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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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23/33

23.皇女襲来

 懐かしそうに、けれど寂しそうな顔をする皇后に言葉が出てこないレイチェル。


「あなたとも昔会ったことがあるのよ?赤ちゃんのころキャサリンがあなたを店に連れてきてね。こんな光り輝く美貌を持つ赤子なんて見たことないでしょう?と自慢していたわ」


 ドッとレイチェルの額から汗が噴き出す。


 母は何をしているのか。


「ふふ、そんな顔をしないで。きっとキャサリンがいなければ私の心は壊れていたわ。だから彼女にはとても感謝しているの。嫁というわけではないけれど、第二の母と思って頼ってちょうだい」


「きょ、恐縮です」


 皇后はおろおろと視線を彷徨わせるレイチェルをじっと見つめる。


「これから色々な困難があなたを待ち受けるはず」


 自分だってゲランにたまに行くだけだったのに周囲からの視線は厳しいものだった。それがそこの出身となればどれほどの蔑みが彼女に与えられるかわかったものではない。


「私はあなたの味方ですからね」


 そう言って皇后は本日一番の美しい微笑みを浮かべた。




 なんとか無事お茶会が終わったレイチェルは見た目は毅然と中身はふらふらと王宮の廊下を歩く。皇后付きの侍女さんがレオンが仕事をして待っているからと彼がいる執務室に案内してくれるらしいのでその後ろを歩く。


 なんとか無事終わった。


 挨拶の時の陛下の皇后の顔色を伺うような挙動不審な行動に不安を感じたものだがただ気まずかっただけのよう。


 皇后と母の意外な関係のおかげで皇后とは良好な関係でいられそうだしとりあえずは一安心といって良いはず。貴族の世界に飛び込むことになったのは母のせいだが母のおかげでラスボスと敵対することは避けられた。


 したくないけど感謝である。


 


 それにしても王宮とはこんなに広いのにどこもかしこもピカピカだ。ゲランはポイ捨て当たり前、店は割と綺麗なところが多いが、あらあんなところに埃がなんていうのは珍しくない。


 つくづくここは自分の生きてきた世界とは別の世界だ。





 ――――――――本当に想像もつかない世界。


 だって目の前に二人の皇女様が現れたから。


 次から次へと何なのだろうか。ラスボスの次は中ボスってか?普通下っ端から順々に現れるものじゃないのか。なんでこう次から次へと大物が……。


 そう思いながらもスカートを摘み頭を下げる。


 下を向いた視界に靴がカツンと入る。頭を上げるよう言われたので頭を上げる。そこにいたのは皇后様によく似た同じ2つの顔。


 アリッサとバネッサ、双子の皇女様だ。


 父親譲りの黒髪に母親譲りの銀色の瞳。同じ顔だが纏う雰囲気が異なるので2人を見間違えるものはいないだろう。アリッサは明るく溌剌としており、バネッサは静かで穏やか。太陽と月みたいな2人。


 確か2人共今は侯爵家に嫁いでいたはず。なのになぜ王宮に?たまたま?


「あなたがレイチェル?」


 ははは、たまたまなわけがない。問題は何の用かということだ。


「レイチェルにございます。アリッサ様バネッサ様ご機嫌麗しゅう」


 アリッサからの問いに美しい笑みを添えて素直に答える。


「噂通りの……いえ想像以上に美しいお顔ね」

 

「それだけの美貌ならどんな男でもイチコロでしょうね」


 バネッサからのおっとりとした声かけに恐縮でございますと口を開こうとしたレイチェルはアリッサの言葉に閉口する。


「彼にはマリアという可愛い幼馴染がいるの。当然私たちとも幼馴染なのだけれど。愛し合う2人を引き裂いた気分はどう?」


 用件はそれか。


 ブルックといい皇女といい、レオン自身が選択した人生になぜこうも口出しをしようとするのだろうか。レイチェルは口元が引き攣りそうになるのを堪える。


「婚姻には様々な意味がございます」


 レイチェルの言葉に首を傾げる2人。いきなりジャブをかましてきたからヤバイヤツかと思ったがちゃんと話を聞く系のようだ。


 流石あの皇后様の娘たち。


「家と家を結びつける結婚


 恋に狂った結婚


 お金の為の結婚


 血筋を保つ結婚


 そして血を貶める為の結婚」


 最後にピクリと二人の頬が動く。


「貴族の世界においてどれが一番多く、少ないのでしょうか?崇高なる利害関係を持たぬ結婚だけが許されるのであれば世の中の婚姻はほとんど許されぬものばかりにございますね?王女様たちの結婚はいかがでございますか?」


「愛はとても大切よ!愛なき結婚なんて悲劇を生むだけ!勿論私は好きな方と……っ!?」


 カッとなったアリッサが捲し立てていた言葉を止め、気まずそうにバネッサを伺い見る。


「アリッサ大丈夫よ」


 そう言ってバネッサは彼女の手を取ると暖かく包み込む。よくわからないが二人には二人の事情があるよう。


「あなたが言うことは尤もだわ。恋愛結婚なんて珍しいくらいよ。でも」


 バネッサの指が優しくアリッサの手を撫でる。優しい手つきとは裏腹にレイチェルに向けられた眼差しは微笑んでいるのに妙な貫禄があり気圧される。


 これぞ上に立つもの気迫とでも言おうか。


「恋愛結婚ができる立場であるならば……それが許されるのであれば手助けしてやりたい、叶えてやりたい。友人にそう思うのは当然のことでしょう?」


「御尤もです。ですが……「わかっているわ!」」


「レオンの事情はわかっているわ!でも私たちでなんとかできる問題のはずよ!だって私達は弟と仲良しだもの!あの子は私達の言うことを聞いてくれるわ!公爵家を潰させたりしないんだから!」


 アリッサが熱く叫ぶ。自分の力を信じ弟を信じる皇女。


 いやぁなんて甘ちゃんなんでしょうか。


 私はそうは思いません。


 あなたたちが自意識過剰なだけです。


 夢見る夢子ちゃんなだけです。


 喉元まで出かかる言葉をごくりと飲み込む。


「なんともできません」


 飲み込めていなかった。


 出てしまったものは仕方ない。息を吸い込みしっかりと吐き出す。


「気持ちや言葉だけではどうにもならない問題もあるのです。行動しなければ変えられぬものだったのです。人の心を気持ちや言葉だけで変えようなどというのは傲慢です」


「「…………」」


 二人の顔が僅かに赤くなる。言い返してくるかと思ったのに言い返してこなかったことにレイチェルは驚く。


「んんっ!ま、まあこんなところでいつまでも立ち話をしているのもあれよね」  


 どれよ。


「皇女たる私たちと公爵の妻となったあなたはもっと交流するべきよ」


 あ、なんか嫌な予感がする。


 だってこれが彼女たちの目的だと察したから。先程までの動揺はどこへやらしっかりと自分を見つめる4つの黒い瞳に背中がゾワゾワする。


「最近レオンの顔も見ていないし、公爵邸にお邪魔するわ」


「1カ月後の13時頃に伺うわ」


 なんと。


「夫に聞いてみませんと……」


「大丈夫よ!先程聞いてきたから」


「ではそういうことで」


 いやいやどういうことだ。


 呆然とするレイチェルを置き去りに皇女二人は扇子をパタパタさせながら去って行った。






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