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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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14.追い詰める

 暫くするとバタバタと廊下を走る音が聞こえ扉がバタンと開き数人が部屋に駆け込んできた。入室してきたのは料理長とマヤと仲の良いメイド数人だ。


「料理長!あの女の食事を何度も作り直したわよね!?」


 レオンの許可も得ずにいきなり大声を出しながら料理長に詰め寄るムーリャに部屋の中は不穏な空気が漂うが彼女は気づかない。料理長はおろおろと視線を彷徨わせた後、困ったようにレオンを見る。


 レオンが軽く頷いたのを見てほっとした様子の料理長は口を開く。


「確かに何度か作り直したことはあります。ですが……料理の中に虫やら毒草やら毒花やらが入っていれば当然のことかと」


「は?」  


 料理長の言葉にムーリャは目を見開く。


「ほお。誰かが彼女の食事にそんなものを入れたということか?」


「はい。誓って私ではございませんが……。この件は私も怒りを覚えております。奥様の食事に手を出すのは勿論のこと……人が作った料理にこのようなことをするのは許されざる行いです」


 ギロリと料理長に睨まれ、ムーリャは一歩後退る。なんでバレて……?料理の作り直しはあの女のわがままでと伝えたはず。彼に料理を渡すときには料理からちゃんと取り除いたしバレるはずがないのに。


 でもこのままでは……


 きっ、と料理長を睨み返す。 


「あ、あなたが入れたんじゃないの!?わ、わわわわわ私は人の料理に手なんか出さないわよ!人のせいにしないでちょうだい!」


 料理長の目が何を言っているんだとぎょっと見開かれる。そうだ。作ったのは料理長なんだから彼のせいにしてしまえばいいのだ。


「リリアー」


「はい」


「?」


 睨み合う2人を黙って見ていたレイチェルが面倒そうにリリアの名を呼ぶ。何事かとレオンは首を捻るがリリアに視線で先を促す。


「それでは……まず料理の中に不快なものが入れられていたのは事実です。中の方にありましたが奥様がフォークでかき分けた時に入っているのを食堂にいた使用人たちも見ております」


「そ、そそそそそうでした?私は気づきませんでしたけどっ!料理長!バレないように隠して入れたんですね!酷いっ!」


 動揺のあまり汗だくになっていくムーリャ。目は血走り唾を飛ばす姿には鬼気迫るものがあるが人に罪を押しつけようとする姿は醜い限りである。


「料理に不快なものを入れたのはムーリャです。私含め複数人の使用人で何度も影からこっそり見ておりましたから間違いございません」


 レイチェルの指示で影から彼女の行動を証人とする為幾人もの使用人たちと見ていたリリア。ムーリャの言葉を聞いているのかと疑う程淡々とリリアは自分の目にしたことをありのままに告げる。


「い、言いがかりです!私は貴族ですよ!?む、虫を触ることなどできません!それに……私はそんな卑怯で汚い真似は致しません!」


 悲劇のヒロインかと思う程涙を浮かべ胸に手を置き声を張り上げるムーリャ。


「自分で卑怯とか汚い真似とか言っちゃったよ」


 レイチェルの決して大きくない呟きが室内に響く。周囲から向けられる侮蔑の視線にムーリャは冷や汗が止まらない。


「だからやってないって言ってるでしょ!公爵様皆で私を陥れようとしているのです!私を信じてください!」


 その場に膝をつき両手を胸の前で組みうるうるとした目でレオンを見上げるムーリャ。


 おかしい。皆だってあの女が嫌いなはずで、ゲランの人間なんて公爵夫人として認めていないはず。だから何かを見ていたって自分の味方をしてくれると思っていたのに。


 こんなのはおかしい。

 

「信じてください公爵様あ!」


 叫ぶムーリャをレオンは冷たい目で見据える。その瞳の冷たさに彼女は言葉を失いその場に座り込む。




 終わったとばかりにムーリャから視線を逸らしたリリア。その目は次のターゲットであるマヤにぐるんと向いた。思わず後退りしそうになるのをなんとか堪え身構えるマヤ。


「マヤの発言については仕事中に無駄口、レイチェル様を侮辱するような発言をしていたところにレイチェル様が真っ直ぐ歩いていった結果ぶつかっただけです」


「公爵様お聞きになりましたか!?ほら!あの女がぶつかってきたのです!」


 目を輝かせるマヤ。


「えーでも公爵様が歩いてきたら避けるじゃん?私が歩いてきたら避けないといけないんじゃないの?」


「仰る通りでございます」


 レイチェルの言葉にリリアはこくりと頷いた。


「わ、私は避けました!それに私は事実を言っただけです!それの何が悪いのですか!?恨むなら奥様はご自分の出自を恨むべきです!」


 なんで?なんで皆そんな目で私を見るの?私が言ってることがおかしいみたいじゃないの。


 ちらと仲の良いメイド仲間に目をやれば青褪めてぶるぶると震えている。皆であの女が悪いことにしようと約束したというのに役立たずが! 


「た、確かにそのおん…お、奥様に少しだけ嫌な思いはさせたかもしれません!でもそれだけです!」


 ここは素直に認めよう。一日も共に過ごしたことのない妻に愛情も情もないだろう。軽い叱責で終わるはず。自分の方が公爵と共に過ごした時間は長いのだから――。


「あ、ちなみにマヤは奥様の私室に色々しちゃってくれました。おかげで片付けが大変でした」


「ああ、ベッドに小鳥の死骸が置かれてたり塗料がべったりとつけられてたよね~。あれは私への嫌がらせっていうか他の使用人への嫌がらせだよね。片付けるの私じゃないし」


 そう、リリア含め様々な使用人たちがどたどたと動き回り大変そうだった。レイチェルはどいていてくださいと言われたので揺り椅子にゆらゆらと揺られていただけ。


「そ、それは…………」


 マヤの目がキョロキョロと所在なさげに彷徨う。誰か、誰か……そして彼女がロックオンしたのは恋焦がれる公爵様だった。





 

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