10.一目惚れ?
~隣国の王宮~
貴賓として最上級の部屋を割り当てられたレオン。隣国に来て3週間となるが今夜も過剰なサービス接待とでもいうのか複数人の美女たちが部屋に押しかけてきた。ささっと追い払い扉の前に護衛を立たせしっかりと鍵を閉める。
温かいお茶を飲みながら寝る前に軽く読書をと思い本を開く。
「レオン様、奥様にお手紙の一つでも差し上げないのですか?」
専属執事のリチャードからかけられた声にレオンは読んでいた本から顔を上げる。彼はゲランにも付き従ったレオンの一番身近な執事である。
「手紙?」
「いきなり屋敷に連れてこられて放置だなんて奥様も心細いでしょうに……」
心細い?
ほんの少しの時間を共に過ごしただけだが、なんだか彼女が寂しがるイメージがわかない。どちらかというと夫がいなくて楽だ自由だというタイプに思えるのだが。
「レオン様が奥様を蔑ろにされると使用人たちも同じ行動をとるものです。今頃どんな目に遭われているかわかったものではありません」
お労しい……とわざとらしくハンカチを目元にあてるリチャードを軽く睨みつけるレオン。
「蔑ろになどしていない。この仕事は陛下の命により以前から決まっていたものだ。彼女と結婚をしたからわざと家を空けたわけではない」
む、と眉間に眉を寄せる。明らかに不機嫌な様子のレオンであるがリチャードは気にせず続ける。
「そうですけど……。であればお戻りになってからお迎えに行ってご結婚すればよろしかったのではないですか?」
「………………ぅ」
「え?」
ん?今なにか言ったよな。口がもごもごと動いていたし。観察するようにレオンを見れば耳元が赤く染まっているではないか。
「だ、だから……か、彼女に何かあったらいけないだろう?こ、公爵夫人になるのだから誘拐とか……。彼女に横恋慕する男に襲われたりとか……我が家が一番安全だ」
耳どころか顔まで茹でダコのように真っ赤にしたレオンをリチャードは口を開けたまま、頭の先からつまさきまでまじまじと見てしまう。
え?
え?
ええ?
「もしかして………………奥様に一目惚れとかなさったりなんかしちゃったりして……」
「一目惚れというのか、それに近いというか……結婚するなら彼女だと思ったんだ」
あんなに美しい女性を初めて見た。彼女が動く度にその一つ一つを見逃したくなくて。それに彼女の瞳と自らの瞳が合ったときにその気怠げな色っぽさの中に真っ直ぐな光が見え心が強く惹かれたのだ。
レイチェルを思い出しているのかぽけ―っと惚けているレオンを見てリチャードは叫びそうになる己の口を懸命に押さえた。
代々ハーデス公爵家で執事として仕えるリチャードの一族。レオンが生まれた頃より遊び相手として側にいた自分だがこんな彼は初めて見た。
いや、まあ締まりのない顔もイケてるのだが。
いやぁ、美形は得だなあ
……………………………とか思っている場合ではない。
「え、いや、じゃあ尚更手紙書きましょうよ!奥様喜びますよ!使用人たちにもレオン様が奥様を大切に思っていることを示さなければ!」
このままでは嫌な予感がする。
歴史ある公爵家に仕える使用人たちは一流だ。だが残念なことに全ての者が、ではない。頼まれたり、お付き合いで雇ったものの中に質の悪い使用人もいるのだ。
下卑た考えを持つ者も。
「だがなリチャード。大して知らない男から手紙をもらっても気味が悪いだろう?ほら、ストーカーみたいな」
「いやいやいやいや、レオン様は旦那様でしょう?夫が妻に手紙を出して何がおかしいんですか!?」
何を言っているのかこの男は。仕事になるとやらなくてもいいことまで気を回し成果を出してきたというのに。私生活のこととなるとこんなに及び腰とは。
「んんっ。正直に言おう。何を書いていいのかわからない。それに次に合ったときにこいつこんなこと書いてたなとか思われたら嫌だ。恥ずかしい」
「でしょうね!」
無駄にキリッとした顔でそんなことを吐露されても困る。
「屋敷に戻ったらちゃんとするから」
そんな子供みたいな……。今やれることをやりましょうよ!と言いたいところだが夫婦の問題に口を出すのは野暮というもの。
願わくば奥様に何も起きていませんように。
リチャードの願いもレオンのレイチェルへの想いも知らぬ愚者たちはとっくにやらかしていた。




