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3章 13

公爵ら高位貴族と王族との話し合いの結果、

アマーリエ様は先発隊と共に出立することになった。



アマーリエ様、アヤメさん、私で1台の馬車に乗る。

トネリ様、ソウビさん、高齢の使者の方々も別の馬車だ。

徒歩や馬で付き従う使者と護衛たちもいる。


いずれも簡素な服装で、高位のものがいるとは気が付きにくい。


サミュエル様は、使者団の本隊として後からいらっしゃる。

盛大に見送れないことをアマーリエ様に何度も詫びていたが、一笑に付されていた。




国内の景色を惜しみたいところだが、念のためにカーテンが閉められている。

それを残念に思いながらも、三人で楽しく談笑をしてた。

護衛たちも時々周囲の状況を伝えてくれるため、安心して道を進んでいた。



国境を越えた瞬間、馬が嘶き馬車が大きく揺れる。

護衛の声が響く。 


「敵襲! 馬車の中から出ないでください!

 カーテンも開けないでください!」


剣のぶつかり合う金属音が響き渡る。

前の馬車の戸が開き、荒々しく閉じる音がする。

カーテンの閉まった馬車からは外が見えず、想像するしかない。


「「「トネリ様!」」」


驚きをはらんだ叫び声。

トネリ様が馬車から降りたらしい。


「護衛は馬車を守れ。

 

 我々を使節団と知っての狼藉だな。

 覚悟せよ。」


トネリ様の低い声が響く。

喧騒はさらに激しくなる。

つんざくような馬の悲鳴、負傷した者の呻き声、人が倒れる音に震えが止まらない。


アヤメさんと身を寄せ合う。


アマーリエ様がぎゅっと拳を握りしめ、私達を見据える。


「私は行くわ。」


「だめです、危険すぎます。」 「なりません。」


二人で必死に止めようとするが、アマーリエ様は首を横に振る。


「いいのよ。それが王女の勤め。

 私の身柄を拘束すれば気が済むでしょう。

 愛国心溢れる方々の交渉材料だもの、酷い目には合わないはずよ。


 テレーゼさん、貴女はアヤメさんを守りなさい。

 大切な使者が傷ついたら、外交問題になるのは分かるわね?

 

 いいわね。これは王女としての命令です。

 必ず守り抜きなさい。」


覚悟を決めた表情は、勇ましく美しい。

私は頷き、アヤメさんは悲しそうな顔をする。

外へ出ていくアマーリエ様のご無事を祈りながら、耳をそばだてる。




「アマーリエ様!?」 「王女殿下!危険です!」 「お戻りください。」

「なぜ! 王女殿下がいるのだ!?」 


外からは、敵味方両陣から大きなどよめきが聞こえる。


「傷をつけずに捕らえよ。万一傷をつけたら報酬がなくなるぞ。」


賊のリーダー格の男が大声で叫ぶ。

それに対抗するかのように、アマーリエ様は毅然とした声が響く。


「そなたら、雇い主は我が国の者か。

 それとも隣国の者か。」


「はっ、知れたこと。」


「ここは我が国では無い。

 もし隣国の者だというのならば、捕らえたのち隣国に引き渡さなければならない。

 それがなにを意味するか、お分かりですね。」


アマーリエ様も私達も、この賊は反対派の息がかかった者だと踏んでいる。

わずかながら、王国がヤズマ皇国と連携することを危惧した隣国の差し金の可能性はあるが

隣国での宿泊先や、さらに隣接する国へ抜ける際など、より成功しやすい方法があるのだ。



もし実行犯が王国の者ならば。

王国では支持した貴族が庇い立てたり、投獄されても期間や生活の融通を効かせることができる。

しかし隣国に引き渡されてしまうと、誰も庇わない。

隣国の犯行と見せかけ罪を擦り付けようとした、と王国で裁かれるよりも思い罪になりかねない。


実行犯が隣国の者ならば。

王国に連れ帰れば、反対派の貴族はそしらぬふりをして彼らを切り捨てる。

隣国に引き渡せば、王国の王族を狙ったとして外交問題になるのを避けるために断罪されるだろう。


彼らに、それを考えるだけの知恵があれば、王国に連行されることを選ぶはずだ。

投降してくれますように、と馬車の中でアマーリエ様の無事を願う。



しかし賊にはそのようなことは関係ない。

考えるだけの知識が無いのか、考えるだけ無駄だと思っているのか。


「どうせ捕まるんだろう、 やれ!」


けたたましい金属音が鳴り響く。

それがどれほど続いたか。

目をつぶり、アヤメさんと手を取り合いながら小さくなっていると


「アマーリエ様!?」

「殿下!」


ひときわ大きな叫び声が聞こえてきた。

アマーリエ様に何かあったらしい。

はっと顔を上げ、アヤメさんと腰を浮かせる。


「ちっ  撤収!」

 

バタバタと走り去る音、それを追いかける蹄音。

馬車を降り、アヤメさんと共に学ぶ急いで駆け寄る。

同時に、トネリ様が命令した早馬が王城へと向かった。


指示を出し続けるトネリ様に支えられながら座るアマーリエ様の腹部は、赤く染まっている。


一目見るやアヤメさんは馬車に駆け戻る。

私は悲鳴をあげそうになるのをぐっとこらえ、周囲の者に話を聞く。


「トネリ様が賊の大将らしき者と剣を交えている間に、飛び込んでこられたのです。」

「使者であるトネリ様を、お守りしたかったのかしら。」

「トネリ様が優勢でしたので、殿下の真意は分かりかねますが。

 賊は殿下に傷をつけてはならない、と話していましたから、殿下自らが怪我をすることで戦意喪失させようとしたのかもしれません。」


トネリ様の指示で清潔な布が用意され、ソウビさんが手際よくアマーリエ様の腹部に巻いていく。

コルセットのお陰で、致命傷にはなっていないようだが、出血は止まらず、アマーリエ様の顔色は悪くなる。


アマーリエ様は息を上げながら、か細く微笑む。

「トネリ様…お手数おかけしますわ。」


トネリ様は何度も首を横に振る。

赤く涙を堪えているその目には悲壮感がこもっていた。


「アマーリエ様、なんて無謀なことをされるのですか。

 私が貴女をお守りしたかったのに、御身に傷を負って賊を追い払うなんて。」


傷を負わせてしまったことでご自分を責めていらっしゃるのだろう。

哀れを誘う声に、私はかける言葉もない。

アマーリエ様は、肩で息をしながらか弱い声でつぶやく。


「大きな傷があっては、皇子殿下に嫌がられるかしら。

 痕が残らなければ良いのだけど。」


トネリ様はアマーリエ様の手を握りしめ、きっぱりと告げる。


「いいえ、決してそのようなことはありますまい。

 国のために己を犠牲にする覚悟がある王女殿下を嫌う者などいません。

 安心して、いまは安静になさってください。」


アマーリエ様は安堵したように頷く。

トネリ様が優しく抱き上げて馬車に運ぶ。


先に馬車に戻ったアヤメさんは、アマーリエ様に移動の負担が少なく済むよう

クッションや膝掛けになるものを集めてくれていた。


横になるよう促すも、アマーリエ様は首を横に降り、トネリ様にもたれ掛かるようにして座る。

トネリ様もアマーリエ様の肩を抱き、揺れで落ちぬよう支える。



私は二人と同じ馬車に乗り、アヤメさんたちはもう一台の馬車に乗った。

数名の使者と護衛を連れて城に戻る。

隣国の宿泊先のほうが近いが、アマーリエ様は断として受け入れられなかった。

代わりに賊の捜索人員、負傷した者以外は、予定通り隣国の宿泊先に向かわせた。

予定通りであると隣国に思わせ、賊に襲われた情報が漏れることを嫌ったのだろう。

何があっても、どこまでも、王女としてふるまう姿に悲哀さえ感じた。


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