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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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30/34

30.触るな

 なにか、なにかがおかしい。だってレオンはマリアのことが好きなはずで、二人は両想いで、だってそうやってマリアは言って……


 いや、言った?1回でも彼女はレオンと想い合ってるなんて――


「アリッサ様…………」


 小声で名を呼ばれ横を見れば涙を目にたくさん溜め、何かを堪えるように自分のスカートをぎゅっと掴むマリアがいた。


 いや、余計なことは考えるな。


「レオン。いい加減にして」


 バンッとテーブルを叩くアリッサ。テーブルの上にあるソーサーに手が当たりカップが倒れ地面に滴り落ちる。


「マリアに指輪……あげたんでしょう?」


 そうこちらにはそれがある。もしかしたら今レオンはレイチェルに心惹かれているのかもしれない。やっぱり美人だし。でも心の底では幼い頃からマリアをずっと想っているはず――。


「指輪?」


 訝しげな顔にアリッサは心がパリーンと音を立てたのがわかった。


「…………マリアが……首にかけてる指輪……」


 アリッサの力なき声がレオンの耳に入りマリアの首元に視線が向かう。初めてレオンから視線が向けられマリアの顔が朱に染まる。


 じーっと見つめる様はちょっと見ている場所が見ている場所なだけにちょっと居た堪れないが、レオンはどうとも思っていないのかジロジロと見続ける。


 あ、と小さく声を上げる。


「これは昔救済院の子どもたちにあげたものだな」


 確か母が自らいくつも作っていて自分も手伝った記憶がある。そして救済院で幸あらんと言いながら子どもたちに渡して回ったのだったか。


「懐かしいな。ああ、そう言えば珍しくマリア嬢が話しかけてきたと思ったらその指輪をくれと言うのでやったな」


「「「………………………」」」


 なんだそれは。


 確かにレオンからもらったというのは間違いない。だがその意味は全く違うのでは?流石の皇女も気づく。自分はマリアに騙されていたのだ。いや、勝手に勘違いしたのだ。


「マリア。私もその……応援しちゃったから良くなかったけれど……レオンはあなたのことを想ってはいな「違います!」」


 急にマリアの大きな声が庭園に響き、皆の体がびくりと震えた。レイチェルはマリアの様子に目を細める。 

 

 ふらふらと立ち上がったマリア。彼女の目は焦点が合っていないのにレオンの顔をじっと見つめており、その体からはすごい量の汗が噴き出ていた。

 




「マ、マリア?」


 アリッサの口から戸惑いの声が漏れる。


「私とレオン様は想いあっているの!幼い頃から!だって指輪だって、幸せになろうねって渡されたんだから!」


「「「……………」」」


 この場にいる彼女を除く全ての者が悟った。彼女は事実に自分の理想を付け加えてそれを現実だと思っている。


「レオン様!あなたの側にいたのは私です!言葉はあまりなかったかもしれないけど、そんなものなくても私たちの心は繋がっていたじゃないですか!」


 唾を撒き散らしながら叫ぶマリアは非常に醜く、そして痛々しい。見ているものが哀れになるほど――。


「幼馴染同士が真実の愛で結ばれる物語はとても多いわ!?たまに邪魔が入るけど結局そんなのは当て馬でしかなくて……超える壁でしかなくて……二人の愛を深める為のただの道具なのよ!」


 いや、お前は道具だとびしりと指をさされても。ゼーハーと荒い息を繰り返すマリアはレイチェルからレオンに視線を移しぽーっとその容姿に見惚れる。


 が、


「!!!ちょっと!触らないでよっっっ!!!」


 彼女の限界であろう大声が庭園中に響いた。マリアの変貌ぶりに驚く皇女二人は口を開いたまま固まる。


 そしてこの人は愉しそうに笑う。


「えーなんで自分の夫に触ったらいけないんですかー?」


「この売女が!私のレオン様から離れろーーーー!!!」


 怒りに震えるマリアの目の前にはレオンの背後に立ち、彼の首に抱きつくレイチェルの姿があった。レオンは背後からムギュッとあたる柔らかいものに平静を保とうと努めるが耳が赤くなる。その様子を見たマリアはかっと顔を赤らめ怒りを爆発させる。


「その汚らわしいものをレオン様に押し付けるなっ!穢れるだろっ!」


 そんな声に動揺するはずもなくレイチェルは徐々に手をおろし膝の上に置かれていたレオンの手をゆったりと撫でる。


「あらあら……夜にはもっと密着しちゃってるのに?しかも肌と肌で……」


 ねっとりとした纏わりつくような艶めかしい視線がマリアを捉える。実際は同じ布団で寝たこともないのだが、そんなことは言わなきゃわからない。


 マリアには効果てきめんだから良いのだ。レイチェルは怒りで震える彼女をじっと見つめる。


 自分は一度も触れたことのない手。でもいつかその手に自分はそっと触れるのだ。そして彼の長い指がそっと自分を優しく、力強く抱き寄せるときが――なのに……


 その目で、いやらしい身体で彼を誑かすなんて――!


 怒りのあまりマリアの手がレイチェルを引き剥がそうと二人に伸びてくる。だがその手はレイチェルに触れることはなかった。


 だって触れない。触ったらレオンにも触ってしまう。だって最初は優しく触れるのだ。愛し合う者同士の互いを思い合う柔らかい触れ合い。自分たちにはそれが似合うのだ。


 行き場を失った手をなんとか身体の横に戻すマリア。



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