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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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11/33

11.嫌がらせ

 場所は変わりハーデス公爵邸。


 時が過ぎるのは早いもので公爵のお嫁様となってから3週間程経った。


 あらあら今日はハズレね。


 ディナーの時間帯、食堂でフォークを持ったレイチェルの前にパンとスープとステーキが並んでいる。見た目も香りもとっても美味しそうだ。


 ぱっと見は、だが。


 サラダのレタスをフォークで一枚どかせばハエの死骸とこんにちは。


「このサラダ虫が入っているから変えて」


「……承知いたしました」


 ビビるでもなく我慢するでもなく淡々と対応するレイチェル。おもしろくないとばかりにむすりとしながら皿を下げるのは目尻の吊り上がった女性――メイドのムーリャだ。


 彼女がサラダを持って退室した後、スープに口をつける。


 美味しい。


 流石公爵家お抱えシェフ。相手が誰であろうとプライドを持って常に温かく美味しい料理を提供してくれる。


 だが今日のように3日に1度くらい虫やら毒花やらが料理に入っている。ムーリャが料理を運んでくる日のみ。レイチェルに対して憎悪を隠しもしない太々しい態度はいっそ清々しい。


 彼女は男爵家の娘らしい。公爵に見初められちゃったりなんかしてと夢見ちゃってたのにレオンが結婚。相手が娼婦の娘となれば腹立たしくもあるだろう。


 気持ちもわかるし交換した料理はちゃんとしたものが出てくるので全然苦にはならない。とはいうものの、この美味しい料理を捨てるのは忍びないのでもうそろそろやめてほしいところである。



 食事を終え、軽く散歩でもと思い階段を下りていると何やら複数人の話し声が聞こえてくる。

 

「ねぇ知ってる?あの女につけられた家庭教師最近誰も来ないじゃない?あまりにも頭が悪いから皆逃げたらしいわよ」


「知ってるわよー。ゲラン出身の人間だもの仕方ないわよ」


「公爵様も平民と結婚するにしてももっとお金持ちの女性や賢い女性にするべきよね。あなたみたいな!」


「え?私?やだあ」


 やだあと言いながら満更でも無い顔をするのは裕福な商家の娘であるマヤだ。顔もそれなりに整っており平民のメイドの中でボス的存在である。


 カツカツとヒールの音をさせて階段を降りているからレイチェルがいることはわかっているはず。だがその話は止まらない。いや、止める気がない。


「清らかな身とか言ってたけど、ゲランの人間がそんなわけないじゃないねぇ?」 


「本当汚れた身で公爵夫人になるなんて信じられないわ」


「身も心も汚い人間は恥がないのよ。自分がやっていることが恥ずべき行為だと理解していないのよぉ」


 階段を降りきったところでマヤとばちりと目が合う。


 彼女はにやりと口角を上げ挑発的な目で見据えてくる。かつんと近づいていけば頭を下げることもなく睨み付けてくる。マヤと話していたメイドたちはほんの少しおろおろと視線を彷徨わせているが頭を下げる様子はない。


 レイチェルは特に表情を変えず真っ直ぐ彼女たちに向かって歩く。ますます鋭くなるマヤから向けられる視線。


「なんです……痛っ!」


 あと一歩というところでマヤが声を上げるが気にせず足を動かせば思いっきりマヤにぶつかった。


「何するのよ!?」


「ちょっと気をつけなさいよ!」


「避けなさいよ!」


 歩み続ければ背後からそんな声がし、振り返る。


「へー……公爵邸では使用人のために主人が避けなきゃいけないんだ?」


「私たちの主人は公爵様だけよ!」


「ふ~ん。どう思おうと自由だけど、私が公爵夫人であることは事実でしょ?公爵夫人と使用人どちらが道を譲るべきかもわからないなんて……あったまわるーい」


「「「!?」」」


 怒りからか羞恥からかはわからないが口をパカパカと開くだけで何も言ってこないので振り返り再び足を進めることにした。




 部屋に戻ったレイチェルは盛大なため息を吐く。


「酷いことするねー。リリア埋めてあげて」


「承知いたしました」


 レイチェルとリリアの前には一人で寝るには広すぎるくらい大きいベッドがでんとあり、先程レイチェルの手によってぺろりとめくられた掛け布団の下から現れたのは血塗れの小鳥さんだ。


 静かに手を合わせるレイチェルの後ろでリリアも目を瞑り手を合わせる。目を開いたリリアはそっと小鳥をハンカチで包み部屋にいた他の侍女に手渡す。


「うーむ……嫌がらせをする為に動物を手に掛けるなんて性根が腐ってるねー。公爵家の使用人って仕事ができて公私混同致しません!私たちはプロですみたいな人ばっかりだと思ってたのになー」


 どかりと揺り椅子に腰掛けたレイチェル。ギシリと鳴る揺り椅子を一瞥した後リリアが布団の交換を始める。その手際の良い動きをぼーっと眺めるレイチェル。


 ほとんどの人は公爵家にふさわしくあれと努めている。だけど流石というべきなのか。イケメン金持ち公爵様は屋敷の人間にも非常におモテになる。


 そして恋とは人を醜くさせるもの。


 愛する男の妻の存在など、まして娼婦街の人間なんて排除の対象にしか見えないのか。使用人が仕えるべき人間にやってはならないことをやっちまうやつが数人。


 そしてそれを見て見ぬふりしてるやつは全員だ。


 自分の仕事はやるが余計な口出しはしないというものなのか。それともレイチェルがどうするのか見極めているのか。


「同じ使用人として恥ずべき行為であり概ねレイチェル様に同意致します。ですが使用人も人間ですので公私混同する者がいるのは致し方ないかと」


「嫌われてる私が悪いってことぉ?」


 リリアからは返事はなかった。無言は肯定というやつだ。レイチェルは、ははっと軽く笑う。


「無茶苦茶な理論だなー。娼婦の娘に生まれたのも公爵夫人になってるのも私の意思なんてないのに」


 公爵が決めたことなのにレイチェルを敵視するなんておかしなこと。その選択が気に食わないなら悪感情は公爵に向けるべきだと思う。


「運命だろうと意思だろうと関係ないのでしょう。あなた様が娼婦の娘で公爵の嫁になったということは事実です。そこに誰が誑かしただの身体を使っただの自分の都合の良いように考えているのですから」


 そう言うリリアの目には僅かに侮蔑の色が見え隠れしているように見える。それは彼女たちに向けられたものか、レイチェルに向けられたものなのか……。


「むー。気持ちはわからないでもないけどうざいし、やられっぱなしも性に合わないんだよね。変えられないこともあるけど変えられることは変えないとね……でリリア、公爵様はいつ帰ってくる?」


「1週間後です」


「ふーん……」


 何かを考えているのかレイチェルは揺り椅子の肘掛けにコツコツと爪を当てる。暫くするとニッと急に口角を上げた。


 その表情はいたずらっぽく愛嬌があり、とても美しい。


 顔は公爵夫人として100点満点花丸だ。


「じゃあリリアにお願いがあるんだけど――――」


 レイチェルの言葉を聞き終えたリリアは承知致しましたと深く頭を下げた。





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