそりゃ」


 クスクスと笑うレイチェル。いつの間に来たのかレイチェルがレオンの執務室にいた。


「……レイチェル」


「お疲れみたいねレオン様」


「ああ、少しな……」


 レイチェルが近づいていくと心なしか表情が明るくなるレオン。レイチェルは書類を踏まないように気をつけながら執務机に軽く腰掛ける。


「どうかしたか?」


「んー……レオン様もメリルさんのことが好きなのかな?と思って」


「そんなわけないだろう。好きどころか苦手だ」


 全くどこを見たらそんな疑問が浮かぶんだと心底呆れた様子のレオンを横目で見るレイチェル。


 苦手ねぇ。嫌いではないんだ。


「それなら家に入れなきゃいいじゃん」


 公爵邸は誰でも自由に入れる屋敷ではないのだ。まあなんか結構個性的な人が出入りしている気がしないでもないがそれはひとまず横に置いておこう。


「………………一応メリルもこの家の娘として育てられてきたんだ。思い出の場所に足を踏み入れる権利くらいあると思ってな」


「何それ。いや、家主に迷惑かけまくるやつに権利なんて普通にないでしょ」


 そんな理由があるかと鼻で笑うレイチェルから気まずそうにレオンは視線を逸らす。暫く視線を彷徨わせたあと躊躇いがちに口を開く。


「…………………私はここで大切に育てられた。だがメリルは妾の子だから、母上が非常に厳しくあたられてな。家のもの以外との交流を禁止したり、部屋に何時間も閉じ込めたり使用人をつけなかったり……あまり良い待遇を受けてこなかったんだ」


 なるほど、一応兄妹として暮らしていた時から自分との扱いに思うところがあった。だからあまり強気に出られないということか。


 うーむ………………


 口に出してはいけないが、






 しょうもな。



 そんなのは妾の子だからとかじゃないと思う。実際妾の子のイジメはあるし、よろしくないことだ。だがこの公爵邸で義母がそのような態度をとったのはレイチェル調べによると違う理由だと思われる。


 レイチェルの纏う空気が冷たいものへと変わる。それに気づいたリチャードとレイチェルに付いてきたリリスの目がぎょっと見開かれ一歩後退る。


 失礼な。


 まあそれはいいとして。


「レオン様」


 ん?


 呼びかけられ顔を上げたレオンもレイチェルの変化に気づく。




 ―――――何やら笑顔の圧が強いんだが。






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