31.出禁
「あなたは失敗したのよ」
するりとレオンから離れるレイチェル。彼女の温もり、甘美な香りが離れレオンは少々寂しくなる。
「周囲の人間に自分とレオン様ができているように思わせたってなんの意味もないのよ?」
ゲランにもマリアみたいな女はいた。最後まで物を言わず
勘違いさせる。そうやって周りの者を騙す。人とは不思議なもので周りに流されるものは多く、物事がその人が思い描いたとおりに動くことがある。
とはいうものの
「しっかり自分の意思を持ち周囲に流されないレオン様が周囲の言葉だけであなたを側に置くと思ったの?」
そんなことあるわけがない。彼はゲラン出身であるレイチェルを嫁にするような男なのだ。
「想い合ってる?それがあなたが思い描いた物語だというのはわかっているはずよ?」
「違う!違う!違う!違う!」
自分は現実をちゃんと見てる。
「心が繋がってる?レオン様はあなたのことなんてどうも思っていなさそうだけど?」
マリアの顔がぎゅっと強張る。
レイチェルは再びレオンに近づくとその肩にそっと手を置き身を屈め彼の耳元で囁く。
「ねぇダーリンあなたが選ぶのはマリアさん?私?」
やめて、やめて。彼の耳元でそんな風に囁かないで。彼は私のものなのよ……。触らないで。近づかないで。
ねぇレオン様、なんであなたはその手を振り払わないの?
「選ぶではない。私はもうレイチェル君を選んだ」
レオンがレイチェルの手に自らの手を重ね軽く撫でる。
「全ての女性の中からレイチェル、君を選んだ」
身を寄せ合い頬を寄せ合うその光景に皇女たちは目を奪われた。マリアでは感じたことのない繋がり。
レイチェルが身を起こす際にさらりとレオンの頬を彼女の美しい髪が一房撫でる。その心地良さにレオンは自然とレイチェルの髪に手を伸ばしていた。
「っ!」
なんで!なんで!なんでその女の髪の毛を愛おしそうに触るの。自分たちは愛し合っているのになんで……なんでなんでなんでなんで。
レオンが彼女を選んだ?そんなの嘘だ。
自分は認めない。
ガタンッ!
マリアが急に立ち上がり椅子が倒れる。彼女はブルブルと震えながらレオンを見つめる。
「……公爵邸の下級使用人たちの反乱が起きますよ」
彼らは自分の言いなりだ。レイチェルが邪魔をすると言えばきっと彼らは行動を起こすはず。そう躾けたのだから。
マリアの顔が醜く歪む。
その顔に浮かぶのは狂った笑み。
「ああ、彼らなら先程私のところに来て君を妻にするべきだ、しないなら仕事をしないと言っていたな」
あら、もう既に動いていたのね。自分の指示を待たずに動いたのは気に食わないが自分に心酔している証拠とも言える。
「だから仕事をしなければクビだと言ったら頭を下げて逃げていったぞ」
「え?な……ん…で……?彼らがいなかったら困るし……評判だって悪くなって……」
勝利を確信していたマリアの顔が絶望に染まっていく。
「?彼等の仕事は私の私生活に口を出すことではない。必要とあらば執事が忠言する。己の領分を越える者はいらない。それに彼らからどう思われようと構わない。仕事さえしてくれれば金は払う」
別に全員いなくなろうと困らない。ハーデス公爵家の使用人になりたいものはいくらでもいるのだ。主の意向を蔑ろにするやつなんて一番いらないのだ。
まあ今回はレイチェルに何かしたわけではないので不問にするが、次はない。
顔を青褪めさせたマリアはその場にどさりと尻をつく。
全てが無駄だった。
子供の頃からレオンと親しいものに近づいたり、下級使用人に媚を売ってきた時間はなんだったのか。ここまでやって彼が自分のものにならないならどうすればいいのだ。
「マリア嬢。夫婦を裂こうとするものをこの屋敷に入れるわけにはいかない。母上には私から言っておくから二度とこの公爵邸に足を踏み入れることがないように」
「でも……!」
「今のこの公爵邸の女主人はレイチェルだ。母上が何か言ってきたとしても私は認めない」
というか母も大賛成だと思う。問題を起こさなかったから出入り禁止にできなかっただけなのだから。
「そんな……」
もう自分は愛しい人に会うこともできないのか。縋るようにレオンを見つめ彼に手を伸ばす。
「もう一度言う。二度と私とレイチェルの公爵邸に足を踏み入れるな」
レオンの完全なる拒絶の言葉にマリアの目から遂に希望の光が消えた。
その後ふらふらとおぼつかないマリアを皇女が支えながら帰っていき、お茶会は終わりを迎えた。




