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3章 17

家に戻ってからも一息つく間もなく、事情聴取や、改めての旅支度。

怒濤の勢いで三日が過ぎ、ついに正規の使者団と共に出発する。


 

賊は捕らえられたが、首謀者にはまだ辿り着けていない。

そのため国としては賊のことは公表せず、皇国と王国の使者が国交樹立とアマーリエ様のご婚約に関してヤズマ皇国へ向かい

アマーリエ様は準備が整い次第、皇国に向かう とだけ発表した。


事実を知らない国民たちは純粋に国交樹立と婚約を歓迎し

国民からの反発を気にしていた王国の貴族たちは胸をなでおろしたようだ。



今回は見送りの楽隊や国民たちもいて賑やかだ。


王国側からの依頼は何もしていないが、使者を歓迎するために作られた扇を国民各々が持ち喜びを示していた。

道中には露店も立ち並ぶ。 


 

パウラ様やクラウディア様も来てくださった。

お二人は、ヤズマ皇国の使者を迎える儀式用に仕立てた皇国風ドレスを身に纏っている。

皇国と王国との文化融合の証しとも言える扇をしきりに振り、私たちの旅立を応援してくれているようだ。


改めて祖国を跡にする寂しさもあるが、前回より警備も強固になり落ち着いて出国できる。

何事もなく皇国に着くことを祈るばかりだ。




アマーリエ様には、出発前にお会いした。

ベッドの背にクッションをいくつか置き、上半身を起こしていらっしゃった。

顔色は良くなっているようで、一安心だ。

ソウビさんだけではなくトネリ様もアマーリエ様の側に居たことに驚いたが、時間が許す限り共に過ごされているようだ。

 

「一緒に皇国へ行けないこと、本当に申し訳なく思っているわ。

 私からテレーゼさんをお誘いしたのに。

 早く治して皇国へ向かうから、待っていてちょうだいね。」

「私のことは構いませんから、御体を一番にお考えください。」


アマーリエ様は、心底残念そうに眉を下げる。


「使者団の日程を変えるわけにはいかないから、仕方ないこと。

 そう理解はしていても、もどかしさはあるわ。」


職人たちのなかには、店を閉めて着いてくる者、奉公先を辞した者、家を払った者たちもいる。

数日ならば使者団の派遣日をずらすこともできるが、数週間、数ヶ月となれば彼らの生活を保証しなくてはならないため、日程をずらすことは叶わいのだ。


「アマーリエ様は、日程を気にせずゆっくりと過ごされてくださいませ。

 ドレスの打ち合わせもございますし、なによりトネリ様と共にお過ごしになられるのですから。」


二人は視線を合わせると、アマーリエ様が頬を薄紅に染めながらはにかみ、トネリ様がアマーリエ様を慈しむように見つめる。

短期間に親しくなられていているようで、なによりだ。


トネリ様は私に向き直り威儀を正し、皇子然とする。

その雰囲気に、こちらも自然と背筋が延びる。


「何かあれば、アヤメだけでなく私の兄弟も頼ってください。

 少々個性的ですが、彼らは王国との国交樹立に賛同していますから、味方になってくれるかと。

 

 もちろん、父母も貴女方の力になってくれるはずです。

 なんせ、テレーゼさんはアマーリエ王女殿下の懐刀、皇国について深く知る機会が無いの見事に皇国の文化を取り入れ、新たな流行を作り出した才媛ですからね。


 皇国でも貴女の才能を遺憾なく発揮出来ることを願っています。」


口調は穏やかで丁寧だが、威厳があり、このお方は人の上に立つ方なのだと実感する。

私はトネリ様に対し、カーテシーで応える。

 

「ありがとうございます、トネリ様。

 才媛だなんて恐れ多いお言葉ですが、ご期待に添えるよう尽力いたします。」

「私たちが向かうまでに、なにか両国の文化が融合した新しいものを作っておくれ。

 楽しみにしている。」


態度を崩し気さくに笑うトネリ様だが、私は笑えない。

そのような難問、到底解決出来るとは思えない。

ヤズマ皇国に着くまでの二ヶ月で、前世の記憶を鮮明に思い出せたら良いのに。

それとも皇国で色々見聞すれば、思い出せるのだろうか?










「どうかなさいましたか?」


アヤメさんの問いかけに、回想から我に帰る。

静かに遠くを見つめる私を見て、馬車酔いしたのだろうかと気にして下さったようだ。


柔らかく微笑み、首を横に振る。

 

「皇国の生活が楽しみです。

 道中、色々教えてくださいね。」


貴族の子女が皇国へ留学など受け入れられない中、国王陛下にも両親にも認めてもらい、こうして送り出して貰うことが出来た。

帰国後の身の振り方は決まっていないが、家の駒にはなるまいと心に誓う。

婚約者のことは先送りしただけで完全解決とはいかないが、少なくとも自分の意志は表明出来た。



私は、私が納得出来る人生を歩んでいきたい。

皇国でそれが見つかりますように。


 

沈みゆく黄金の夕日を眺めながら、そう願った。


ヤズマ皇国編へ続く

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