26.丸投げ
アマンダの話を聞き終え部屋に戻ったレイチェルは夕食を食べ終え、湯浴みも済まし、ベッドでごろごろしながらリリアとまったり雑談をしていた。
「奥様、マリア様のことはさておきお茶会はどうされるんですか?」
は、と思い出したようにリリアがレイチェルに詰め寄る。今はマリアのことなど構っている場合ではない。あと一週間と迫る王女とのお茶会。
「ん?あなた達が用意してくれたじゃない」
ちらりとレイチェルが見る先にはテーブルがあり、その上に綺麗に揃えられた紙が何十枚と置かれている。リリアが手配した季節の花や使用する食器についてなどの説明がずらずらぁっと書かれている。
「いえ、あの……肝心の茶葉と茶菓子はどうなさるおつもりなのでしょうか?」
この2つはレイチェルがある人物に頼むというので任せていたのだが、どうなったのだろうか。もし手配できていないとしたら早急にどうにかしなければならない。
「あー……あと1週間か。ごめん確認し忘れてたわ」
そう言うとギシリとベッドから降り、側にあった羽織を手に取り寝間着の上に着るとスタスタと扉に向かって歩いていく。
「奥様!?どちらへ!?」
その言葉にリリアの方を振り返ったレイチェルは答えることなくニタァと笑った。その笑みに薄ら寒さを感じたのは気のせいだろうか。
目的地についたレイチェルは一人ニコニコと笑う。
目の前の光景に頭を抱えたそうなリリアも、お前はなんだ的なオーラを放つ麗しの旦那様も気にせず目的の人物に近づく。
「リチャード食事中にごめんなさい。でもいつも忙しそうだし食事中にちゃちゃっと済ませた方が無駄がないかと思って」
「い、いえ……」
そう言い慌てて立ち上がろうとするリチャードを手で制し、レオンの隣の席に座るレイチェル。彼等が今いるのは食堂だ。レイチェルが共に食事をしていたレオンとリチャードの元に乱入したのだ。
「お茶会のお茶と茶菓子はどうなったかなと思って」
「それでしたら手配完了致しました。明日ご報告に行こうと思っていたのです。今日伺えば宜しかったですね」
気が利かずすみませんとふわりと微笑むリチャードから漂うほんわかした空気。
やはり彼に頼んで正解だった。レイチェルは内心ほくそ笑む。
「なんだリチャードに手配を頼んだのか?そういったことは侍女たちの方が詳しいんじゃないのか?」
そう言うとレオンは手に持っていたフォークを口元に運びステーキを口に入れた。もぐもぐとステーキを噛むレオンにチッチッチッと人さし指を左右に振る。
「こういうのは女遊びが激しい人に頼むのが一番なのよ。ね?リチャード」
ぶほっ!
水を飲んでいたリチャードはむせて口から零れ出そうになるのをなんとか堪える。
「な、な、なななな……奥様今なんと?」
「色々な女の人から情報が入るし。やっぱり女好き且つモテる人はマメなのよ?女の子が好きそうなものとかちゃあんとリサーチしてるんだから」
「なるほど、それはそうかもしれないな」
目の前で交わされる自分の女遊びが激しい前提で進められる夫婦の話題にリチャードは口をワナワナと震わせる。
「奥様!誰が私のことを女遊びが激しいと……!」
その言葉にちらりとレイチェルは部屋の中にいたリリアと料理長を無言で見る。きっとリチャードに睨み付けられた二人はすーっと視線を逸らす。
「と、とにかく明日資料はお持ちいたしますので!」
「ありがとう!よろしくね」
ふわりと微笑まれれば見惚れそうになる美しい笑顔。いかんいかん。目の前の美女は自分が仕えるべき主人の奥様である。
「その他のことは全て準備できたのか?」
レオンが話しかけたことでレイチェルの視線が彼に向かう。ほっとするリチャードだったが、軽くレオンに睨まれた気がする。
「うん。皆が頑張ってくれたの」
「全部丸投げか?」
「うん。いけない?」
喧嘩なら買うぞ?と挑発的な色っぽい目に内心のデレデレが止まらないレオン。だがバレないように平静を装う。
「いいや。皇女の好みを熟知している侍女、女性の流行り好みを熟知する執事が選んだものに間違いはない。君は最善の手を打った。君は…………とても賢い女性だ」
貴族は面子を大事にする生き物だ。誰が選んだ?真心?そんなものより何を出してもらえたかが重要なのだ。出されたもので自分がどのように思われているか測る、それが貴族というものだ。
「ど、どうもありがとう?」
え?今褒められた?上からの物言いだけど褒められたよね
?え?なんか…………背中がゾワゾワするんですけど。よ、用は済んだし、撤退しよう。
「じゃ、じゃあそういうことで。リチャードよろしく」
立ち上がろうとするリチャードを制し、いそいそと食堂を出ようとするレイチェル。
「レイチェル」
そんな彼女を飛びとめる声にレイチェルはビクリと身体を震わせゆっくりと振り返ると声の主に視線を向ける。バチリと合う視線、見つめ合う二人に使用人達はドッキドキだった。
呼び止めたレオンは何の用かと視線で問いかけてくるその美しい瞳に焦る。思わず彼女の名を口にしていただけで用事などないのだから。
何かと思うものの結局出てこず、情けないと心の中で笑う。
「…………おやすみ」
「おやすみなさい…………仕事狂いさんがちゃんと寝るかは知らないけど」
くるりと背を向け去っていくレイチェルとそれに付き従うリリア。今まで誰かに付き添われる生活をしていなかったはずなのにその姿はとても様になっていてレオンはくすりと笑った。




