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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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39/41

39.古巣

 ガタガタと微かに揺れる馬車の中。


 リリアは向き合って座るレイチェルを盗み見る。窓をぼーっと見つめるレイチェルは憂いを帯びていて見惚れるほどに美しい。


「嫌だなー」


 これさえなければ……リリアは出そうになるため息を堪えた。でも今回ばかりはリリアも同感だった。


「……めんどくさいことになりましたね」


「せっかく久しぶりにゲランに行けるって言うのに」


 自由にさせてもらっているもののゲランの出入りは控えていたレイチェル。公爵家の嫁が軽々しく行くところではないと思うし。男が出入りするぶんには何も言われないのだが……女の出入りはとかく色々と噂を呼び込みやすいもの。


 たがレオンの許可があれば話は別だ。


 久しぶりに母や娼婦のお姐様方に会える。自分でも表情が変わるほど胸がはやったものだったが、今は少し……いや、かなり憂鬱だ。


 なぜ憂鬱なのか。


 それは


 アリーが連れてきた下働きの女のせい。彼女は部屋に入るなりアリーを押しのけ言った。


『女狐に騙されているルードをお助けください!』と。


 この瞬間に悟った。また厄介事だと。なぜ最近こんなことばかり……まあグチグチ言っても仕方ない。


 恐らく娼婦の女――モリーにとってルードはただの客。本気ならば金のない男に金を払わせるわけがない。ルードが毎回ちゃんと金を払っている以上彼は客でしかないということ。


 娼婦の気持ちをささっと聞いてルードを納得させて終了。男とは単純なものでカッコつけたがる。カッコつけさせるような終わり方をすれば良い。


 だが物事というのは関わる人数が多いほどこんがらがっていくものだ。それに部屋に着た彼女の目は恋する乙女だった。ルードを慕っている目。


 モリーと話をつけました。ルードも納得しました。ちゃんちゃんで終われば良いのだが彼女がそれを聞きどう動くのか……


 うん。

 実にめんどくさい。


 馬車が止まり降り立てばそこは懐かしき古巣ゲラン。半年ぶりくらいだというのにとても懐かしく感じる。


 実家に……と行きたいところだったがやるべきことを先にやろう。とはいえ久しぶりのゲランの地。一歩一歩踏み出す度にこみ上げてくるものがある。


「あらぁレイチェルじゃなあい」


「もう離婚されたの?」


「半年ならもったほうじゃない?」


「ちゃんとふんだくってきたでしょうね?」

  

 ケラケラと笑う声…………こんな声も懐かしいといえば懐かしい。


 視線を向ければそこにはお色気ムンムンのお姐様方がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。


「あら、公爵夫人に無礼よ?」


 懐から袋を取り出し金貨を見せれば彼女たちの目がキラリと光る。


 1時間後。


 レイチェルとリリアはそこから全く動かず情報を得ていた。噂を聞きつけた娼婦や娼夫、下働きの男衆が殺到したのだ。自分が持っている情報を話すだけで労せず金貨がもらえるとなれば集まる人人人。


「いい感じに集まったわね!あとは整理するだけね」


 本人に話を聞くだけでも良いのだが、嘘を言われたらおしまいだ。ある程度情報を集めて彼女に本当の気持ちを吐かせなければ。


「そ、そうですね……」


 金はもらったと意気揚々と散っていく人々。


 弱々しい音色にレイチェルがちらりと横を窺えばそこには疲労困憊の顔をしたリリアがいた。


「あなた働き者だけど……意外と軟弱ね」


「面目ございません……」


 なんやかんやいって品の良い貴族様の世界で育ったリリアは人にもみくちゃにされるなど人生初だった。なかなか息苦しくむさ苦しく壮絶だった。


「では我が家にしゅっぱーつ!」


 隠しきれない嬉しさが感じられるレイチェルの声にリリアは思わず笑みを浮かべていた。


 だがレイチェルの実家についたリリアは目を丸くしていた。これは………………


「家だから。庶民の家はこんなものだから。別に小さくないから。貴族様のペットの小屋くらいでも人が暮らす家だから」


「わ、わかっております」


 いやいやめちゃくちゃ目を見開いて驚いていたし。まあ公爵邸で住み込みで働いて行く先行く先貴族の家や高級店なのだから仕方ないのかもしれない。


 今日から暫くここに住んでもらうが大丈夫だろうか?


 ちょっと心配になるレイチェルだった。が実家でダラダラするためにちゃちゃっと仕事を進めていこう。


「リリア、皆から聞いた話を覚えている?」


「覚えておりますが……色々と言っていることが違いましたね」


「まあ、金欲しさで知りもしないのに適当に言ってる人もいるからね。モリーとやらはこのゲランで特に有名というわけでもないみたいだし」


 リリアの意見を肯定しつつもその視線はどこか挑戦的で人を試しているようだ。リリアは頭の中を整理すると口を開く。


「ですが……通うお客さんたちは本気になる方が多いような印象を受けました。一緒にゲランを出たいというおねだりを真に受けている感じでしたね」


 その言葉にレイチェルはに、と笑う。


「流石リリア!私も同意見。あとは明日本人に話を聞きに行こう。それで調査はおしまい」


 きっとあっさりルードをただの客だと認めるはず。娼婦にとって面倒そうな客はご勘弁なはず。ましてそれが大して金のない客なら尚更だ。金はないがトラブルは生み出すなんて迷惑以外の何物でもない。


「見事な手際にございます」


 少々大々的にやり過ぎた気もするが情報は十分に集まった。


「古巣ですもん」


 自分が育った街ゲラン。口を開かせる方法も情報を集める方法も知っている。それに自分はここで顔がよく知られているし……愛されている。


 空気は濁っているし、町並みも決して美しくはない。だけどやっぱりここが好きだ。色々な事情を抱えた人が多く、ガサツだが人情味がある。


 そして欲が剥き出しになっていて面白い。顔がニヤけそうになるのを堪えていたレイチェルの耳にある音が聞こえてくる。



 ガチャガチャッ


 バンッ!


「レイチェル~~~~!」


 凄まじい音を立てながら開いた扉と共に1人の女性が家に飛び込んでくる。鍵がかけられた扉を開けて入ってこれる人はただ一人。


 久しぶりの感動のご対面――


「「…………………………」」


 とはならずレイチェルは固まり無言。その隣でリリアも口をポカーンと開けて固まっている。


 レイチェルはそのあまりにもの変貌に――。


 そしてリリアはその美しさに――。


 固まるレイチェルに構わずその人はレイチェルの頭に手を回すと自らのたわわに実った胸に顔を押しつけながら抱きしめる。


 懐かしい。いつもこうやって抱きしめてくれた。ただ今日はいつもより息がしやすい。ぷはっと顔をあげ一歩足を引いたレイチェルは改めて女性――母であるキャサリンを眺めた。


 すらりと伸びた手足、ボンキュッボンのボディ、そして自分によく似た美しい顔。


 に、と笑う母は太ったおばちゃんから若々しい美女に変身していた。







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