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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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25/34

25.懐柔

「なんか急にごめんなさい」


「何をおっしゃいますか奥様。奥様からのご用以上に大切なことはございません」


 汗をかきながら謝るレイチェルに微笑むアマンダ。む……とてもありがたい言葉。


 だが……


 アマンダの前にずらりと並ぶメイドたちに申し訳ない。ちらちらと彼女たちを見ているとアマンダは仕事に戻るように告げ彼女達は去っていく。


「お見苦しいところをお見せいたしました。最近メイドたちの仕事が杜撰なものでして注意しておりました」


 なるほど。リリアが詳しいことは母のアマンダに聞きに行きましょうと言うので侍女長室に向かったところ部屋の前にずらりとメイドが並んでいた。進むも戻るもできず焦ってしまった。


「お呼び頂きましたら参りましたのに……。何か急用でしょうか?」


 珍しいですねと柔らかく微笑むアマンダ。とりあえず場所を変えようと侍女長室に移動する。ソファを勧められ腰掛ける時にさり気なく部屋を見回す。


 落ち着いた色合いのものが多く、ゆったりと落ち着いた空間といった感じだ。


 遠慮するアマンダを無理矢理目の前に座らせ共に彼女が用意した紅茶に口をつける。お供としてついてきたリリアは当然のようにレイチェルの隣に座ったので思いっきりアマンダに睨まれる。


 お説教タイムとなりそうだったので慌ててマリアの母について聞きたいと声を上げればアマンダは目をパチクリとさせた後口を開いた。


「ああ、マリア様の母君は追い出されたのです」


「追い出された?嫁いで行ったんでしょ?」


「そうですね……正確には追い出すことができなかったので、大奥様は彼女が満足する相手を見繕い嫁がせたのです」


 首を傾げるレイチェルにアマンダは微笑む。


 マリアの母は公爵邸でメイドとして働いていた。物静かで真面目に働く彼女はその後侍女となったのだがその時から徐々に本性を現し始めた。


「具体的に言いますと下級使用人たちを利用しのし上がろうとしたのです」


「へー、それはダメなことなの?」


 ありがちなことだと思うのだが……。


「もちろんダメなことではございません。まして彼女が行ったのは下級使用人たちの環境改善でしたので」


 彼女は彼等のお給金を侍女や執事といった上級使用人と同じにするよう、そして残業をなしにするよう大奥様に訴えた。


「ふーん……」


 悪いことのようには感じないが、貴族の使用人事情はよくわからない。


「ですがそれはやる必要があれば良いこととなりますが、必要ないことであれば時間の無駄であり迷惑な行為となるのです」


 侍女とメイドが同じ給金なんて有り得ないこと。それにハーデス公爵家は帝国一の金持ちと言われるだけあって、非常にお給金が高い。メイドだってちょっとお金持ちの貴族家の侍女と同等レベルの額をもらっている。


「ハーデス公爵家太っ腹!」


 驚きのあまり大声を上げてしまったレイチェルに激しく同意だとアマンダは深く頷く。


 しかも残業に関してはたまに遅くに大切な来客があるときくらいでほぼ無いに等しいくらいだった。侍女や執事はほぼ毎日残業……というよりも定時?それは何?だったが。


 主人が忙しければそれに付き合うのが執事や侍女の務めである。


 彼女の訴えは大奥様から意見を聞かれた当時の侍女長の『至高を過剰にする必要はないです』の一声により却下された。


「やり過ぎは良くないよねぇ。必要以上に与えると調子に乗っちゃうから厄介だし」


「流石奥様よくおわかりになっておられます」


 うんうんと頷くアマンダだったが、ですが……と続ける。


「下級使用人たちが乗ってしまったわけです」


 当時マリアの母は真面目な働き、下級使用人たちからの評判の良さにより大奥様のお気に入りとなっていた。その彼女が使用人は皆平等、上級使用人たちは態度がでかすぎる。もっとあなたたちは敬意をもって扱われるべきなどと言うものだから態度が大きくなる下級使用人たちが増えたのだ。


 ふーん……上級使用人vs下級使用人になったわけか。


 ………………うぉっ!


 アマンダの頭に角が!口元には牙が!


「屋敷の異常な雰囲気を感じ取った大奥様は彼女を屋敷から出すことに決めました」


 が、下級使用人を優遇しようとしたからといって追い出しては暴動が起きかねない程に彼らは彼女に心酔していた。


「ですから結婚という形で屋敷を出したのですが……」


「ですが?」


 え?何?続きがあるの?


「嫁ぐ日、皆の前でやはり奥様の側にいたいと騒いだのです」


「ああ、なるほど」


 読めてきた。それを宥めるためにいつでもいらっしゃいとなったというわけか。


 他家の奥方となった後、彼女は公爵邸に定期的に足を運び大奥様から子のマリアもいつでも来ていいという言葉を勝ち取った。


「私事ですがあの女を思い起こさせるマリア様のことはあまり……」


「だろうね」


 彼女はこの屋敷に来るたび下級使用人に近寄り自分は味方だと吹き込んでいるらしい。彼らに媚を売り、この家で地盤を固めようとでもしているのだろう。馬鹿馬鹿しい策ではあるが弱者に優しくするものというのは良い印象が抱かれやすい。


「だから皇女様やブルック様から相応しいみたいに見られているわけね」


「左様です。その……皆様正義感が強い方たちと言いますか……。弱い者は守るべきというお考えをお持ちですので」


「なぁるほどぉ」


 好いた男を手に入れようと策を弄する者は嫌いではない。嫌いではないが……


「目障りではあるよねぇ……」


 勝手に家を出入りされるのも良い気分ではない。


 となればやはり


「いなくなっていただこうかしらねぇ」



 薄っすらと何かを企むようにほくそ笑むレイチェルは危うげで非常に美しかった。









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