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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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36.皇太子からのアドバイス

 パーン!


 矢が真っ直ぐに飛んでいき、的のど真ん中にあたる。


「で、どうなんだい?」


「何がですか?」


 昼下がりのぽかぽか陽気に関わらず眠気などこれっぽっちもわかないレオン。なぜかはわかっている。目の前でにこにこと笑う男のせいだ。


 昼食を取った後、以前皇太子に誘われた弓矢の訓練にお供しているレオン。再びパアンと矢が的に命中した音が屋外に響く。


 パチパチと手を叩けばお前の番だと言わんばかりに一歩後ろに下がる皇太子。それに促されるよう弓矢を構えれば皇太子が口を開く気配。


「なにがって決まってるじゃないか。奥方とはどうなんだい?なんとも注目の的の結婚だというのに君が口をつぐんでいると皆不満そうだよ?」


「特に話すこともないので」


 スパーン!


 皇太子と同じくど真ん中を撃ち抜く矢。見ていたものから彼自身の見た目の良さと相まって感嘆のため息が漏れる。


「そんなことはないだろう?あれだけ美しい女性だ。目にするだけで胸は高鳴り、目が合えば胸は踊り狂い、触れれば……胸が発狂するのでは?」


 弓矢を構えながら夜の営みの話をする皇太子に侍従や侍女たちは一切表情を変えない。だが冷静に見えて彼らの耳はダンボになっている。


「まだ共に夜を過ごしておりません」


「!?」


 ヒュンッ!


 皇太子が放った矢はあらぬ方向に飛んでいったが、幸いなことに誰にも当たらなかった。一瞬胸をなで下ろした皇太子だったがレオンの言葉を思い出しわたわたと焦りだす。


「お、き、君は不能か!?それとも男色か!?」


 もしかして狙われてる?とでも言いたげに胸の前で自らの手をクロスする皇太子。


 皇太子の言葉のせいか、行動のせいか……


 ヒュンッ!


 レオンの矢もあらぬ方向に飛んでいく。これまた幸いなことに誰にも当たらず皆が安堵の息を吐く。二人はこれ以上は射てはならないと弓矢をお付きのものに渡す。


「皇太子様、私はどちらでもありません」


「意味がわからない」


 意味がわからないと言われてもこちらも意味がわからない。訝しげな顔をするレオンの両肩にガシリと手が置かれる。


「あれだけの美貌とスタイルを持つ女だぞ?愛だの恋だのが心になくとも男であれば手を出さないなんてあり得ないだろう!?」


 真っ昼間からそんなこと大声で……。自分をからかっているのかと思うものの皇太子の目は至極真剣で、こんな話はやめましょうとは少々言いづらい。


「そうは言われましても……ほとんど顔も合わせておりませんし、話も滅多にしませんので」


「嘘だろう?」


「いえ……。仕事は多忙ですし、彼女には出迎えは無用と言ってあるので顔は合わせませんし…彼女は寝ていますし……」


 レオンが話せば話すほど悲壮感漂う顔に変化していく皇太子にレオンの言葉が尻すぼみになっていく。


 皇太子は力なくレオンの肩から手を滑り落とした後、天を仰ぐ。


 ようするにどちらも相手に合わせる気がないということか。国を支えるべく日々精進している妻も自分もかなりの激務だ。だが食事を共にとったり、ほんのちょっとでも空いた時間に顔を見に行くようにしている。仕事を人に任せたり後回しにしたり、時には死に物狂いで終わらせ甘い夜を過ごしているのだ。


 どちらかでも歩み寄る行動を取らねば彼らのようなすれ違いしか生まれないのも当然というもの。


「……子だって必要だろう?彼女と子を成す為に結婚したのだろう?」


 高貴な血を薄めることが目的の結婚だったはず。


「それはそうですが、まだ彼女も若いですし」


「貴族の世界では若いからなんて言葉は無いに等しいものだ」


 あ……しまった。


 皇太子夫妻はまだ2人が10代の時に結婚した。それから数年経つがまだ子宝に恵まれていない。結婚して半年程経ったあたりから子供はまだかという声が家臣たちが上げ始め、現在では皇太子妃にかなり強いプレッシャーをかけている。


 自分の娘をどうですかという側室の勧めも非常に盛んになっている。皇帝にだって側室はいるし、皇太子とてそれも一つの手であるとは思っている。


 だが


「皇太子妃やその家族にはいつもよくしてもらっているしね、可能であれば彼女に男の子が生まれることを望んでいるんだよ。正妃に男の子がいれば無用な争いも生まれないしね」


 完全な政略結婚だが二人の仲はそれなりにうまくいっている。レオンから見ても皇太子妃もその一族も自らの力を惜しみなく使い皇太子を支えている。だからこそ皇太子もその思いに応えたいと思っているのかもしれない。


「……失言でした」


「いやいや、最初は皆そんな感覚さ。私だってすぐにできるだろうと思っていた。焦らなくてもいつかできるとね。本当にこの世界はままならないものだよ」


 俯きがちに笑う皇太子はとても悲しそうな目をしている。何と声をかければ良いか迷っていたが急に視線がバチリと合う。


「……と私のことはどうでも良いんだよ!やはりちゃんと毎月時期を見てやることが大切であり、致さなければ子供はできないからね?まだいいなんて甘いこと言っているんじゃないよ?ちゃんとしっかり致すんだよ?」  


 あなたは母親ですか?と言わんばかりの説教口調になってきた皇太子に調子が戻ってきたかとほっとするレオン。


 致す致さないはさておき……いや、まあもうそろそろとは思っているけれど……。いやいやそれはとりあえず横に置いておいて……。


 時間を作る、か……。


 その言葉がレオンの頭の中にぐるぐると駆け巡った。


 


 










 

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