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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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4.男の正体

  結果が決まればもう用はないとばかりに散っていく人々。まだ昼だが今日は営業を開始する店ばかりのようで身体を密着させた男女、男男、女女が続々と店に入っていく。


 この街では自宅に客を招き個人で客を取るものもいるが、大多数の人間がどこかの店に所属している。そちらの方が守ってもらえるし、多少なりとも規律があるからだ。


 レイチェルは外の光が眩しい昼間に街が賑わうという珍しい光景に目を細める。きっと夜も営業はするだろうし今日の売り上げは過去一かもしれない。そんなことを思いながら両手を空に向かって伸ばす。あー……身体がバキバキする。意識していなかったが緊張していたよう。


 あの競りで自分の人生が決まってしまうのだから当然か。


 そして自分は色男のものになることが決まった。類稀なるイケメンにスレンダーながらも逞しい身体つき。そんな彼が相手なら幸運だと思おう。


 幸運だと……………いや、あんな冷たい目したやつ嫌な予感しかしない。一目惚れ云々ではないはず。じゃあなぜあんな大金を払ってまで自分を競り落としたのか。


 はーと盛大な息を吐きながら僅かに背を丸めトボトボと台を降りて歩き出す。行先は娼館メフィストだ。競りを仕切ったのがゲラン一の館メフィストであるのでそこで金銭の授受と共に自分の受け渡しがされるはず。


 足を止めたいが止めたところで意味はないので歩き続ける。娼館まみれの街であろうと自分にとっては故郷と言うべきゲラン。


「一生ここで過ごすと思っていたのに……」


 それが幸か不幸かはわからないけれど。ここを離れると思うとどこか寂しい気持ちが湧いてくる。動かす足もゆっくりとなる。


 どれだけゆっくり歩こうと狭い街の中を移動しただけ。レイチェルの目の前にはメフィストの看板を掲げた娼館がドドンとそびえ立つ。


 顔馴染みの用心棒がレイチェルの為に扉を開けてくれる。


 一度強く目をつぶり目を開いたあと足を動かす。


 エントランスに入ればキラキラと輝くシャンデリアの下でソファで寛ぎながらお行儀よく順番待ちする紳士たちの姿。ここに来るような客は超がつく金持ちばかり。


 おめでとう。


 幸せに。


 先程の下卑たはしゃいだ声とは違い穏やかな声がかけられる。それらに軽く会釈しながら足を進めて辿り着いたのは館主の部屋だ。

 

 レイチェルの姿を見た館の用心棒が扉を開こうと取っ手に手をかける。はてさてどんな未来が自分に待っているというのか。

 

「ちょっとどういうことよ!」


「いや、俺だって頑張ったんだよ!?…だが20億なんて……うぷっ…お、重っ…」


「もっと出せたでしょう!?あんたが貯め込んでるの知ってるんだから!」


 ……これ入らないとダメ?


 母が館主の上にのしかかり胸ぐらをつかみ上げ吠えまくっている。館主は自らの机に背中を押し付けられ母の身体によりめり込むお腹にアップアップ。そして色男は長椅子のソファに1人腰掛け優雅に茶を飲んでいる。


 部屋の中はカオスだった。


「遅いぞ。私の時間は高いんだ」


 ソファで足を組み茶を嗜んでいた色男がレイチェルに気づき声をかけてくる。


 なんなのこいつ偉そうにと吐き捨てたいがこの色男は実際に偉いやつで。お澄まし顔でスカートをつまみ頭を下げる。


「これは失礼致しました―――ハーデス公爵様?」


 レイチェルの言葉に色男はほおと片眉を上げる。ギシリとソファから立ち上がるとレイチェルの前に立つ。


 思ったよりも背が高い。服の上からでもわかる鍛えられた身体。いい男だが見下ろされたらその冷たい雰囲気に怯える女性も多いだろう。または見惚れるか。生憎自分はそのどちらでもない。


 顔の良さなら自分の方が上だ。


 顔を上げるように言われたので彼の顔を見上げながら薄っすらと微笑めば頰を染め………ることもなく一切表情を変えない色男。


 鉄面皮なのかしら?


「なぜ私のことがわかった?会ったことはないはずだが?」

 

 すぐには答えず彼の姿を頭の先から爪先までゆっくりと眺める。


 レオン・ハーデス御年24歳。ルカス帝国序列一位のハーデス公爵家の若き当主。ハーデス家は何度も皇后を輩出、皇女を頂戴するような高貴な血統で政治的権力も持ち合わせている。様々な事業を行っており帝国一の金持ちと言われている。


 レオン自身もルックス、頭脳、腕っぷし、執務力、経営手腕と全て一流。欠けたるものがない男。ああまだ嫁と子供はいなかったかしら。


「その見事な黒目黒髪。他の貴族がひれ伏すような圧倒的なオーラと優雅な佇まい。そしてそれだけ整ったお顔とくれば公爵様だと誰でもわかるでしょう?」


「本当は?勘でものを言うべき時もあるが外れていたら大問題だ。何か確証があったのだろう?それとその気持ちの悪いお世辞と敬語は不要だ」


 この男うざいかもしれない。素直に褒め言葉として受け取ればいいのに。敬語が不要?んなことできるわけがないでしょうが。


「……新聞に掲載された写真を拝見したことがこざいます。圧倒的な経済力、自信に満ち溢れたムカつく顔、その傲慢でご自分が一番と思っていそうな太々しいオーラが新聞からも伝わってきて覚えておりましたの」


「ほお」


 レオンの片眉が上がる。


 写真嫌いの自分の顔が命知らずの新聞社の記事に載ったのは5年程前だったはず。隅から隅まで読まないと気付かないような小さな小さな写真と記事だったはず。


「その太々しいもの言い、気の強さ。じじいらもたまには良いことを言う」


 やはりこの女を選んで正解だ。


「じじい?一体なんのことです……?ていうか笑顔こわっ……」


 怖い?ああ、思わぬ収穫に笑っていたようだ。口元に手をあて口を隠す。


「私が微笑めばきゃあきゃあ騒ぐ女が多いというのに目は大丈夫か?」

 

「私の方が美しいではございませんか。あなた様こそ目は大丈夫ですか?それにあなた様よりいい顔の男なら見たことがございますので」


 確かに公爵はいい男だ。顔、スタイル、所作、纏う雰囲気、総合的に見れば目の前の男以上の男など見たことがない。だが顔だけとあらば見たことはある。


「ここは帝国一の娼館街ゲランですよ?」


「そうか…………くくっ」


 口を押さえたまま今度は声を出して笑うレオン。


 あら、不快な顔でもするのかと思ったのだが以外と寛容なようだ。娼夫の顔の方が上だと言われて平然としていられるものはそれほど多くないものなのだが。



「ハーデス公爵様!!!」


 目の前の男を心の中で見直していると急に母の声が聞こえた。それと同時に身体に強烈な衝撃が走り気絶しそうになるレイチェルだった。


 

 

 


 

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