44.現実
寂しいことを呟くものだと侍女たちは思うが、本当にそういう世界なのだろう。仕方ないのかもしれない。
「なんにしろ早く犯人が捕まると良いですね」
「モリーの男だったら捕まらないだろうけどね」
「「?」」
レイチェルの言葉に首を傾げる侍女たち。
「娼婦が殺されたくらいじゃ誰も真面目に動いてくれないよ。まして一番怪しいやつは行方不明なんでしょ?だったら探すなんて面倒なことやらないよ」
「そんな……」
「酷い……」
口元を押さえ青褪める侍女たち。彼女達は優しい。そんなの当たり前だという者達が多いことをゲランにいた自分は知っている。
ゲランでも人気の娼婦であれば話は違うのだろうが、そこら辺の娼婦の死など誰も何も思わないのが現実だ。
「だからその男が怪しいと思ったのよ」
モリーがお金を持っていることを知っていて、恐らくゲランの現実を知っている男。心から信じ愛した相手に警戒などするわけがないからきっと簡単にやれたことだろう。
遠くに逃げれば追手はない。遠くにいけば安心して人から奪った金で悠々自適に暮らせるというわけだ。
まあその男に罪を被せたという線もなくはないだろうが、金持ちでなければ男もその場で殺してほっといても特に詳しく調べられない。
そんなことをする必要がない。わざわざどこかに運ぶ手間をかけるなんて面倒なことはしない。
そして金持ちが犯人ならば……もはや事件にさえならない。死体さえ消し店ぐるみの隠蔽ぐらいされる。
「なんか……可哀想ですね」
「そうね」
部屋の中がしんみりとした空気で満ちる。愛した男に裏切られ、誰も犯人を捜してくれないなんて悲しすぎる。
だが
「娼婦の現実なんてそんなものよ」
「「……………………」」
どうにもならない現実に侍女たちは黙々と食器の片付けを始めた。
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「おい見ろ!すごい金だろう!?」
「うふふふふ。バカ女のおかげね」
ゲランから離れた街の宿屋の一室に男女がベッドの上で金貨をばら撒きながらはしゃいでいた。
「娼婦のくせに普通の幸せを得ようなんて図々しい女よね」
「ああ。男に媚び売っていろんなやつに身体売ってりゃいいのによ」
あははははと大声で笑う男女。その様は非常に醜い。
男は両手にいっぱいの金貨を掴むと放り投げる。
モリーはいい女だった。顔も身体も。目の前の女より。だが所詮娼婦なのだ。色々な男を相手にしていた女を嫁にはできない。
目の前の女は特別な美人でもないし性格も悪いが幼い頃からお互いを知る仲。色々と悪い事も共にしてきた仲だ。
たまたま遊びに行ったゲランで自分の何を気に入ったのか本気になったモリー。金ならあるから一緒になろうと言われ見せられた金貨。そんなものを見せられたら欲しくなるのが人間というものだろう。
目の前の女と相談し、彼女の殺害計画を立てた。
杜撰だろうが自分が疑われようが、娼婦の死など誰も気にしない。国もゲランの自警団もだった一人の娼婦の死などなかったもののように扱う。
「ねえねえこれで何する?私宝石とか欲しいんだけど」
「お前がつけても似合わねぇだろう」
冗談だと思っているのだろう。ひどーいとかわいこぶってポカポカと軽くたたいてくるがお世辞にもかわいくはない。
顔良し身体良しの女を知ってしまったら情が薄れるのも当然というものなのか……先程からキャッキャと騒ぐ彼女が目障りで仕方ない。
せっかく手に入れた金を女の宝石に変えるなんてたまったものではない。これは自分が得たものだ。どうやって諦めさせるか。
それともいっそ………………
こいつもやってしまおうか。
一人も二人も一緒だろう。今までは自分なんて女にもてないと思っていたし、都合の良い性処理女として共にいた。しかし娼婦を虜にできたのだ。
きっと新しい女も手に入れられるだろう。
この女は娼婦ではないが自分と同じ貧乏な村出身の田舎者だ。きっと誰も真剣に犯人探しなどしないだろう。
とはいうものの暫くは生かしといてやるか。
やろうと思えばいつでもできる。新しい女ができた時にでも……。
男がそんなことを思っているとは夢にも思わない女は甘えるように金貨が散らばるベッドの上で熱のこもった甘い眼差しで男に抱きついた。
――翌朝――
男は人を殺めたとは思えないほど清々しい気分で目を覚ました。今日から自分は金に困ることのない生活だ。金があるというのは素晴らしい。
こんなにも心が晴れやかなのだから。
昨夜から散らばったままだった金貨を拾い集め袋にしまう。ああ、なんて幸せな重みなのだろうか。これもいつかは尽きるだろう。だがまた同じ方法で金を得れば良いのだ。
「俺って頭いいなー」
一度タガが外れた男はもう殺人に躊躇などなかった。




