49.妹?
翌日、義母の襲来に備えようと使用人たちに話を聞きに行く準備をしていたレイチェル。
なんとなくだが義父の方はどうにでもなる気がするのだ。ゲランでオジサマたちの相手はたくさんしてきた。それにさっさと爵位をレオンに譲るなんて頭のお固い貴族ではないはず。
お酌でもして仲を深められたらOKだ。
問題は義母だ。
王家出身の序列一位の公爵夫人だった人に気に入られるなんて奇跡でも起きない限りあり得ない。きっと尊き血筋のおしとやかで義母の言うことになんでもはいはい従うようなご令嬢を望んでいたことだろう。
お眼鏡にかなうとしたらこの美貌くらいのはず。
考えるだけで憂鬱だ。
はーとため息を吐くレイチェルの耳に何やら騒々しい足音が聞こえてくる。
バタバタバタバタ!
この何度も何度も体験したこの感じ。絶対に面倒事だ。もう、義母が来たとか?いや、今日来るとか聞いてないんですけど。
バタン!
「あ、ノック……」
ノック無しに扉を開いてしまった侍女のアリーがやっちまったとばかりにぽつりと呟く。
「どうしたの?」
「え、あ、と……下に……」
やはり義父母が来たのだろうか。ぱくぱくと口を開くものの言葉にならないアリーを置き去りにエントランスに向かう。
?
何やら人集りができている。そんなふうに義父母を迎えたら怒られないのだろうか。こうピシッと並んで頭を下げてお出迎えしないといけないのでは?
これは使用人の教育がなっていないとか言われちゃうかもしれない。そんなことを思いながら人集りに近づけばヒールの音がして気づいたのか自然と人が道を譲ってくれる。
最後の一人が道を譲ったとき現れた人は――――
「え?誰?」
見たことのない自分と同じ年くらいに見える若いお嬢さん。もしやこの人がお義母様?いやいやいやいや、んなわけない。
だってちょっと顔が……お世辞にも美しいとは言えない。ピンク頭をツインテールにしてちょっとリボンとか強めのドレスを着た可愛らしい格好の女性だ。
うん。
この子は義母ではない。
というかまた若い女とくれば…………
「またー?」
夫を狙うどこぞの女だろう。全く次から次へと。
「奥様、奥様!」
うん?いつの間に側に来ていたのかリリアがドレスの袖を引っ張っている。何?と視線を向ければ耳元に寄せられる口。
「その方はレオン様の妹君だった方です」
「!?」
なんと!
この小娘が……?
ていうかだったってなんだ。だったって。
「冗談でしょ?なんたる地味が「レイチェル様!」」
「ちょっと!そこの下賤な娘!さっきから挨拶もしないなんて何様よ!?私は公爵令嬢なのよ!はっ!まあ顔はいいようたけど、それでお兄様を誑かすなんて最低な女ね!さっさと私の前から消えてちょうだい!」
「消えるのはお前だ。メリル」
コソコソ話が気に入らなかったのか急に怒り出すレオンの妹――メリルに声をかけたのは玄関の扉から入ってきたレオンだった。
先程王宮に行ったはず……
「お前が公爵邸に向かったと聞いて慌てて引き返して来たんだ」
「私に会うために!?ああん!メリル嬉しい!」
くねくねと身体を動かす様はまさにぶりっ子。失礼ながら地味顔の女がぶりっ子する様を初めて見たレイチェルは口をぽかんと開けてしまった。
「違う。レイチェルが心配で帰ってきたんだ」
「照れ隠ししなくてもいいのよ、お兄様。やっぱり私達は運命の恋人!両想い!愛し合ってるのねーーーー!」
「……話にならない。公爵邸に立ち入ることは禁止したはずだ。即刻出ていけ」
「えー?だって邪魔なババアがいなくなったんだから入ってもいいでしょ?ここの主人は今お兄様なんだからお兄様がいいと言えばいいの!」
「一言も言っていない」
これ以上の話し合いは無用と手を上げるレオン。その指示により屈強な男達がメリルの腕を掴み玄関の外まで引きずっていく。
「ちょっと汚い手で触らないでよ!私に触っていいのはお兄様だけよ!助けてお兄様ーーーーーーっ!!!」
メリルの絶叫を遮断するように扉がピシャリと閉められる。僅かに叫び声がまだ聞こえるがだんだん聞こえなくなっていく。
「レイチェル大丈夫だったか!?何もされていないな!?」
扉を見たまままだ呆けるレイチェルの肩に手を置き軽く揺さぶるレオン。
「大丈夫……」
パチリと瞬きをしたレイチェルにほっとしたレオンは彼女を部屋に連れて行こうと背に手を添えようと動かす。
「……こ」
?
「濃い!濃ゆいよ!何あれ!?薄い顔なのに濃い!濃すぎ!あんな人間初めて見たわ!失礼だけどなんであの顔であなたに愛されてるって自信満々なの!?性格?いやいやいやいや話聞かないし、あの勢いで性格が良いとかもないわー!すごい!すごいよ!」
珍妙な生き物を初めて見たかのように目を輝かせるレイチェルに使用人たちは呆気に取られる。だが、激しく同意もしていた。
「あの娘あなたの妹なの?なんか色々とツッコミどころ満載だけど妹なの?」
興味津々にレオンに詰め寄るレイチェルにちょこっと嬉しそうな表情をするレオンだったが、執事のリチャードの咳払いにはっとする。
「説明をするからとりあえず部屋に戻ろう」
レオンは宙を彷徨っていた己の手をやっと目的の場所――レイチェルの腰に置き、二人はレイチェルの私室へと向かった。




