3章 11
貴族院は、荒れに荒れた。
もちろん私は参加できないので、お父様から聞いた話だ。
反対派の貴族たちは、国王が国交樹立のサインをするときに声を上げたそうだ。
しかし、公爵家や侯爵家といった権力を持つ家々が賛成派だったために、その声はすぐに沈静化した。
次いで、アマーリエ様がヤズマ皇国に嫁がれることが発表されると、場内は騒然とした。
国交樹立反対派からは猛反発が起こり、国交樹立には賛成していた一部の貴族たちも、ご結婚に反対した。
臨席されたアマーリエ様が反対派に問いかける。
「何故反対なさるのです?
ヤズマ皇国は野蛮な国だと信じていらっしゃるのですか?
使者団の方々を見ても、そう思いましたか?
文化の種類がちがうだけで、生活水準は同等に感じましてよ?」
貴族たちは、調印に立ち会うトネリ様や使者団を見て押し黙る。
「いままでも国交がある国とは、王族同士、あるいは公爵家などが婚姻を結び合い、国同士の信頼関係構築を図ってきました。
ヤズマ皇国とも、結び付きを強くするための婚姻ですわ。」
王族が他国に嫁ぎ、あるいは他国から嫁がれてくることは当たり前である。
その繰り返しで、国の平和と繁栄が築かれてきたことを貴族ならば熟知しているだろう。
良く知らない国だからこそ王族が率先して嫁ぐことで、外交も交易もスムーズに行えるようになる。
アマーリエ様はそうお話になったそうだ。
賛成派は、さすがは王女殿下とほめたたえるが、反対派は簡単に納得しない。
「しかしヤズマ皇国は遠すぎます。国内情勢も分かっていないのですよ。」
「王女殿下を人質に取られたようなものだ。」
「嫁がれるにしても、もっと交易をして、皇国を知ってからでも良いではないですか。」
婚姻反対派といえど、皇国に一切関わりたくない者からアマーリエ様を心配している者まで様々だ。
アマーリエ様は悠然と微笑をたたえる。
「ご心配、いたみいりますわ。
ですが、王族としての勤めを果たすまでのこと。
相手国が近くても遠くても、同じです。
交易などで王国に利をもたらせるよう、現地で采配を振るえるように努めますわ。」
皆を安心させるために国王も説明をした。
「今回は婚約まで一年、婚儀はさらに半年後と猶予をつけた。
その間に互いの国をより良く知っていこうではないか。
万が一、アマーリエと皇国の生活、あるいは我が国と皇国の相性が合わなければ婚約破棄をするという条件もつけておる。
むろん、アマーリエを害するようなことがあれば、我が国と手容赦しない。
これは決定事項である。其方らの意見で婚姻を取りやめることはない。」
お父様からの話を聞き、アマーリエ様らしいなと感じた。
自分のことよりも、国のことを考えていらっしゃる。
「まあ、そのような流れで賛成多数となりアマーリエ様に拍手を送ったが、反対派は納得はしていなさそうだな。
親の仇を打つかのような、憎悪の目で使者団を睨み付ける者たちもいたようだ。
テレーゼも外出の際は気を付けるように。
あと二週間、何事もなければ良いのだがな。」
「はい、お父様。」
正直、出立の準備が忙しすぎてアマーリエ様やパウラ様とお会いする以外に外出することは無い。
私を気遣って、パウラ様たちが来てくださることのほうが多いくらいだ。
王宮へ続く道は普段から警邏がおり、私の馬車にも護衛がいるので安心だ。
「ところで、サミュエル様もご一緒だが何かお話はしたかい?」
「打ち合わせは何度もしていますが、個人的にはなにも。
あ、出自についてはうかがいましたわ。」
お父様は何も教えてくださいませんでしたけど。
言葉にはせず、心のなかで呟く。
お父様は小さく頷く。
「そうか。留学中にで親しくなるかもしれないが、王族の方だからご無礼の無いようにな。
異性だということを忘れず、節度を守るように。」
親しくなるのだろうか?
パウラ様に向けていたあの視線を思い出す。
仲間意識は芽生えるだろうが、男女間における親しさは覚えないだろう。
それは口に出さずに、しっかりとお父様を見据えて伝える。
「弁えております。
サミュエル様はアマーリエ様の次に皇国で頼りになる方ですが、男性としての興味はございませんからご安心ください。」
お父様は虚をつかれたような顔をする。
サミュエル様と顔を合わせる機会が増えていることはお父様もご存知なので、噂を気にしていたのかもしれない。
「ついでに申し上げますと、見ず知らずの婚約者殿にも興味はありませんので。」
にこりと笑い、一礼してから辞する。
もし、婚約者殿がサミュエル様との噂を耳にして不快に思えば婚約破棄してくださるかもしれない。
家名に傷が付くかもしれないが、私は痛くも痒くもない。
帰国しても噂がくすぶっていたら、それを利用しなくては。




