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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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29/35

29.ヒーロー登場

 シーンと静まり返る庭園。形勢逆転したとばかりに頬を上気させるアリッサ皇女の呼吸音がやけに響く。


「それって子供時代のことですよね?」


「それが何よ!?」


「ば、馬鹿にしないでください!」


 マリアがガタンと大きな音を立てて立ち上がった。ゆらゆらと揺れていた椅子が結局ガタリと倒れ、その場はシーン……と静まり返る。


「こ、これはレオンが幸せになろうってくれたものなんです!」


 あの堅物そうな男がそんな可愛らしいことを?


 なんかイメージが……ダメだどうしてもそのシーンが浮かばない。子供時代にはそんな時代もあったというのか。今となっては女を買うようなやつに……。時の流れとはなんと無情なのか。


「で?」


 なぜかドヤ顔をしている皇女とヒロイン感に酔いしれているマリアの顔が強張った。


 いやいや、だから何?としか思わない。


 どんなやり取りが二人の間でされたのかはわからないが、レオンはマリアに対して全く興味がなさそうだった。そう、マリアが可哀想なほどに。


 レオンにマリアへの恋心があったのかは不明だが、消失したのは間違いない。事情があるにしろ彼に選ばれたのは自分。過去がうんちゃらと言われてもそんなものはどうでもいい。


 アリッサ皇女がす、と静かに立ち上がるとマリアの肩に手を置き座らせる。自らも椅子に座ると静かにレイチェルを見据える。


「離婚なさい」


「私の一存では無理ですよ?」


「あなた……自分の立場を理解していないんじゃなくて?私は皇女よ?この大帝国の皇女。その私の言うことには従うものではなくて?」


 本人の気持ちを確認もせず、思うように人を操ろうとする皇女様。


 可哀想と信じて疑わぬ存在を救う自分に酔う皇女様。


 とおっても傲慢な皇女様。


 我儘ではあるが悪い人ではないのだろう。それはなんとなくわかる。裏から手を回しもしない。正々堂々と乗り込んでくるような人だ。


 だが弱いもののふりをした偽弱者の話を信じてしまうのはいただけない。弱者を困っている人を助けたいと思うのであればもっと見る目を養うべきだ。


 レイチェルが立ち上がる。


 見下される形となったアリッサ皇女はビクリと身体を震わせる。


「きゅ、急に何よ……」


 逸らされることのない美しい瞳に気圧されそうになるのをなんとか堪える皇女だったが、急にその目は違う方を向いた。


 え?一体どこを見て……


「あなたぁ」


 そう声を上げると小走りで皇女の背後へと駆け出すレイチェル。




 振り返ればそこには――


 胸元に飛び込んできたレイチェルの腰を抱きとめるレオンの姿があった。




 二人の皇女とマリアの目が見開かれる。彼がこの場に顔を出すなんて思ってもいなかった。仕事人間の彼が女性の集まりになんて…………なぜ?



「なんだ揉め事か?」


「離婚しろって」


「なんでだ?」


「あなたが愛する人と結婚させろって」


「はあ?」


 露骨に迷惑そうな顔をするレオンにレイチェルは自分の勝利を確信する。本当であれば自分がマリアを追い払ってやろうと思っていたのだが……これは彼が自ずと彼女に大ダメージを与えそうだ。


 驚き固まる3人の目の前で何やら顔を寄せ合いこそこそと話す様は仲睦まじい夫婦にしか見えない。なんならイチャイチャしているように見える。


 美男美女だから見ているこちらが惚れ惚れしてしまうような美しい光景――。


 ミシリ……とマリアの手元の扇子が鳴ったのに気づいたものは残念ながらいなかった。


「妻とは仲良くなれそうか?アリッサ、バネッサ」


 レイチェルの手を取り席に座らせた後、侍女たちが早急にレイチェルとマリアの間に用意した椅子に腰掛けるレオン。


「ふふ、とっても美しい奥様だわ。私美しいもの大好き」


「そうだったな」


 柔らかく微笑みながら返答するバネッサ。レオンはちらりとアリッサにも視線を向けるが彼女からの返答はない。アリッサのレイチェルへの敵意を感じだレオンはレイチェルの様子を伺うが全く気にした様子はなさそうで安堵する。


 一人声もかけられず視線も向けられなかったマリアが膝の上に置いていた手をスカートと共にぎゅっと握る。彼女の目にうるうると涙が浮かんできたのを見たアリッサが眦を上げ吠える。


「レオン!」


「なんだ?」


「マリアがかわいそうよ!」


 庭全体に響き渡るような大声。しんと静まり返るその場に叫びがこだまする。


「意味がわからない」


「だって「ちょ……!」マリアとあなたは両思いでしょ!?」


 興奮したアリッサを止めようとマリアは声を上げるがそんなもの耳に入るわけがない彼女は最後まで言い切った。


「違うが」


「なんでよ!?」


 なんでよ!?レオンはわけがわからず首をひねる。なんでよとなんで言われるのかが全くわからない。


「幼い頃からマリアと親しかったでしょ!皆でよく一緒に遊んだじゃない!」


「一緒に……?」


 確かに母親に連れられた彼女は皇女たちとは遊んでいた……気がする。ママゴトとか女の子らしい遊びが好きな皇女と遊ぶのが嫌で自分は彼女達以上に頻繁に屋敷に遊びに来ていたブルックを連れ部屋に戻っていたからあまり覚えがない。


 なんで彼女が皇女たちと?と思わなくもなかったがマリアの母の友人がいない可哀想な子なんです、仲良くしてくださいという言葉にアリッサが目を輝かせていたような……気がする。


 はっきり言おう。


 会話がなさ過ぎて近くに立っている侍女と同レベルの認識だ。もはや侍女たちの方が近しい存在だ。


「っ!?で、でででででもあなたマリアに優しかったじゃない?ほらっ!よく本を貸してあげたりとか!私たちには貸してくれなかったのに!」


「本……?」


 本?本?本…………?


 ああ、あれか。


 ブルックが彼女に惚れたけど共通の話題がないというので二人に同じ本を貸した。そのおかげで彼らは仲良くなったようだったが。


 ちなみに皇女達には本を貸さなかったのではなく、貸す必要がなかっただけ。なぜなら彼女達は皇女だから。借りずとも王宮には膨大な本があり、なければ買ってもらえるから。


「そ、そうなの?」


 こくりと頷くレオンに焦るアリッサ。隣ではレイチェルが優雅にフルーツタルトを食べている。その余裕さに彼女に一泡吹かせたくなる。


「で、でもほらやっぱり例え仲良くなくても幼馴染ってお互いのことをよく知っているし自ずと惹かれ合うものじゃない?」


「じゃあ君はブルックに惚れているんだな?」


「んなわけないでしょ!」


「であれば幼馴染だからといって惹かれ合うものではないな」


「!?」


 にこりともせず淡々と事実を述べ、呑気に紅茶に口づけるレオンにアリッサは言葉が出てこなかった。


 



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