3章 12
残り少ない家族で過ごす時間を惜しむように、空き時間は常に家族で一緒にいる。
ティールームにいると、あわただしく侍従がやってきた。
パウラ様とクラウディア様が急遽いらしたという。
いつもならば事前に約束をするか、使いが来るためとても珍しい。
そしてお父様とお母様にもお会いしたいという。
不思議に思いながら二人を部屋に通す。
いつものような丁寧な挨拶だが、何処か落ち着きがない。
「お二人とも、お会いできてうれしいですわ。
本日はどうなされましたか?」
お母様が二人に着座を促した後、優しい問いかける。
パウラ様が室内の侍従やメイドにさっと目をやると、お母様が用を言い付け人払いをする。
それを見てパウラ様が固い表情のまま口を開く。
「伯爵夫妻、失礼をお許しください。
ヤズマ皇国のことで急ぎの用件がございます。
反対派が、ヤズマ皇国に帰る使節団を道中襲撃しアマーリエ様を軟禁する計画であることが発覚いたしました。」
その言葉に、お父様の顔色が変わる。
クラウディア様が声を潜める。
「父の元に反対派が来ておりました。
今のところ、父は静観を決め込んでおります。
早いうちに手を打たねばなりません。」
使者団を襲撃すると、我が国とヤズマ皇国の関係が悪化するだけではなく周辺国への影響もある。
王国は気に入らないことがあれば使者を害する国だ、王族を敬わない国だと思われてしまうのだ。
あるいは、立地的に王国とも皇国とも親しくない国からすれば、我が国の悪評だけが伝わることになる。
反対派の多くは、ヤズマ皇国を蛮族だ野蛮だというが、自分たちが使用としていることのほうがよほど野蛮ではないか。
何故それに気が付かないのだろう。
アマーリエ様の貴族院での話をきちんと理解していないに違いない。
「伯爵、反対派へ知られぬよう公爵邸へお越しいただけますか?
使用人の中に密偵がいることを恐れ、父、公爵は私達を使いに出したのです。
私たちがテレーゼさんの元に遊びに訪れるのは、珍しくはございませんから。」
いつものパウラ様ではなく、貴族としての表情だった。
二人の話を聞いたお父様は深く頷く。
「良く知らせてくださった。ありがとう。」
さっと立ち上がり扉を開け、声を張る。
「テレーゼの留学準備の品で急ぎ必要なものがあった。公爵家御用達の商会なら取り寄せても間に合うそうだ。
いまから公爵家にお願いに伺う。先触れを出してくれ。」
密偵がいても良いようにと、嘘をついたのだ。
何も知らずに使い走りをさせられる者には少々気の毒だが、仕方がない。
ドアの外にいた侍従たちが慌ただしく動き出す。
「お二人とも、ごゆっくりお過ごしください。」
お父様は朗らかな笑みをたたえ、緊迫感をまるで感じさせない。
「ありがとうございます、伯爵様。
お父様に、テレーゼさんとたくさんお話したいから帰るのは遅くなると、お伝えくださいまし。」
パウラ様もかわいらしく微笑み、先程の緊張感はどこへやら、
公爵様からの伝言などなかったかのような態度だ。
お父様が出かけた後も、部屋は人払いをしたままだ。
お母様が紅茶を入れてくださる。
二人は少し遠慮していたが、娘の友達をもてなしたいと言われ嬉しそうだ。
「テレーゼも襲撃に合わないか心配だわ。」
お母様の心配そうなつぶやきに、パウラ様とクラウディア様も小さく頷く。
「おそらく、日をずらすことになるかと思いますわ。
アマーリエ様と共に使節団の先発隊に混ざり、敵を欺くのです。
悟られてしまうため多くの護衛はつけられませんが、本隊よりは襲撃の可能性は低いかと。」
先発隊は少人数だが、行く先々の宿泊先や食事処などの手配をする。
むろん、事前に決めて予約もしてあるが天候などで変更になることもあるため、調整が必要なのだ。
「そう…。テレーゼが旅立つ日が早まってしまうのね。
隣国まで一緒に行きたいくらいだわ。」
隣国への貴族の行き来は、珍しいことではない。
仕事だけではなく、旅行で訪れることもある。
さすがに皇国と王国の使者団が滞在するので、
一般貴族の出入りは隣国にとって迷惑になるだろうと、
その期間は仕事以外での出国を控えるよう通達があるくらいだ。
さみしそうに微笑むお母様は、儚く見える。
パウラ様とクラウディア様もお母様を見て心に来るものがあったようだ。
「伯爵夫人。テレーゼさんが留学している間も、私達遊びにうかがってもよろしいでしょうか?
アマーリエ様のウェディングドレスの製作責任者を任されておりますの。
儀礼や典礼に詳しい夫人に、ぜひご意見賜りたいのですわ。」
「まあ、嬉しいわ。
お二人が来てくださるなら大歓迎よ。
ドレスの資料もたくさん用意しておきますわ。」
私もお母様も、二人の気遣いをありがたく受け取る。
さみしくないようにと遊びに来てくださることに感謝し目配せすると、二人も嬉しそうに笑ってくれた。




