3章 16
驚くことばかりで一瞬に感じたが、それなりに時間が経っていたようだ。
長居をしてアマーリエ様のお身体に触るといけないと、扉の外から侍医に退室を促された。
トネリ様もアマーリエ様もお二人で話したいことがあるのだろう。
名残惜しそうにされていたが、まずは治療し回復することが最優先だ。
私たちは、トネリ様に当てがわれている王宮の一室に集まる。
聞きたいことは山のようにあるが、いまは使者団の派遣構成について決めなくてはならない。
サミュエル様にも来ていただき、話し合いを進める。
トネリ様の正体を明かされたサミュエル様は分かりやすく動揺していた。
婚約者であることよりも、皇族であることを気にしているようだった。
王族の血筋とはいえ、王位継承権は無い等しいサミュエル様にとって、トネリ様のほうが格上の存在だ。
呼び方や話し方について戸惑っており、私たちもトネリ様から敬称を付けてで呼ばれるのは遠慮したいと申し出た。
トネリ様は意を汲んでくださった。
「サミュエルは予定り、使者団本隊と共に出発だろう。
テレーゼさんはどうされますか?」
「アマーリエ様と共に向かいたいのですが、先に皇国へ行き、アマーリエ様の生活を整えておくほう良いのではないかと。」
トネリ様とサミュエル様は深く頷く。
サミュエル様始め、使者団に高位貴族男性はいるが女性はいない。
生活を整えるために侍女たちと協力し、尽力はして下さるだろうが、貴族女性の目線も必要だろう。
「私はアマーリエ様が回復されてから発つ。
無理する必要もないので急がせたくはないが、あの御方は無茶をなさいそうだな。」
「その時は私達がお引き留めいたしますわ。
ドレスの打ち合わせや仮縫いなど、口実はいくつもございますもの。」
パウラ様の頼もしい言葉に、トネリ様は笑って答える。
そして、真面目な顔になり申し訳なさそうに問う。
「アヤメかソウビか、どちらかは残ってくれないか。」
アマーリエ様の教育係として、どちらかが残るべきだとの考えらしい。
二人とも残るかと思っていたので意外にも感じたが、私にとっては心強い。
もしかしたら、それを考慮してくださったのかもしれない。
間髪入れず、ソウビさんが一歩前に出る。
「わたくしが。」
「そうか、ソウビが残るか。」
「アヤメさんは国許に最短で戻らねば、お父君がお怒りになられます。」
ソウビさんがキッパリと返事をする。
なぜかとの疑問が顔に出ていたのだろうか、アヤメさんは困ったように眉を下げて微笑む。
「私もテレーゼさんのように、国外に行くことを反対されていたのです。
やはり国交のない未知の国に、子を遣わせるのは抵抗があったようで。
トネリ様に近侍し、使節団と共に帰るという約束で許されたのです。」
そう
我が国がヤズマ皇国を未知だ野蛮だと言っていたように
皇国から見た我が国も未知の国で野蛮な国なのだ。
我が国のように隣国への旅行さえ女性は行けないのだから、遠方の国へ行くことに対して反対するのも頷ける。
ふむ、顎に手をやりながらトネリ様も説明を加える。
「アヤメは、そうだな。
こちらでいう、バーナー公爵家のような地位の家なのだよ。
まあ、バーナー公爵家よりも歴史は古いがね。」
さらりと付け加えられた一言。
筆頭公爵家、我が国最高位の貴族。
それに匹敵し、なおかつ歴史が長いという。
前世の貴族や華族を思い浮かべる。
元をたどれば大抵は皇族や藤原氏に繋がり、その歴史は長い。
似たような状況だろうか。
王国の三人は驚いた顔をして、アヤメさんを見つめていた。
アヤメさんは謙遜し、小さく頭を振る。
「とはいえ、北の方、こちらで言う正妻ではなく側室の子ですから。
母は、私が幼い頃に亡くなっているのです。
父と正妻である義母は可愛がってくださり、様々な教育を受けましたが
私のことは宮仕えに出すか、地位を固めるために嫁がせることしか考えて居なかったのだと思います。
それが貴族社会では一般的ですから、反対されるのは仕方ないこと。
結果的には王国へ来ることが出来ましたので、両親の決断をありがたく思っております。」
たおやかに笑むアヤメさんは、自信に満ち輝いて見えた。
並ぶトネリ様とソウビさんも、どこか誇らしげに見える。
きっと二人も王国へ来ることを、周囲に反対されたのだろう。
自身を重ね合わせているのかもしれない。
そんなアヤメさんを、王国側の面々は称賛の目で見つめる。
もちろん、私もだ。
国内最上位の家から、国交の無い国に子ども、まして娘を向かわせるのがどれほど厳しいか。
説得もいかほどだっただろうか。
想像に難くない。
「では、我々は予定通り向かいます。
国内における護衛を増やし、隣国へも事前通達し協力を要請します。
自国内で他国の王族や使節団が狙われては名折れですから、警備体制を整えてくださるかと。」
隣国より先は我が国が協力を要請出来るほど親しい国は少ないが、皇国が近付けば皇国と親しい国がある。
中間地点が不安要素ではあるが、地理的に多方面から情報が集まり、発信されていく国々であるため、下手なことは起こらないだろう。
「トネリ様、ソウビさん、アマーリエ様をよろしくお願いいたします。」
「パウラ様、クラウディア様。ドレスを楽しみにしております。」
女性陣は抱擁を交わし、お互いの無事と健康を祈り合う。
ソウビさんには、また数ヵ月後にヤズマ皇国で会えるが、パウラ様とクラウディア様には一年間は会えない。
自ら決めた留学だが、二人のことを思うと寂しさがあった。




