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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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35.裏切り者の末路

 くどいが……


 ヘビーだ。


 まじでヘビー。


 双子の皇女の取った取られたなんて重すぎる。でもどんな男なのだろうか。そんなにいい男なのだろうか。ちょっと見てみたいような……いかんいかん、横路にそれていっている。


「よ……よくアリッサ皇女様と平然と話せますね」


「昔から仮面をつけるのは得意なの」


 悲しくても悔しくても面白くなくても笑え、微笑め。嬉しくても本当の笑みは浮かべるな、本心を晒すなと周囲から言われてきたから。自分を思っての言葉なのだが心の底から無理だろと思ったものだ。


 だがやってみればできるものでそれは妹まで欺いたよう。最初は気遣うようなこちらの気持ちを伺うようにしていたのに張り付けた笑顔に許された気になって何事もなかったかの

ように話しかけてくるようになった。


「でもなぜ許されたなんて思うんでしょうね?我が妹ながら厚かましい」


「双子だからとか?」


「ほっほっほっほっ。相手のものは自分のものって?クソ食らえだわ」


 怖っ。何度も突き刺されたチーズケーキがボロボロと崩れていく。きっとこのケーキのようにアリッサをボロ……いややめておこう。


「きっと人の痛みに疎いのでしょう。皇女として厳しく教育されてきたとはいえ溺愛される帝国の至宝。両陛下以外誰も彼女から何かを奪えない。欲しいものは与えられる。欲しいものが手に入るのは当たり前というものだったのでは?」


「ふふ、私も耳が痛いわ」


 とはいうもののアリッサの本質の部分が自己中で甘ちゃんなのだろう。同じ環境で育ったはずのバネッサはとても理性的なのだから。


「バネッサ皇女様は復讐をお望みなのですか?」


 だから私をここに呼んだのだろうか。


 レイチェルの問いにバネッサはゆるゆると首を横に振る。


「二人の気持ちに気づきながら何もしなかった、アリッサと戦かわなかった私にその資格はないわ」


「……そうですね」


 レイチェルの言葉に軽く目を見開くバネッサ。


 あれ?何か変なことでも言っただろうか?


 ゲランではそれはもう凄まじい戦いを目にしたものだった。生活がかかっているのだ。金払いの良い客は熾烈な争奪戦。惚れた男をとられようものなら刃物のご登場という世界だった。


「ふふ、でも世の中うまくできているものなのよ。私が手を下さなくても彼らには天罰がくだったもの」


「どのような天罰ですか?」


 もしかしてこれですか?と首を掻っ切る仕草をしたレイチェルにバネッサは肯定も否定もせず笑う。


「私ね……とても幸せなの。主人とは深い愛というわけではないけれど、妻としてとても大切にしてくれるの」


 なぜ急に自慢?ここで自慢?私にマウントをとられても困るのですが。


「子供も男の子2人に女の子1人に恵まれたし」


 3人の子を思い浮かべているのかその表情はとても柔らかく、慈愛に満ちている。


 子供……。自分は子供をこの手に抱くときが来るのだろうか。子供を抱くビジョンが全く頭に浮かばない。


「夫のご両親もよくしてくださるし、幸せとはこういうことを言うんだろうなって思うの」


 うん?そういえば自分はまだ義父母に会ったことがない。きっと認められてないんだろうなーなんて。ていうか自慢が続くなら帰ってもいいですか?それが許されぬなら目の前のお菓子を爆食いでもしようかしら。


「あなたは知っているかしら?」


 何をです?


 上げようとした声は出なかった。


 だって今なんか……


 そろそろとゆっくりと王女の顔を見れば微笑みを浮かべている。ただ先ほどとは違いゾッとするような仄暗い笑みがそこにはあった。


 急に寒くなってきた。


 おかしいな、風など吹いていないのに。


「アリッサはね……これから先愛する相手との子供は望めないの。彼女の夫が原因不明の高熱を出して、それからあそこが役立たずなんですって」


「そ、それは……ご愁傷様?」


「それにね、彼はゲランに女を囲っているの。あそこが役立たずだから最後まではしてないみたいだけど。あそこが役立たずになって焦って荒療治とばかりにゲランに行って運命の女を見つけたそうよ」


 皇女の口からあそこあそこと……。不能になったのがよっぽど嬉しいのだろうか。

 

「愛だ恋だのとほざいていたのに。そんなもの一時的なまやかしといったところだったのかしらね」


 ああ、それでアリッサ皇女は愛というものに拘っていたのか。双子の姉を裏切ってまで得た愛。夫の愛がまやかしだったなどと信じたくなくて、他人の愛というものにまで固執している。


「人を裏切るようなやつは所詮理性のないケダモノなのよ。だから何度も何度も同じ過ちを繰り返す。あのとき私は捨てられて幸運だったのよ」


 そう言って笑うバネッサは先程までの憎々しいだけの表情から一変、どこか少し寂しそうで哀れみを感じているようだった。そしてどこか優越感も――。





「で、そんな感じで帰されたんだけど。私はなぜ呼ばれたのかしらね?」


 嫌だ嫌だと言いながら出発したレイチェルを心配しながら門前で待っていたリリア。彼女に開口一番にお菓子の食べ過ぎで晩ごはんはいらないと言われ長説教をした後、そんなことを聞かれる。


 お菓子は大量に食べてくるわ、皇女の話を侍女にしちゃうわと呆れるばかりだがそれだけ信頼されていると思うと悪い気はしない。


「ただ話を聞いてほしかっただけでは?」


「なのかなー」


 ゲランにもいた。身体を重ねるでもなくただ話をするだけの客が。ただ話を聞いてほしいがために大金を払うなんて正気じゃねぇと思ったものだ。


「皇女という立場、憎むべき相手が同じ皇女ということで気軽に話せる内容ではありません。心に秘めたことを話せる相手と認識されたのでしょう。お言葉通りご友人になりたかったのでは?一応レイチェル様は公爵夫人という立場で権力者ですし」


「権力者!?」


 ダメだ……全然ピーンと来ない。


 でも皇后やら皇女やら帝国のトップと関わってはいるわけで、権力者と言えるのかも?


 ああでも一つ言えることは――


「あー……公爵夫人ってめんどくさいのね」


 いや、公爵夫人とかいう問題ではたぶんないです。喉元まで出かかった言葉をリリアは飲み込んだ。

 







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