47.退治?
「退治って……誰が何を言っても気にしない女ですよ!奥様が嫌な思いをされるだけです!」
「でも仕事をちゃんとやってるなら解雇できないし、心をポキっと折るしかないでしょ?」
「そ、そうですが……」
ていうか足速いな。カレンの元に向かうレイチェルの足の速さにルードも侍女たちも小走りでついていくのが精一杯だった。
コンパスなのか?脚が長いと速く歩けるものなのだろうか?そういえばレオン様も速いような……とそんな場合ではない。
「奥様、カレンを部屋にお呼びになれば宜しいのでは?」
「押しかけるほうが相手もどきりとするでしょ?」
そ、そうなのだろうか。呼び出しも結構ビクビクするものだと思うが。どんな言葉にも足を止めなかったレイチェルは視界にターゲットを捉える。
ツカツカと近づいていけばルードがいるからだろうか瞳を輝かせるが礼儀も忘れていないようで頭をきちんと下げている。
「カレン。あなた最近ルードに纏わりついているそうね。彼が迷惑しているからやめてちょうだい。即座にやめるべし」
直球ー!
めっちゃ直球ー!
ルードと侍女たちは仁王立ちするレイチェルを呆然と見つめる。
「何をおっしゃいますか奥様。私とルードは想いあっているんです。あの邪魔な女がいなくなったことはご存知でしょう?彼女が消えてルードは本当に愛しているのは誰か気づいたのです」
ね?と小首を傾げながらルードに微笑みかけるカレンに肌が泡立つレイチェルと侍女たち。ヤバイ奴だ。本当に夢?妄想?と現実の区別がつかなくなっている。
「思い込むのは自由。何を言っても妄想の世界を現実だと思い込むあなたにはどんな言葉も通じないんでしょうね」
ん?
言葉が通じない?じゃあどうするのか?
殴る……とか?女の子相手にそれはちょっと……。
「だけどあえて私はあなたに言葉を送りましょう」
いや、それはそれで大丈夫なのだろうか。こうもはや物理的な解決策の方が良いような……動揺のあまり真逆の思考が存在する使用人たち。
「あなた自分のどこがルードに相応しいと思っているの?」
「え?」
「だって顔だってスタイルだってこの公爵邸の使用人の中では中の下ってところでしょ?見てご覧なさいよ。私やリリア、侍女たちを」
カレンの視線が女性たちに向く。
……び、美人だ。スタイルも平地に近い自分とは違いちゃんと丘がある。
「仕事だって彼女たちの方がやり手よ?稼ぎだって上よ?」
自分だって頑張っていると声を張り上げたいところだったが、彼女たちの仕事ぶりを見たことがあれば口を閉ざすしかなかった。
「性格だってストーカー妄想女より100倍ましよ。ねえルード?」
急に話を振られ焦ったがブンブンと頭を上下に動かすルード。
「で、ルードがこの公爵邸であなたを選ぶ理由って何?」
ギロリと真っ直ぐな視線がカレンを貫く。
「愛ってそういうものじゃないと思います!一緒にいて楽しいとか落ち着くとかその人と合うかどうかなんです!私とルードは条件じゃなくて波長が合うんです!運命なんです!愛なんです!」
負けじと声を張り上げるカレンは自分に酔っているようだ。
愛ねぇ。自分だって愛というものを否定するつもりはない。だが独りよがりの押し付け愛などただ迷惑な産物でしかない。
「愛っていう言葉で済ませようとするのやめてくれる?」
「愛は偉大です。私たちみたいな釣り合わない男女を結びつけてくれるんですから」
「はっはっはっはっ結びついてないし。あなたのは一方通行の押し付け愛でしょ?」
「な、そんなことありません!」
「じゃあルードがあなたのどこに惹かれたか教えてくださいー」
「は、はあ!?」
子どもの言い争いだろうか?なんたる低レベルな言い争い。使用人たちは口をぽかんと開けるしかなかった。
「言えないの?」
す……とレイチェルの目が細まりカレンは一瞬言葉に詰まる。
「っ……い、一緒にいると落ち着くところとか」
「あなた目ついてるの?」
「な、いくら奥様でも失礼ですよ!」
「最近あなたが纏わりついてからルードはこんなにやつれちゃったのよ。可哀想に」
およよと目をどこからか取り出したハンカチで押さえるレイチェル。
「モリーに夢中だった彼はちょっと暑苦しくて勘違い野郎だったたけど、とても生き生きしていたと思うけど?」
「そ、それは私のせいじゃなくてあの女が亡くなったせいで……」
「だとしても、あなたと愛し合って癒されているのにどんどんやつれていくのはおかしいでしょ?」
「彼は……優しいから」
そっとカレンに近づき肩に手を起き耳元で囁くレイチェル。
「そうね。ルードは優しいわ。娼婦上がりの私に懐いてくれるし、顔も可愛い顔をしているし、背も高いし、痩せているようで筋肉質。抱きしめられたいと思っちゃうわよね?」
こくりと頷くカレン。
「そう……人にはそれぞれ理想がある。そして残念なことにルードの理想はあなたみたいな娘ではないのよ?」
「ですから、私たちはそのような条件ではなく……!」
ば、とそこまでだと手で制するレイチェル。全くうるさい小娘だ。自分はルードの容姿に惚れたくせに何を言ってるんだか。
「ルードはモリーみたいに顔が可愛くてたわわな胸にしか興味がない男よ」
「「「は?」」」
「ちょ、変なこと言わないでくださいよ!」
今まで黙って見守っていたルードだったが、思わず声をあげる。確かに好きだけど。めっちゃ好みのタイプだけど。
「彼は可憐な容姿とナイスバディな女性にしか興奮しないのよ?愛せないの」
「そんなことない!彼は、彼は……!」
チッチッチッと人さし指を左右に振るレイチェル。
「彼の初恋の君は年上だけど守ってあげたくなるような儚げなお姉様。ただ彼の視線はちらちらとその爆乳に向けられていたとか」
「そんなわけ「なんで知ってるんですか!?」」
カレンの声は真っ赤に顔を染めたルードの声にかき消された。
「次に恋に落ちたのは童顔人妻。近所で噂になるほどたわわなものがついていたとか。その次は同級生でまあた同じような可愛らしい爆乳女子。でその次がモリー」
言葉を失うカレン。
無性に恥ずかしい思いをし顔を両手で覆うルード。
冷めた目でルードを見る侍女たち。
「容姿、スタイルなど気にしない人もいるけれどそれを重視しそれにしか興奮しないものがいるの」
もう少し言葉を選べないのか。愛とか恋とかもう少しオブラートに包んでほしい。
「ルードは童顔で爆乳にしか興奮しないの。残念ながらあなたには興奮しないのよ。ね?ルード」
ぐるりと視線を向けられたルードは大量の汗を噴き出すのを感じた。こ、これは頷くべきなのか。いやでもこれで頷いたら自分は……。
カレンが視界に入る。その目は縋るように真っ直ぐ自分を見ていて最近の出来事が蘇りぞっとする。ぎゅっと強く目を瞑り開く。
「わ、私は童顔の爆乳好きです!」
ルードの叫びの後シーン……とその場は静まり返る。カレンも侍女たちもいつの間にか集まっていた野次馬たちも。彼らはそっとルードから視線を逸らすと去って行った。
カレンも
「わかっていたんです。私じゃ釣り合わないって……でもどうしても諦められなくて……でもはっきりわかりました。私じゃ無理だって。童顔の爆乳さんとお幸せに……」
そう言って去って行った。
「やったねルード!」
「そうですね?」
彼女は諦めた。自分の願ったとおりに。それはそうなのだが……皆の気まずそうな顔が思い浮かぶ。
これは本当に良かったのか?
混乱するルードと満足そうな顔をするレイチェルだった。




