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学園の侵入者

グランドレイブ帝国。

その名前の由来は、領土の中心に巨大な山脈があることから成り立っている。グランドレイブ山脈。約3300メートルの標高を誇り、北東、南東、南西、北西と、4方向に山脈が連なっていて、雄大なその姿から国名とされてきた。

斜めに傾いた十字型の山々を中心部に添えた国土は、遥か上空から見れば、幾何学的な模様に見えることだろう。グランドレイブ山脈を中心として、東西、南北にそれぞれ約3000キロのひし形の領土になっており、山脈が隔てる4つの領土は、それぞれ帝国が爵位を与えた大貴族たちの領土となっている。


ひし形の中に4つのひし形。

ほぼ均等に等分された4つの領土は、環境的、文化的な差異が顕著に現れる。

東の大貴族、プラチナム家が治める東部領は、安定した気候から、比較的過ごしやすい環境にとどまっている。そのため人口が多く、多数の教育機関を抱え、学問の地方と呼ばれている。

南の大貴族、ミスリアル家が治める南部量は、暖かな気候と西武から流れてくる雨雲によって、緑豊かな穀倉地帯となっている。帝国全土の食料、一挙に賄えるほどの少量生産力誇り、帝国の食料ことも呼ばれる。

また、最南端の国境の向こう側には、広大な乾燥地帯が広がっており、砂漠を収める多数の小国との貿易も盛んである。

西の大貴族、オーネット家が治める西部領は、別名、騎士の国と呼ばれている。東部領とは違い、武を養成する騎士団学校や、兵器開発などを行う機関を多く保有し、帝国の軍部の象徴となっている。

最西端の国境の向こうには、氷海と呼ばれる、海が広がっており、気候は寒冷地となっている。

最後は、この国でもっとも過酷な環境でありながら、常に戦争と隣り合わせの地方。大貴族アダマンテ家が治める北部領だ。北から流れ込む冷たい空気によって、夏でも雪が降ることがあり、特に北半分は、年に1月ほどしかまともに夏が訪れない。

そして、帝国最北端の向こうには、魔群雪原がある。 人を食らう生物、通称魔獣が生息する広大な未開の地が広がっている。国境沿いには、北部戦線と呼ばれる絶対防衛線が、一年中敷かれ、アダマンテ領の騎士団は、日々休むことなく、魔獣たちとの防衛戦に明け暮れている。


4つの領を治める4家を、帝国の4大貴族と呼び、公爵位が与えられている。領内にもそれぞれ爵位を持つことが認められた地方貴族がいて、大貴族の裁量の元、領土が分けられている。地方貴族が治める領土を州と呼び、州公と呼ばれている。

州公たちは、帝国から爵位を授けられているものの、実際は大貴族の傘下の勢力だ。基本的な忠誠も大貴族に対して向いている。

州公は各領に4人。自治区域の分け方はそれぞれで異なるが、帝国が4分割されているのと同じように、東西南北で4つに分かれている。位は上から順に侯爵、伯爵、子爵、男爵の4人が存在する。


帝国は、これら4領16州を治める20の貴族たちによって収められているが、その序列は常に一つの信条によって変動することになる。それは、徹底的な実力主義。力あるものが上に立ち、その地位を得ることができる。そのため、貴族同士の政治的な抗争は日常的に行われている。下剋上も当然、各世代ごとに起きるのも珍しくはない。

そんな理念が横行しているせいか、帝国の貴族社会は、いささか腹黒さに満ち溢れている。この世界で生き残ろうと思ったら、手段を択ばず、情に流されず、常に最善の手を探し続けなければならない。一瞬でも隙を見せれば、その痛みを感じ間もなく、寝首を欠かれることになるからだ。


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ライラと共に、寮生活に必要な荷物を運びながら、エクレシアは大きなため息を吐いていた。

「使用人とはいえ、こんな隅っこの部屋だなんて」

私のために用意された寮の部屋は、元は物置だったという寮の最上階の隅っこの部屋だ。これで窓もなければ最悪の寮生活を送っていたところだが、小さな小窓と天窓が取り付けられており、換気と月明かりに困ることはないようだ。

置き家具は、タンスと机、寝台のみで、最低限といったところだろう。学園から支給された制服と、普段着をしまうには十分だが、新しい衣服を買い足す余裕はないかもしれない。寝台の寝具も、持ち込みで運んできたシーツだけでは、硬くて寝づらいろう。

「必要なものがあれば、ライラがいつでもお手伝いいたしますから」

「ありがとう、ライラ。でも、寮生活は生徒が自立して、自らを律する訓練でもあるのだから、しばらくライラの出番はないかもしれないわ」

「それは、…残念です」

ライラは、頬に手を当てて、残念そうに首を傾げた。

私には、一人暮らし経験はないけれど、寮生活にそこまで不安はない。それよりも、もっと大変なのは、人付き合いのほうだろう。


昨日は、エーデと共に学園散策に出ていた。

その日はまだ制服に袖を通していなかったから、エーデの使用人として回っていたけれど、こちらを見つめる幼子たちの目は、ずいぶん生意気そうな色をしていた。


エーデが案内してくれたのは、彼女が所属する中等部の校舎だ。中等部に所属する生徒の年齢は、飛び級でなければ、13~15歳の者たちとなる。

私は今年で17になるから、年齢で言えば私のほうが目上ということになるけれど、この学園、ひいてはこの帝国の貴族社会では、今の私は最底辺の身分だろう。


立ち居振る舞いを見ていれば、彼らが普通の、市井の子供たちとは違うことが見て取れる。もちろん全員がそうとは言わないけれど、ほとんどが自分にプライドを持ち、敵愾心をむき出しているのだ。

もっとも、その敵愾心は、私ではなくエーデに向けられていたものだ。

彼女がこの学園に入ったのは去年のことだから、この1年の間にいろいろとあったのだろう。


ローレンティス家の本拠は、アダマンテ領の南部州にある。

小さな街の、爵位を持たない、そして領地も持たない非凡な良家だ。ローレンティス家のような爵位を持たない家は、帝国の法に照らし合わせれば、正確には貴族ではない。便宜上、下級貴族と呼ばれているが、その実態は裕福な一般家庭と何ら変わらないのだ。


下級貴族たちの多くは、自分たちの利益を求めた商人や、地方貴族などに仕えている家が多い。ローレンティス家は前者に値し、先ほど言った、プライドが高くて敵愾心が強い家は、後者に含まれるだろう。

彼らは、自分たちがいずれ上位の地位を得ることを夢見ているのだ。なにせ、4領16州といわれるくらいだから、その名誉にあずかれるの僅か20家のみ。それに比べて、この国存在する下級貴族の数は、優に100を超えるといわれている。


実力主義を掲げている帝国で行われる抗争は、主に下級貴族たちの小競り合いのことなのだ。

だからエーデにも、敵対視する視線が向けられる。いつ、いかなる時も、自分の方が優れていると示そうとするのは、それが家の格に繋がるからだ。


ただの下級貴族たち、それも、子供の喧嘩のような争いだと思うだろうが、話は何も下級貴族だけの間で済む話ではない。この学園の頂点に立っているのは、高等部の生徒会や、クラブ活動という名の派閥を仕切っている上級生たちだ。その中には、地方貴族や大貴族の名を連ねる者たちもいるだろう。

彼らが学園で得た縁は、そのまま帝国内部の勢力図となる。あるいは、本物の下剋上が、この学園で繰り広げられることだってあるだろう。

この学園に限った話ではないが、貴族たちの次世代が集えば、そこは国の縮図といっても過言ではない。力さえあれば誰もが地位を得るチャンスがある帝国で、こうした争いは、たとえ幼子であっても目を背けることはできないのだ。


実際、エーデに成り上がりの気があるとは思っていないし、今のローレンティス家に爵位や格が必要なわけでもない。それらを気にする中等部の子らが、エーデにちょっかいを出すことはあっても、彼女から何かすることはないだろう。

とはいえ、そういう空気を読まないもの、出る杭はよく叩かれるものだ。私としては、妹の学園での生活が心配になるが、こればかりは私がどうこう言ったところで変わらない。

それに私も、高等部に編入するのだから、そういった争いに否が応でも巻き込まれてしまう。気を付けなければいけないのは私の方で、下手をすればローレンティス家を危険にさらすことになるだろう。

これから私は、ありとあらゆる敵意、品定め、侮蔑の視線を向けられることになるのだ。


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荷物の片づけを終えて、少しだけライラと談笑をしてから、寮の玄関口まで彼女を送ることにした。

「それではお嬢様、ご武運を祈っております」

「ふふっ、まるで戦に出る前の言葉みたいね」

「ええ。その通りでございます」

ライラは、幼いころから侍女として尽くしてくれているから、これから私が、何と向き合わなければならないのかを、わかってくれているのだろう。

「もう。そういうのはいいから、あとはよろしくね」

「ええ、いつでもお呼びだてください」

そう言って互いに手を振って別れを惜しんだ後、まだ少しだけ埃っぽい自室へと戻ってきた。小窓をしばらく開けっ放しにしておけば、この咽る空気もよくなっていることだろう。


窓の外の景色は、最上階なのこともあって、格別だった。

水車の街、ミラジェンド。北部領と東部領の間にある山脈の麓に栄えた水の街。山の湧き水が形成する河の力を借り、最大数十メートルもの巨大な水車塔などがいたるところに見える。滑車の力で穀物の製粉や揚水で上下に水を動かし、山脈の麓という狭い地域でも、大都市として繁栄しているのだ。上下水道も整備されていて、街のはずれには、巨大な湖まである。地上の大都市でありながら、清潔感にあふれているのだ。街中に水路が張り巡らされているほか、路の上に水路が張ってあったりで、まるで要塞のようだが、その景観のおかげで、観光地としても名が知れ渡っている。

(こんなところで幼少期を送れる子供たちは、幸せでしょうね……)

フルブライト学園は、一番下の初等部は6歳から通うことができる。実際は、8~10歳ぐらいから通い始めるそうだが、それでも恵まれた家系の出身だけが経験できる特別な教育機関であることは間違いないだろう。

「私も、生まれが違えば、ここの生徒たちのような人生があったのかしら?」

誰にいうでもなく、そう呟いていた。

夕暮れ時特有の冷たい風が吹き始め、私の紺色の御髪をさらっていく。明日からは忙しくなるから、今日は早めに寝て、備えておかないと。エーデのために、そして何より、私自身の理想のためにも…。


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学園寮の裏手。

そこには、学園で飼育管理している騎乗生物、馬や狼獣などが暮らしている厩と、それらを放牧するための牧地がある。その日の夜、厩ではとある噂話が広がっていた。

動物たちの飼育係は、学生のほかに専属の飼育員が雇われている。今日、担当していた者たちによれば、竜が現れたのだとか。

「竜なんて、こんなところにいるわけねぇだろうが!」

夜番の飼育員たちが集う小屋の中では、その話でもちきりだった。

「本当に見たんですよ!日が沈んでからで、真っ暗だったからどこのどいつだかはわかりませんけど。暗闇で光る真っ赤な瞳が、馬や狼獣たちよりもうんと高い位置にあったのを!」

「んで?その竜はどこに仕舞われたんだ?ん?」

「いやぁ、それは・・・」


見間違いだと諭すもの。ヤジを飛ばして酒を煽るもの。半信半疑で笑っているものもいれば、薄目で聞いているのかどうかすらわからない者もいる。

「とにかく、帝国の中心部で竜なんているわけねぇだろ。だいたい、竜って言ったっていろいろいるんだぞ?翼竜に、飛竜に、地竜だって。仮にここの厩舎に運ばれたんだとしたら、もっと騒ぎになってるはずだろうが」

「それは、そっすね・・・うーん」

休憩小屋では、議論が白熱していたが、彼らは何も知らないただの飼育員だ。


竜という生き物がどういうものかさえ知らないのだから、彼らにとってはどうでもいいことだろう。たとえ、彼らの近くに竜という存在がいたとして、人の目のつかないところでひっそりと隠れていたとしても、どうでもいいことなのだ。

グランドレイブ帝国とその周辺の地形図をそのうち挿絵で出せたらいいな。

文章だけで伝えるのはなかなか骨が折れるぜよ

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